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外部法律事務所の法律意見の審査

1.某上場企業での事案ー法律意見を取ったは良いが・・・
某上場企業にて、当該企業が実行した詐欺の疑いもある投資案件に関して債権回収の不能又は遅延のおそれが生じているという件が問題となっている。外部の弁護士らを起用した調査委員会の調査報告書によると、当該企業内部の法務部が、投資先が必要許認可を得ていない可能性等について問題提起したにも拘らず、外部法律事務所に契約書の記載内容の確認内容のチェックを依頼し、問題ないとの説明を受けたという記載が、当該投資案件を推進した取締役からの聴取内容として記載されている。当該調査報告書では、当該取締役が、リーガルチェックを行った従業員に対して、「契約締結できなかった場合の損失について責任が取れるのか」などと言って、当該従業員からの指摘事項に対応しないまま、当該投資案件の契約を取締役会に上程した旨の記載もある。

2.外部法律事務所の相談への法務部の関与ー全件は非現実的か
そもそも内規上、外部法律事務所への相談全てを、法務部の承認又は何らかの関与を経て行わなければならないものとするかどうかという問題がある。企業規模にもよるが、様々な取引が行われる企業において、外部法律事務所への相談全てを、法務部の承認又は何らかの関与を経てから行うことは現実的ではないであろう。この点例えば、案件によって濃淡をつけて、重要案件については法務部が入って事前検討を行い、論点整理をしたり、外部法律事務所への提供資料を精査することは、複雑な案件では特に、プロセスを効率化したり、論点の見落としを防ぎ、充実した法的検討を行うのに有益な場合もあると思われる。そのような場合には、外部法律事務所への相談のスコープや外部法律事務所に共有する情報を内部の法務部で事前に把握、コントロールすることが可能となる。

3.出口での法務部の関与ー稟議プロセスへの組み込み
外部法律事務所への相談について、事前に法務部が関与しない場合、法務部は、稟議のプロセス等を通じて外部法律事務所の意見やその作成した契約を審査することになる。上記の某上場企業の事案で、このような出口での内部の法務部によるチェックが当該企業の内規上義務付けられていたかは不明であるが、少なくとも上記調査報告書に記載された事実からすると、当該投資案件を推進する取締役が依頼し取得した、外部法律事務所の意見をもってリーガルチェックを完了したという整理をしたように見受けられる。このような、事業部サイドで取得した外部法律事務所の意見の審査を法務部が行わないことを許容する内規を持つことは非常に危険と思われる。事業部サイドで、外部法律事務所の審査の対象事項のスコープを非常に限定したり、事業部サイドで、法律意見の内容を誤解している可能性もあるからだ。

上記事案について言えば、上記調査報告書には、上記企業内部の法務部が、投資先の必要許認可がないことについて指摘したとの記載がある。これは刑事罰の適用もありうるところで、投資元も様々なリスクを負うことから非常に重要な指摘といえ、この点について深掘りされなかったのであれば残念としか言いようがない。上記調査報告書では外部法律事務所の意見については詳細な記載がないが、もし上記調査報告書の記載の通り、「契約書の記載内容のチェック」のみを外部法律事事務所の作業スコープとしていたのであれば、調査不十分と言わざるを得ない。また上記事案では、投資先の許認可を含む、スキーム全体の適法性について、投資先からその外部法律事務所の意見書を徴求することも考えられたところである。

さらに、外部法律事務所の意見書内容の誤解というのも実際にある。筆者の経験では、事業部サイドで外部法律事務所から素晴らしい意見書を取得したというので何かと問うてみると、典型論点で結論はどの本を見ても「否」であるのだが、事業部によると、当該論点について「可」という結論の意見書だという。さすが一流ローファームだ、と自慢げに胸を張る事業部に対して、「それは素晴らしいですね」と筆者は一言言ってから、冷静に当該意見書を取り寄せて内容を見ると案の定、当該意見書には冒頭で、それが当該典型論点に関するものではなく、別論点に関するものであることが明確に記載されており、筆者は呆れ返ってしまった。挙句の果てには、余計な事例などを上乗せしたため、分析が複雑となり、数百万円は下らないであろう代物となっている。それを取得するのに、事業部は一所懸命、外部法律事務所と空中戦を繰り広げていたのだろう。どの論点についての意見書かというレベルで、最初から最後まで噛み合っていないのだから。このことから一つ言えることとしては、事程左様に、法的素養が十分でない事業部にとって、外部法律事務所から適切に法律意見を取るという行為は、決して容易なものではないということだ。

これらの点は、一般的には審査すべきとよく言われている、法律意見書において前提や留保が適切に付されているかといった基礎的なこととは異なる、法律意見書の内容の枠外で起きる問題である。筆者の経験上は、法律意見書の内容以前の、法律意見書が作成されるプロセス自体の部分で問題が起きることが圧倒的に多いという印象である。

4.外部法律事務所の意見の活用方法
法律意見を、どのように経営の意思決定に生かしていくか。これは法務面に関して言えば、ある程度チェックリストのような形で、項目をリストアップしたものがあると望ましい。外部法律事務所の意見は、そのリストの中の要素をチェックするための一つの道具に過ぎないという位置付けを明確にする必要がある。上記事案でも、上記調査報告書においては、内部の法務部が、上述の投資先の許認可の他、契約締結前交付書面等の顧客交付書面、投資契約の内容など多角的な観点からリーガルチェックを行ったことが記載されている。取引類型別に、許認可、適法性、契約内容等多角的な観点から、ある程度の審査基準や検討項目などを策定しておき、内規として機能するようにしておくことで、内部の「声の大きい人間」によるゴリ押しに対抗しうる材料となりうる。もちろんそれでも、役員自らが内規などものともせず従業員を威圧して案件をゴリ押ししてくる可能性はないとは言えないが、組織内弁護士は違法行為やその可能性があれば、弁護士職務基本規程上の義務に配慮し適切なレポーティングなどを行う必要があるとしても、基本的には当該役員自身のの善管注意義務違反の問題となろう。

また、事後の管理プロセスも欠かせない。外部法律事務所の法律意見書では、ある行為を行うこと、又は行わないことが前提等として示されることがある。そのような事項については内部のプロシージャーなどに組み込む他、必要に応じてモニタリングプロセスなどを設定し、実施状況を事後的にチェックする必要が出てくる。

5.外部法律事務所による内部の法務部の「説得」
ところで観点は変わるが、外部の法律事務所が内部の法務部を「説得」して案件を完遂させる、という言説を時折目にする。内部の法務部が法律の適用に長けていないので、適用法令からすれば本来許容されるべきラインよりかなり上に線を引いて、厳格になりすぎてしまっている、という考えが裏にあると思われる。では内部の法務部からも疑問を一つ。外部法律事務所に事業部から全てが開示されているという保証は果たしてあるだろうか?筆者自身は「説得」されたことはないが、将来的に「説得」の場面に幸運にも将来的に立ち会うことがあれば、その点の検証から行う必要があろうかと考えている。その上で、特段の留保等の追加なく、当初の結論を維持したご意見をいただけるのであれば、もちろんこちらも大歓迎だ。



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