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戯言秘抄 続いては

どんな趣向だ。この異能ぶりが友人のいう「面白い」なのだろうか。改めて見てもそこに描かれているのは彼女そのものを写したものとしか思えない。使われているケント紙やポスターカラーの感じは、昨日今日描かれたものには見えない。

そもそも今日初めて会ったばかりの京円が彼女を知っている可能性があるだろうか。いやあるのだ。でなければここまでそっくりに描くことはできない。だとしたら、この男との出会いは偶然なんかではない。どうする?ここで悪い癖がでる。なんだか面白くなってきた。

「なぁ京円さんといったかな、ご自慢のアートは連作じゃないのか。続きがあるはずだ。それを見せてくれるわけにはいかないのかな」

「いやなかなか。その落ち着きぶり結構じゃございませんか。ご明察の通り続きものに違いはございません。ようがしょう。おのぞみとありゃあお見せしやしょう。ただここじゃ少々具合が悪いんで‥」

あくまでも芝居仕立てで話を進めるつもりらしい。こうなったら乗るしかない、おれは覚悟を決めることにした。

「見せてもらうにはどうしたかいいんだい」

「いささか準備もありますんでね。今日の明日のというわけにゃあいかないんで。どうでしょう一月と少々先の5月の下旬、そう28日あたりでは」

さてどんな仕掛けを見せてくれることやら。ただしそれだけあればこちらもそれなりの手は打てるというものだ。

「5月28日ね、どこに行けばいいのかな」

「わざわざ足を運んでいただくには及びません。あたしの方から旦那のお宅へ参りましょう」

てっきり、どこかへ誘い込まれるものと思っていたが意外な返事だった、それにしても準備が行き届いている。

「そうか知ってるんだ。ボクがどこに住んでるのか」

「いやいやなかなか落ち付いてらっしゃる。流石は御堂家のお血筋ですな」

「御堂家?」血縁関係どころか聞き覚えすらない。それにしてもまるで昔の少女漫画か、NET小説にでも出てくるような名前だ。

「一つ聞きたいんだけどね。その漫画とか厨二病的な御堂なんとかと、ボクがどういう関係だと思ってるんだい」

「おや?お聞きになってらっしゃらない?これは迂闊でしたな」

「迂闊ついでにその辺のこと教えといてくれないか」

「そいつはこの先のお楽しみってことにしていただいて。では5月28日そうですね14時に参上いたしましょう」謎めいた笑顔を残して京円は溶け込むような動きで人混みのなかに消えていった。まるでムーンウォークだな。でなかったら歌舞伎?京円という名前を語るあたりからすると役者のマネごとでもしていたのかもしれない。

手始めにwebで京円と検索するとヒットしたのは106,000,000件。+名前で複合検索しても34,200,000件。だめだこれだけではわからない。

御堂家については中臣鎌足が天智天皇より賜ったことに始まる藤原道長に御堂関白の称号とあった。また、現福岡県の一部と大分県北部である豊前国宇佐郡の豪族に御堂氏という一族がいたらしい。現代では愛媛県に多い名字だという。

東京、神奈川、大坂、福岡など大都市圏で多いのは当然だが、愛媛というのがわからない。発祥の地が大分だとして、一族挙げての移住でもあったのか。疎遠になっている実家や親戚に聞くというのも手だろうが、とりあえず「御堂家」云々は当日までのお楽しみにしておくことにした。ここは無邪気な観客を決め込んでみよう。それが生来のなまけものを自認する私にはふさわしくも思えた。

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