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妖怪たちは自由を求めた





 誕生日および皆既月食そして惑星食が起きた。400年くらいに一回起こる珍しいヤツだ。 皆既月食の翌日は犬と出かけるために車を運転する、ガソリンランプが点灯した軽自動車からは「お腹空いた」という声が車から聞こえた。ガソリンスタンドで彼の腹を満たしてやり私と愛犬は目的地へと向かった。 家から直接向かっていれば通ることのない道を走っていた。日中の道は混んでいて車たちはトロトロ走る。軽く舌打ちをしながら目の前の車を眺めていた時、目の前から見覚えのある車が走ってきた。一瞬の出来事だったのでなにもできず、サイドミラーに目をやるとアオリが全開に開いたピックアップトラックが走り去っていくのがみえた。 

 数時間後、彼は私の家を訪ねてきてはスキーの国へ行くことを告げる。「俺も行っていいかな?」なんてふざけてわたしは言った。その後彼は早朝のスキーの国へと電話をかけた。 時差ボケが抜けていない二人は爛々としながら私たちと会話をする。しばらくの間電話の先から聞こえる彼らの声を聞いているとふざけていた自分はだんだん本気になっていく。なぜかは全くわからないが良い流れを感じ、頭の中に雷が落ちたようだ、一瞬脳内が停電した後に復旧しすさまじいスピードで回り始めるのだ。 「珍しいことが起きる日」だなくらいにしか思っていなかったその日は「本当に珍しいことが起きる日」となったのである。ある意味これは私のバースデイなのである、あのナレーションが勝手に脳内を流れた。

 32歳になったばかりのわたしは自由のために戦う彼らに会いに行く旅に出ることとなった。 そしてテンションの上がった、根拠のない自信がみなぎる私はパスポートを探すために家の中を見渡すのだが見つからない。「32歳児」そう呼ばれるのも無理がないと思った。 

 皆既月食は私に不思議な力を与えたのかもしれない。それでは振り出しに戻ります。



16.Nov.2022







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