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AIが中小企業のビジネスマッチングを変える!-レコメンド機能の開発から見えた可能性とは

はじめに

こんにちは、データグループの岡﨑と申します。私たちは、弊社のビジネスマッチング機能にAIレコメンド機能を追加するための開発を進めています。
AIレコメンド機能を使用することで、各企業の特性に合わせた商談内容(ニーズ)が自動で表示され、ビジネスパートナーの候補を簡単に見つけることができるようになります。
本記事では、このレコメンドモデルの製作過程を簡潔に紹介させていただきます。

レコメンド表示画面(サンプル)

想定する読者層

おすすめの読者層

  • AIに興味を持っている方

  • ビジネスマッチングに関心がある方

おすすめしない読者層

  • AIや機械学習の専門的な知識を深く学びたい方


ビジネスマッチングについて

サービスの概要

Big Advanceは、地域の中小企業の成長を支援するプラットフォームです。その主要機能として、ビジネスマッチングがあります。

ビジネスマッチングでは、企業は自らの求めていることや提供したいことを「ニーズ」として登録できます。たとえば、「りんごの新しい販路を探している」や「高品質のTシャツの生地を求めている」といった形で、自分たちのビジネスの要望や期待を示すことができます。ビジネスマッチングを利用することで、新しいビジネスのチャンスや、共に成長できるパートナーと出会える可能性が広がります。

「ニーズ」のイメージ

実際のビジネスマッチング成功事例については、弊社の公式HPをご覧ください。

例として、りんご農園を経営する中小企業が新たな販路を探しているとしましょう。マッチング機能の使い方として、次の2通りの方法が考えられます。

  • ニーズを探しにいく:
    公開されている全国のニーズの中からりんごを買ってくれそうなニーズを持つ企業を検索で見つけます。
    例えば、フルーツパフェを提供する喫茶店、りんごスムージーを販売する健康食品業者、物産展を開催するデパート… が対象として考えられるでしょう。
    その後、それらの企業に商談依頼を送ります。先方から面談OKのご連絡がくれば、面談ののち、条件を確認して商談成約へと至ります。

「ニーズを探しにいく」イメージ
  • ニーズを登録して待つ:
    自社のりんごのアピールポイントや単価などを記入し、ニーズとして登録します。そして他の企業からの商談依頼を待ちます。商談依頼が来た後の流れは、上記と同様です。

「ニーズを登録して待つ」イメージ

課題

ビジネスマッチングによって多くの商談が生まれています(2023年3月31日時点の累計商談依頼件数: 121,942件)。一方で、課題もあります。
特に、ニーズ検索のハードルの高さが挙げられます。各企業が全国の多様なニーズから、自社の目的に合致するものを特定し絞り込むためには、検索キーワード(上の例ならば「物産展」「喫茶店」「健康食品」など)や検索条件を独自に設定し工夫する必要がありました。「このステップを自動化できないか」、「もっと気軽に、テレビを見るような感覚で、適切なニーズが自動的に表示されるようにできないか」と常々思っておりました。
この課題を解決する方法として、AIを用いた自動レコメンド機能の導入を考えました。

レコメンドモデルの解説

私たちは、次の仮説に基づいてレコメンド機能を開発しました:

  • 「買いたい」というニーズを持つ企業と「売りたい」というニーズを持つ企業間は、マッチングしやすい。

    1. (すべての登録ニーズには、「サービス・商品を売りたい」「サービス・商品を買いたい」などのニーズの種別が作成時に登録されています。)

  • 内容が似たニーズ文章を持つ企業間は、マッチングしやすい。

  • 内容が似たニーズ文章を持つ企業間でも、「買いたい」企業同士や「売りたい」企業同士はマッチングしづらい。

上述の仮説を基に、レコメンドは以下の手順で実施されます:

  • まず、2つのニーズ文章が与えられたとき、それらがどのぐらい似ているのかを表す「類似度」を定義します。 類似度の具体的な定義方法については、次のセクションで詳しく説明します。

  • その後、全ての「買いたい」ニーズと「売りたい」ニーズの組み合わせに対して、類似度を計算します。

  • そして、各ニーズについて、例えば「買いたい」ニーズに対しては、その中で最も類似度が高い「売りたい」ニーズを、逆に「売りたい」ニーズに対しては、その中で最も類似度が高い「買いたい」ニーズを推薦します。

類似度の決め方について

このセクションでは、2つの文章や単語の組の「類似度」、すなわち、それらがどれだけ意味的に似ているかの度合いを定義する方法について説明します。
言葉の背後には意味があります。しかし、コンピュータは「意味」を直接理解することはできません。それでは、どのようにしてコンピュータに単語や文章の「意味」を理解させるのでしょうか?
ここで、数学の力を借りることを考えます。私たちが日常で感じる「意味」を数値化して、コンピュータが計算できる形に変換します。
具体的な例を考えてみましょう。皆さんはWord2vecという技術を聞いたことがあるでしょうか?これは単語をベクトル(=数値の組)として表現する技術で、驚くべきことに、単語間の計算が可能になります。例として、「王様 - 男性 + 女性」の計算をすると、「女王」という答えが得られます。これは、単語の「意味」が数値として捉えられているために実現できることです。
この考えをさらに発展させて、私たちのニーズの文章もベクトル化しましょう。そのために、BERT(バート)という機械学習モデルを利用します。BERTは大量の日本語データを学習しており、文章や単語を高精度でベクトル化することができます。
例えば「りんご」「フルーツ」「工事」「施行」という単語がBERTによって次のようにベクトルに変換されたとします。

  • りんご → (4.0, 2.2)

  • フルーツ → (3.5, 2.4)

  • 工事 → (-3.1, 2.3)

  • 施行 → (-2.2, 2.5)

(今回は簡単のため2次元のベクトルを用いて説明していますが、実際のBERTモデルでは768次元(!)のベクトルを使用します)
この場合、変換後の4つのベクトルは、次の図のように平面上に描くことができます。
このとき、「りんご」と「フルーツ」といった意味の似通った単語のベクトルの組は近く(角度が小さく)、「りんご」と「施行」といった意味が似ていない単語のベクトルの組は遠く(角度が大きく)に配置される傾向があることが知られています。
ベクトル間の角度が小さければ類似度が大きく、大きければ類似度が小さくなるように類似度を定義します(正確には、類似度の定義としてベクトル間の角度のコサインを用います。それゆえ、この類似度はコサイン類似度と呼ばれます)。

レコメンドの効果

2023年8月現在は、一部の企業を対象にレコメンド機能のクローズドテストを行っている段階です。 レコメンドの効果をモニタリングしつつ、今後のモデル改善に繋げていけたらと思っています。

今後の展望と結び

本記事を通じて、AIを活用したビジネスマッチングレコメンドについての取り組みをご紹介しました。
弊社のAIレコメンドプロジェクトは2023年4月にスタートしましたが、まだまだやるべきことが多く残されていると考えています。具体的には、次のような事項が今後の課題として挙げられます。

  • レコメンドへの反応データを用いたモデルの改善

  • ニーズの文章データを用いたBERTの再学習

  • クリック履歴や属性情報を用いた新たなレコメンドモデルの開発

  • レコメンドモデルの他の機能への転用(例えばチャット機能、ホームページ機能など)

私たちは、中小企業の成功のために、このプロジェクトを更に進化させて参ります。
長文にお付き合いいただきありがとうございました!

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