笑ってはいけない大宴会④~罠(trap)~


 大宴会の会場というのが3つ列んだ“大宴会場”を仕切る襖を全て取り払ったぶち抜きの……麻雀に例えるなら『三倍満』に相当する広大な大広間でありまして、一段高い“舞台”を皮切りに一人づつ用のお膳が横20人分の10列。
 これが組織の関係者席。
 その後ろに、飲み物食べ物を運ぶホテル従業員用の通路が五人横並びになっても大丈夫な広さを確保した幅でありまして、そこから11列目が始まり20列目まで。また通路がありまして21列目……という風にセッティングされております。
 “動員”がかけられていたせいもあり、来賓も含めた参加者は総勢700名を超えていたといいます。

 さて、“生肉背負ったダチョウ倶楽部”ことI塚さん・O久保ちゃん・Tさんの三人は何処に居るかと言うと、何と11列目の中央。
 目立つ目立たない以前の問題で『逃げ場無し』。
 そらね、Tさん曰く、
 「何を食べても味なんぞ分からんし、どんだけ酒飲んでも酔いが来なかった」
 何しろ通路を挟んだ前列には組織の方々、舞台からは丸見え、何か粗相があれば何一つ言い訳の利かんポジションです。加えて横に居るのは“空気を読まん事にかけては日本一”のO久保ちゃんですから。

 で、これだけの大宴会ですからこれを仕切ります司会者はさぞかし名のあるプロに任せとるんだろうな、と思いきや黒ずくめにどパンチの組織の方で、緊張がK点を超えてもはや赤いのか青ざめとるのか分からん顔色になっております。

 『大丈夫か?こんな所でトチったら、一生ジャンケンでグーしか出せんようになるのと違うの』

 参加者全員が着席した所で、司会者がマイクを取ります。
 「え~、開会に先立ちまして、新会長就任を祝して遠路はるばるおこし下さいました広島のオジキをお迎えしたいと存じます。どうぞ!」
 10列目までの組織の皆さんが“万雷の拍手”を始めるもんですから後列もそれに倣わねばなりません。
 Tさんも、それこそ両の掌の生命線と頭脳線から血飛沫が上がらんばかりの勢いで拍手しましたよ。
 サボったら一発でバレる席なんですから。

 Tさんとしては、広島のオジキさんは舞台袖の襖を開けて登場なさる、と思い込んでいたんですが、組織関係者の皆さんが全員、後列の方を向いて拍手されとる。

 『最後列から練り歩くって、どんだけ時間かかるんや?』

 拍手が始まってから、大御所芸人ばりの“たっぷりとした間”を置いて、列の最後尾の更に後ろの角の襖がしずしずと開いて、まず姿を現したのは黒ずくめの若い衆。
 その両肩にはシワシワの手が置かれておりまして、少し間を置いて後ろにも黒ずくめの若い衆が二人並んで。
 ところが後列の若い衆二人が何故か揃って心持ち前傾姿勢で歩き始める。
 この三人の“行進”が始まって暫くするとそのカラクリご明らかとなります。
 先頭の若い衆の肩に手を置いて、何処かの病院から抜け出して来たとしか思えないパジャマにガウンをがっちり着込んだ弱々しげな御老人が息も絶え絶えな前傾姿勢で歩いとるんです。後列の二人は御老人が転倒しないよう腰の辺りに手を添えて支えていたんです。

 『アカンて~。あんな御老人に行進させるなんて、ただの拷問やんか』

 と、Tさんが心の中でツッコむほどに、御老人の足取りは重く、口が開いて肩で息をされとる始末。
 
 まぁ、普通に考えれば最初から“VIP待遇”の席にお座り頂く方が優しい、と誰もが思いますけど、こうして“入場”を粒立ててるという事は、それだけこの“広島のオジキ”さんがその世界では大物中の大物、所謂『重鎮』的な存在の方なんでしょう。
 門外漢の庶民には、ただの弱々しい“カウントダウン、押し詰まってるやん!”な御老人にしかみえませんけど。

 これがね、前後を固める三人の若い衆とのコントラスト、更にこの場と全く合わないパジャマにガウンという出で立ち、“オジキ”という肩書きと実像のギャップが相まって、しかもこの行進が長い事も加わって、段々面白くなってくるんです。
 横のO久保ちゃんに至ってはもはや爆笑寸前。
 「O久保ちゃん、死にたくなければ我慢しろ!俺らも巻き添え食らうんだからな」

 『こんなん罠やん!笑かしにかかっとるって!!』

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