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どこにも光がない

この世界の一面が美術館で見られるならば、あなたは何を思いますか?

ここは、とある美術館
今日は久しぶりの休館日
お客のいないこの美術館で、職員が黙々と仕事をしている

学芸員:『今日は、静まりかえっているわね・・・あっ、館長、おはようございます』

館長 :『おはよう。今日は作品達がとても輝いているね、息を吹き返したようだ』

学芸員:『館長、お寝ぼけ遊ばしているんじゃないですか?今日はいつもより照明は暗いし、作品の入れ替えがない部屋は、照明を切ってるんですよ』

館長 :『確かに現実的にはそう見える。でも僕には、人の目に触れない方が何倍も生き生きとしているように見えるんだ』

学芸員:『また、あれですか。精神世界の話ですか?もうあれを聞き出すと、この世がひっくり返ったように感じて、車の運転もろくにできなくなるんですもん』

館長 :『あはは、そう言われてはなぁ』

学芸員:『でもまあ乗りかかった船だから、最後まで聞きます。館長、続きはなんでしょうか?(笑)』

館長 :『うん。ここにある作品達を見に来る人たちは、どんな気持ちで見に来ると思うかい?』

学芸員:『そうですね~、きれいな物や美しい物が見たいとか、普段お目にかかれない珍しい物を見たいとか、そういう気持ちだと思います』

館長 :『そう。作品を見に来るのが目的の人たちにとっては、その輝きを見に来ているんだ。自分では用意できない輝きを、目の前で見ることによって、一瞬自分の物になったかのような錯覚を起こす。普段の生活においては、なかなか得ることのない満足感に近いと僕は思っている』

学芸員:『じゃあ、なんで人がいない方が生き生きしてるんですか?人がいると何か不都合なことでもあるんですか?』

館長 :『自分が作品になったと思ってごらん。ここの作品達同様、あなたの輝きに人が群がってくる。その目をどう見るかね?嬉しいか?』

学芸員:『自分に自信があるときは、”そうでしょ、そうでしょ”と思うかもしれません。でもなんか奪われそうな気がして、私を見ている目が怖いと感じますね。嬉しいとはなんだか思えない・・・』

館長 :『うん、だから僕は思うんだ。作品達は、すぐに群がる人たちには本当の輝きを見せてはいないんじゃないかとね。自分の大事なものはちゃんと隠しておく。そして人がいなくなると、隠す必要がなくなり生き生きしだす。特に作品の解禁日には、目立つ場所に置かれながらも、気分はひっそりと佇んでいるだろう・・・』

学芸員:『なるほどですね。そういうことなら、人がいない方が生き生きしてる感じはつかめました』

館長 :『でもね、そうすると奇妙なんだよ。みんなは一体何を見に来ているのか?って思うんだ』

学芸員:『それは一体どういうことですか?』

館長 :『作品を見に来ている人たちは、自分にない輝きを求めてくるから、彼らに輝きはない。そして、作品も自分の輝きを隠している。つまり、そこには輝きという光がないんだ。スポットライトを当てているから、光っているように見える。あの絵を見てごらん。スプレーアーティストYASUKIの”崖の上の守護神 Guardian on the cliff”の絵を』

学芸員:『あの月の光に照らされた鬼の絵ですね』

館長 :『あの絵から色んなことを気づかされたんだ。今回の話しもそうなんだよ。人は、輝いていると思っているものに飛びついているけれど、あの絵のように、月の光をつかんでいるだけなのかもしれない。人は皆、それぞれ自分にない輝きを求めている。そこに太陽は存在しない。つまり、人は闇の中をうろうろしている』

学芸員:『館長はあらゆるものから気づきを得るんですね。色んなことに気づかされたっていうことですが、他にはどんな気づきがあったんですか?』

館長 :『そうだな。個人的なことを言えば、ぱっとあの絵を見たときに、自分の理解力のなさを思い知ったな。何年この職に従事していても、まだ自分には知らない未知の世界があると痛感したよ。そこに込められた意味をうかがい知ることができなかったんだから。あとは、作品が見る人を選んでいるということかな』

学芸員:『作品が人を選んでる?』

館長 :『そうだよ、作品は自分の光をしっかり持っている。だから実は、ある意味で太陽ということもできるんだ。さっきは、人間模様を表すために、スポットライトで光ってるだけって言っちゃったけどね。ただ太陽と違う点は、輝きをコントロールできるということ。作品が輝きを見せる相手には、そこに込められた意味が分かるようになっているんだよ。僕はまだ分かっていない。つまり僕は、月の光に照らされている。僕はまだ認められていない』

学芸員:『館長でもですか?』

館長 :『その人次第なんだ。月の光に照らされてようよう光る人ではなく、自分の光をしっかり持っていて、奪われないように持てる人。自分と同じ人になら、自分の大事なものを見せられる。きっと、そういうことなんだろうな・・・』


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