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ダナンに行ってきたんダナン

そうだ、ダナンへ行こう

5月8日緊急事態宣言が明けて、3年間続いたコロナ禍の空気がようやく緩んだ2023年初夏。
どこかへ行きたい、どこへ行こう。この3年間に国際情勢が色々あり、サーチャージ代は跳ねあがっている。ヨーロッパへ行くにはロシアの上を通れず、往復するには地球一周をしないといけないらしい。
そんな思考がぼんやりする中でいつも通り将棋中継を見ていたら、棋聖戦の挑戦者が決定した。佐々木大地七段……奨励会三段時代に日本将棋連盟主催のレディースセミナーで講師をしていた。四段に上がってもふらりと立ち寄ったり、気さくで優しい若者が、タイトル戦挑戦者とは感慨深い。
将棋をしていると「あの頃あの棋士に会った」という思い出が沢山出来るので、細く長く将棋ファンを続けていたい。

そうこうしているうちに、ダナン対局が始まった。
棋聖戦は若手のタイトル戦ということで見た目も清々しいが、それよりも目が釘付けになったのは、画面からあふれる南国の風景!食べ物!!エキゾチックなエピソード!!!

そうだ、ダナンへ行こう。

ダナン国際空港。「東洋のハワイ」と言われているらしい
ちなみにタイトル戦でお馴染みの指宿も「東洋のハワイ」

2日制のタイトル戦第一局目が終わるころには、旅行代理店のホームページでダナン行きを探しているのであった。

東京からダナンへ行くには色々あるが、ハノイまたはホーチミン経由または成田発ダナン直行便が多い(現地に行って知ったのだが、訪越外国人第一位は韓国人らしく、仁川経由も多い)。
奇しくも棋聖戦の始まる1日前からダナン直行便が就航再開したらしい。対局者もスタッフもきっとこの飛行機に乗ったに違いない。何より渡航時間6時間という最短だったので、金で時間を買うサラリーマンは成田発の直行便で向かうことにした。

3年ぶりの海外旅行ということで事前に旅行ブログを読み漁ったが、やはり世間の動きも同じようで、ダナン情報もコロナ禍前のものが多い。自ずと不安になったが、意外とスムーズに手続きを終えて出国ゲートに向かった。

ベトナム航空の洗礼

ベトナム航空は国の花である蓮が描かれている

6時間の旅は、10時30分に出発するが時差の関係で到着時間が14時30分という、何だかお得な旅程だった。とはいっても、実際には6時間しっかり機内に押し込められているので、楽しみは食事ぐらいしかない。私の海外旅行のルールとして、朝食を除いてできるだけ食事のお供は酒というのがある。当然、機内食もビールを注文した。キリンとベトナムビールがあったが、もちろんベトナムビールだ。

「ICE?」

ジュースを注文するカップに氷を入れるついでのように客室乗務員は尋ねる。
酒の一滴を薄めるとは何事だ!勿論「No,ICE!」と答えて、缶ビールをそのまま受け取り口に含んだ。

ぬっる!
ちょっとひんやりしている気がしないでもないが、冷えていない!!

ガイドブックに「ベトナムでは昔、各家庭に冷蔵庫が無かったのでビールを冷やす習慣が無く、ビールを飲むときに氷を入れる」と書かれていたが、既に機内食から冷えていないとは!
まだ台湾上空ぐらいだったが、機上はすでにベトナムだった。

美味しそうだろ。このビール、ぬるいんだぜ

YOUは何しにダナンへ

旅立った8月末の東京は連日40度近くあり、とにかく蒸し暑い。だからダナンの暑さは大丈夫かと思っていたが、一歩空港へ降り立って気づいたことがある。
東京の暑さはアマチュア、ダナンの体感はプロ。東京がいくら暑くても温帯、ダナンは熱帯モンスーン気候に属している。気温はともかく、湿度が高い。

「中継で『とにかく暑い』と言われていた暑さはこれか!」

あまりの暑さに目を回しながら、ホテルへ。
本格的な聖地巡礼ならダナン三日月に泊まればいいのだろうが、当時の旅行会社のパックツアーでダナン三日月泊のものは存在しなかったため、白い砂浜の美しい名所ミーケビーチのそばのリゾートホテルが観光の根城となった。

ミーケビーチはダナン三日月のあるビーチとは場所が違うが、透明感があって美しい

翌日の観光日に、ベトナムの世界遺産群へガイドに連れられている時に「ベトナムは何回目ですか?」と尋ねられた。

「初めてです」
「ハノイでもホーチミンでもなく初めてのベトナムがダナン。何で?!

聖地巡礼とは、一般人の常識とはかけ離れているものである(以前、カナダのプリンスエドワード島へ赤毛のアンの聖地巡礼に行った時も、日本人がいることにかなり驚かれた)。こういう時は大きな声で主張して、無理を通して道理を引っ込めるしかない。
私は棋聖戦の記念扇子を広げた。

「何故なら私は将棋ファンで、ここダナンで棋聖戦が行われたからです!」

現地ガイドの観光案内マニュアルの中にも『最近ダナンで将棋のタイトル戦が行われた』というのがあったらしい。もしかしたらそれが理由で来た日本人を見たのは初めてだったのかもしれないが「藤井聡太さんが来ましたね」と納得したようだった。

聖地巡礼①ダナン三日月

中継で見たことある建物と富士山が!

「では、ダナン三日月にちょっと寄ってみましょう」
どうやら偶然にも観光先の道中にあるらしい。
好きなものは好きと主張しておいて良かった…ダナン三日月はダナン市街地から20分ほど離れた場所にあった。
砂浜が整備されたミーケビーチや市街地はとはまた違う地域だが、ダナン三日月の前には、この土地で初めて見た歩道橋があった。

竹細工をイメージしたようなレリーフのある歩道

「日本から来た宿泊客が目の前のビーチに行きやすいように、ダナン三日月が数千万円かけて歩道橋を建設したそうです。今では現地の人のSNS映えスポットになっています」

我々も現地の人に紛れて写真撮影をする。
ダナンに限らずベトナムでは信号色通り車は止まらない。ダナン初日、道路の帰宅ラッシュに怖気づいた我々は横断歩道まで5分かけて歩いたが、青信号でも全く止まる気配が無くビュンビュン走るバイクに怯えて、半泣きになりながら渡ったものだ。
歩道橋、それは日本流のおもてなし。

日程の都合でホテル三日月の館内に入ることはできなかったが、次に訪れるときは実際に中に入り、将棋めしも食べてみたい。

聖地巡礼②ドラゴンブリッジ

ドラゴンブリッジ遠景

対局者二人がまず写真を撮ったドラゴンブリッジ。市街地を訪れるたびに何度も通ったが、とにかく長い。6車線道路で666メートルもある。夕方になると観光客が近くのカフェで夜景を眺める観光スポットになっていた。愛の南京錠をかけたり、電灯がハート形だったり、ここもSNS映えデートスポットらしい。

ここ以外にもビーチにカップルシートが並んでいたりと、カップル推奨のダナン

聖地巡礼③ダナン大聖堂

新聞記者がSNSで紹介していたダナン大聖堂

ダナン市街地の中心部にある大聖堂。市場が近いこともあり、ここでも写真を撮影する人は多い。青い空、ピンクの教会、とにかく可愛い。

聖地巡礼④世界遺産ホイアン

黄色い壁とブーゲンビリアが可愛いホイアン

対局者は昼間に訪れていたが、基本的にホイアンは夜景を楽しむらしく、問答無用でガイドに夕方連れていかれた。
ベトナム第三の都市ダナンを日本に例えると名古屋なら、ホイアンは京都。ベトナム紛争の戦乱の影響もなく古都の面影が残り、ランタンの下がる街並みが可愛らしい。

灯篭流しをしたら情緒なく灯篭を竿で放り込む形式だった
対局者が美味しくて食べすぎたと言っていたホイアン名物のひとつ、ホワイトローズ

聖地巡礼⑤五行山

ミーケビーチからタクシーで10分ほどの観光スポット。別名「マーブルマウンテン」とある通り大理石の山で、観光客が歩いてよく磨きんだ床はとにかく滑る。老若男女問わずよく転んでいたので、スニーカー推奨。

「階段で上れますけど絶対エレベーターを使った方がいい」と前日にガイドに言われた
歩いた対局者は凄い
リンウン寺
五行山以外にもリンウン寺はあり、そちらの方が有名だが全然場所が違うので聖地巡礼の際には要注意

五行山はダナン国際空港からも近く、交通の便も良いので聖地巡礼としてはおすすめである。しかし、五行山内のマップはかなり大雑把なため、道に迷いやすいので注意した方がいい。特にこの鍾乳洞は最初、寺から近すぎて見逃してしまった。

シャン・チーを指している賢人

せっかく入場料(と往復エレベーター代)を支払うので、道に迷わない程度にゆっくり観光するのがおすすめ。

仏像や儒教の神様がたくさん祀られている。とにかく映える
道に迷ってたまたまたどり着いた展望台からの絶景

私の旅は3泊5日というかなり余裕を持った日程だったが、ダナン周辺には他にも世界遺産群がいくつもあり、リゾートとしてものんびりできるなど、かなり楽しめる。ダナン三日月のそばには新観光名所「バーナーヒルズ」もあり、次もダナン対局があるのなら、是非大盤解説会に行きつつも、他の観光地も巡りたい。来期にも期待をしつつ、私はまた6時間の飛行機の旅を終えて日本へ帰国した。


次回もあったらいいな、盤外編

巡ると楽しい海外対局。今回のダナン聖地巡礼で役立ったものや情報をご紹介します。

①e-SIMカード

とにかく海外でも便利なのがスマートフォン。特にGoogleマップは海外旅行の必需品なので、無料Wi-Fiだと心許ないため常にネットにアクセスできる状況が大事。
海外ポータルWi-Fiも便利だが、今回初めてe-SIMカードを使ったらとにかく便利だった。ポータルWi-Fiの充電忘れや紛失のリスクもなく、SIMカードのようにキャリアのSIMカードを無くす危険もない(あの小さなカードを出し入れするのも不器用な人間にとってはかなり過酷)
SIMフリースマートフォンの方には必要ない情報かもしれないが、個人的にかなり便利な代物だった。

②アプリ「Grab」

東南アジア一帯で利用されている配車アプリ。
白タクと言うと値段交渉含めて旅慣れないと怖いイメージだが「Grab」で依頼をすると予め料金が設定され、終了後に登録したクレジットカードから費用が落ちる仕組みなので値段交渉も必要ない。
Googleマップで交通ルートが決められているので、変なところに連れていかれることもない。たとえ5分の道のりも、あまりの便利さに配車をするようになった。配車情報としてナンバープレートと車種が通知されるが、やたら日本車が多いのもわかるアジアの不思議。

③氷

解説の深浦先生が佐々木大地七段にアドバイスしていた氷問題。
日本の水道水は高品質に浄水されているので、海外(特に東南アジア)に行くとお腹を壊すというのは有名だ。
私もかなり心配したのだが、水道水は現地の人も飲まないそうなので、レストランやホテルでは氷を購入しているらしい(現地ガイドにも「屋台じゃなくてレストランの氷なら大丈夫だよ」と言われた)
実際にコーヒーチェーン店でアイスコーヒーを飲んでいたら、大袋で氷を搬入しているのが見られたので、丸くて長細い氷は購入しているミネラルウォーターの氷のようだ。
歯磨きもすべてミネラルウォーターにして氷はレストランとチェーン店のものにしたら体調不良は起こさなかったので、最終的には体調面も含めて自己責任になるが、知識として知ると怖さも紛れる。

こんなに綺麗なBarでもビールは冷えていないのでICE!
生ビールは氷が無くても冷えている

海外旅行は準備と時間がかかるので躊躇してしまう事も多いが、行ってみると想像を超えた体験もできるので、是非勇気をもって一歩踏み入れて欲しい。

(執筆者:カル)