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中学2年生で、アルファベットの「E」を逆に覚えていた甥の話


高校2年生の甥がいます。弟の4人いる子供の長男で、野球部に所属して暑い日も寒い日も一生懸命頑張っています。
甥は小学校1年生になるかならないかの頃まで「まさる」という自分の名前を「あさる」とうまく言えない子でした。優しくておとなしくて、舌足らずな部分では発育の心配をしたこともあったけれど、小学校に入ってからは少年野球をはじめて急にお兄ちゃんぽくなって、そうした心配もなくなりました。
基本的におとなしくて気がやさしく、私の実家(じいちゃんち)にきてはいろんな手伝いをしてくれました。弟は家の手伝いなど一切しないし、わたしの親も息子に何か頼むのが嫌なようで、甥にばかり何か手伝いを頼んでいました。実家は貧乏なので小遣いももらえないのに可哀想だなと思ったけど、甥は喜んでやっているし、じいちゃんがキャッチボールやバッティングセンターに積極的に連れて行ってたのでそれはそれで需要と供給が合ったようでした。

アルファベットの「E」が逆を向いていた

甥が、中学2年生の夏休みに実家(じいちゃんち)に宿題を持って泊まりに来ていたので、ちょっと勉強を見てやろうと思って、英語のノートと、そこに貼ってあった1学期の期末の答案用紙を見て、驚きのあまりにマジでちょっとひっくり返りました。
テストの最初にある、アルファベットを書く問題が半分ほどに × がついていました。よく見ると「E」が反対向いている。小文字は空欄。QとかRあたりの小文字も見たことのない形のものを書いていたな。その後に続く問題は、ほぼ全て×。というか空欄。ゆいいつ英文が書いてあったものを見ると、「I am stadey english」といった感じ。
数学の答案を見ると、冒頭の簡単な計算問題は足し算こそできているものの、掛け算は×。加法減法なんて見るも無惨な状態。おそらく、「2x」がなんのことかもわかっていなかったんじゃないかな。もちろん他の科目ももう、7点とか12点とか21点とか。
テストの内容を見て言葉を失ったけれど、そのときふと、数年前に弟が言っていた言葉を思い出したんですよね。
「あいつ、宿題がわからんって泣いて2階から降りてきよるねん。教えたるんやけど、わかったっていうから解かせてみたらわからんていうて。先生の教え方が悪いんちゃうかな」と。
たしか甥が小学4年生の時だったと思います。でも、弟と言えどよその家庭。弟夫婦の子供への教育意識が高くないのはわかっていたし、そもそも性格も考え方も違し仲良いわけでもないので、よその子供の教育に対して私がとやかくいうのは間違ってると思って甥の勉強の話には口を挟むつもりはありませんでした。家も遠いし、年に数回会うだけなので教えるというわけにもいかないし。

甥の父親である私の弟は、自分の将来や人生についてきちんと考えたことがない人間だと思います。不良でも不真面目でもなんでもないですが、とにかく「考える」「向き合う」というものと完全に無関係に生きてきたと思います。小学校から高校まで野球をやっていたので学校から勧められたそこそこいい企業に面接に行って受かって安定した仕事を持ち、20歳そこそこでデキ婚して無計画(完全に)に子供が4人。自分の家庭はそれなりに一生懸命守っているけれど、そもそも家賃も固定資産税もかからない(親の持っている借家に20年以上住んでいる)ので同じ境遇のよその家庭よりもお金の心配は少ない。そのくせ、離婚して離れて暮らす母親に金がないから貸してくれという時もや、私に連絡をしてくることもあったような。私からすれば、弟は底辺に近いあたりを生きています。高校時代の友人は早々に離れて行ったようだし、5年ほど前に弟の中学の友人に会った時に「あいつ、友達の結婚式に来るって言ってドタキャンしたり、こないだは金貸してくれって電話があったので断ったらもう連絡取ることなくなりました」と聞いたので、つまりそういう人間なんだと思います。
それでも、20年以上真面目に大手企業で働いているし、社会人野球もして少年野球のコーチもしているし、真面目なのかクソなのかわからない人間です。私と本当に血が繋がっているのか不思議なほど。
言えることは、自分やその周りのことについて「考える」ということはきっとしてこなかった人間なんだろうなということ。だからきっと、子供の教育をはじめ、子供の将来のこともたいして考えていないのだろうと思います。懐かしの昭和時代のように、子供はほっとけば育つ、死ななければいいと言った感じじゃないかな。

勉強を頑張りたいのに、できない。それって地獄

そういう背景を踏まえても、さすがに甥の学力がこんなにひどいと予想してなかったので衝撃がすごかったです。学習障害を慎重に疑ってみたけれど、どうやら、そういうハンデがあるから仕方ない、というレベルものでもなさそう(専門家から言わせたら違うかもしれないけれど)。やはり弟は小学校4年生くらいのときにすでに勉強で躓いていて、リカバリーする間もなくどんどん勉強が進んで、ついていけずもうどうすればいいかわからずに、自分はどうせアホだと諦めてしまったのじゃないか。
あの、宿題ができないと泣いた時になんとかしてあげていればこんなことになっていなかったのかも、と自分を責めて辛くなりました。何度も「わからなかったらマヨちゃんが教えてあげるから連絡しておいで」と言ったけれど、小学生の子が自ら勉強を教えてなんて言ってくるわけがない。
何が可哀想かって、本人は間違いなく宿題を頑張っていて、勉強を理解しようとしていたのに、できない。勇気を出して親に聞くけど、聞き方がわからないし、教えてもらったところでイマイチわからない。説明はわかるけど、問題を解いて解けない。頑張りたい気持ちがあるのにできないって、地獄だと思うんです。それを思うと、どんなに辛かっただろうかと。
授業にもついていけていないはずだから、一生懸命先生の話を聞いてもチンプンカンプン。わからないまま問題を解いてみろと言われて、解いて、チンプンカンプン。計算ができない、解き方がわからない以前に、問題が何を指しているのかすらわからなかったと思う。
それなのに45分を毎日6時間、椅子に座って意味のわからない話を聞き続けて、想像すると地獄でしかない。
まぁ、子供にすれば勉強ができて塾に行かされていっぱい勉強させられるのもまた地獄かもしれないけれど、わからないのにずっと目の前でわかんないことが進んでいくっていうのは、想像を絶する辛さ。(子供はそうは思ってないだろうと思うけれど)

そもそも、野球部のある学校には入れないかもしれない

それでも「高校でも野球するねん!」と大好きな野球の話をする甥。見かねて「あんた、野球部のある学校に行けなかったらどうするん?」「行く高校はあるやろうけど野球部ないかもしれんし、あっても試合に出れるほど部員いないかもしれんで」と言ってみたら、甥は驚いていました。
それは、考えていなかったのでしょう。
甥が住んでる奈良県は、中心部は子供も多くて部活も活発な学校が多いけれど、やっぱり田舎に行けば行くほど学生の人数も少なく、野球部はあっても人数が少なくて試合に出るのが危うかったり、そもそも試合に出れる人数がいないので大会時は他校の野球部のメンバーとその日だけのチームを結成したりということが多々あります。少子化もあって、野球部自体がない学校もあったりするし、グラウンドはあっても草がボーボーで最低限の練習ができるかどうかも微妙な場合も(部活のために草刈りをするというところからすでに課題)。
弟は先述のようにちゃんと考えていないので、口では「〇〇商業いけよ、野球強いぞ」「〇〇工業は去年ベスト4やからなぁ」とか色々と、さほど学力は高くないけれどそこそこ実力のある野球部がある高校名を挙げていたみたいで甥もなんとなくその辺の学校を意識していたみたいだったけど、私が見る限りもはやそういうレベルではありません。
このままでは、まず高校を選ぶことができないかもしれない。
高校生なので、どんな学校に行こうと行けばそこで楽しみを見つけたり頑張って何かに打ち込むのだろうけれど、甥が言う「野球そこそこ強いところでもっと上手くなりたい」という目標はこのままでは遠い。入試に受かるかどうかも問題だけど、それまでの内申点云々は、中2の2学期から重要になってくるはず。
「今ならまだなんとかなるかもしれんから、ほんまに高校で野球を真面目にやりたいなら勉強しなあかんで。この状態では、あんた一人ではどうにもならんレベルやと思うけど私ならzoomかなんかで教えてあげられるで。テスト前だけでもいいから、勉強するのはどう?」
と言ったけれど、甥は「うんー」と中途半端な返事をしていたので、これはダメかな、と思って、夏休みの宿題を見てあげる以外、私はもうそれ以上何も言いませんでした。
本人が頑張りたいと思っていても、勉強ができるようになりたいと思っていても、「勉強ができるようになるぞ」と一歩めを踏み出さない限りは意味がない。勉強を始めたとて嫌々になってしまってダメだろうしな、と思って。

その後、2週間ほどしてから「マヨちゃん、来週中間(テスト)やから教えて欲しいねんけど……」と、連絡がありました。


1年半、テスト前の1週間と受験前にひたすら勉強の日々

中2の二学期の中間テスト前、1週間かけてまずは英語と数学を中心に勉強を始めました。家が遠いので、zoomを使って、甥の学力にあった問題を作って。甥にわかりやすく説明ができるよう、事前にテスト範囲を全ておさらいをして私が十分理解してから挑みました。私も仕事があるし、仕事が終わったら子供世話があったので、子供が寝た後の9時くらいから毎日2時間。
途中だらけた時期があったり、「そろそろテストちゃうの?」とこっちから聞かなかったら連絡してこないなどいろいろあったものの、1年半、受験前まで勉強に付き合いました。中3の夏は一緒に問題集を買いに行って、4日間うちに合宿させて頭が沸騰するほど勉強をしたりもしました。
基礎がそもそもできていなかったこともあり、基礎から始めたのがだいぶ時間ロスではありましたが、それでも3年生の1学期の中間は数学で60点を取ってきたり、英語が45点になったと喜んだり、少しずつですが成果も出てきました(途中20点とか取ったりしてやる気のない時期もありましたが……)。私が問題を渡さなくても自主的に勉強し、答え合わせをしてやり直しをするということもある程度できるようになったので、3年の2学期からはひたすら自主させて、間違った問題やわからなかった問題をやり直したり解き方をアドバイスするだけの形になりました。それまではまず、私に一つ一つの問題の解き方を聞かないと1ページすら進めなかったので。

甥はAO入試を選択したので、入試は3教科+面接が必要でした。人当たりがよく笑顔も可愛いけれど、あがり症でどちらかと言えば口数の少ない甥なので、こりゃ大変だ!ということで、入試前の1週間は面接の練習もしました。
部屋に入る練習からしたかったので、zoomだったけれど、扉の向こうから「失礼します!」と言わせて、椅子に座るところまで練習させたり(笑)
面接の答え(なぜこの学校に入ろうと思ったんですか?とか)も一緒に考えて何度も練習しましたが、面接当日は緊張して全然ダメだったみたいでした。
なんでも、合同面接で隣の子が質問に答えたのに「ん?キミもう一回答えてくれるかな?と面接官に言われたのを横目で見て、震え上がったのだとか(笑)
そんなこんながあったけれど、無事志望校に合格し、希望していた野球部にも入部できました。
甥の入学した高校は毎年野球部は県大会ベスト8を狙える実力があり、甥が入部したときの3年生は春の大会でベスト4まで行ったのだとか。高校2年生になった甥は、この夏で3年生が引退し、新チームとなってショートを任されています。今月行われた秋季大会の初戦、開幕戦では、2回戦で当たる強豪校にエースを攻略されないよう、噛ませ犬としてなぜかマウンドに。5回までノーヒットで抑え、打席では二本のタイムリーを打って5打点を一人であげました。翌日の奈良新聞のWEB版には写真と名前が載り、「大活躍」と書かれていました。

弟夫婦から「ありがとう」は一言もなかった

私は弟のことをよく知っているので驚きませんでしたが、1年半で、弟とその嫁からありがとうという言葉は一度もありませんでした。むしろ「今日勉強無しにしたってくれる?家族で焼肉行くねんけど、(勉強教えてもらうのに)本人が言いにくいらしいから俺が連絡した」と弟から電話がかかってきたこともありました。わかってはいたけどね。
私はただ、血のつながったかわいい甥が苦しむ姿を見たくなくて、できるだけのことをしたいと思っただけだから。弟のためにしたとは1ミクロも思っていないのでいいんです。

ただこうした経験を通して、十分にご飯を食べられないとか塾に行かせてもらえないとか、そういう直接的な親ガチャだけでない、なんと言葉で表せばいいかわからないけどこういうことは、子供にとってすごく辛いことだと思いました。
頑張りたいという思いがあるのにどこかでつまづいて挽回できない。不真面目でも不良でも勉強嫌いでもないのに、勉強ができない。わからないまま学校の授業を聞くという苦痛が続く日々。
もちろん全ての子を救っていたらキリがないし、私もガチ体育会系なのでやる気がないやつにやらせる必要はないと思うのだけれど、気持ちはあるのに環境が恵まれていないと思うと辛くて辛くて。

こうした無料学習支援というのはあるとは聞くけれど、私のいる場所で、しかも私は小学生の子の親なのに、近くにそういったものがあるという話は聞かないので、例えあったとしても届いていないのだろうな。届いていないのは無いのと同じだし。
なんか、どこかでこういうケースの子供もいるって伝えていきたいし、できるならそういう活動に携わったり広める協力をしたり、私自身も教えてあげられる環境に身を置いたりしたいなと思います。

さいごに

今、姪(4人兄弟の2番目)が中学3年生の夏を迎えています。弟は「あいつ(姪)は、アニキとは違って賢いよそこそこ」といっていたけれど、話を聞いていると兄と同じパターンの様子。姪に至っては高校に入ってやりたいこともないので、勉強をする必要性も感じていない様子。
その下には、同じく勉強が得意でない小学3年生の甥(3番目)と、おそらく同じような感じに育つであろうと今からすでに予想される小学1年生の姪(4番目)がいます。

はぁ……。


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