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「ドローンパイロット」という職業を解説していく

2020年3月19日を最終出勤日として、1年と2ヶ月ほど勤めた株式会社FLIGHTSを退社した。

僕は入社してから今までドローンパイロットという職業を生業とし、とんでもない濃度でドローンを学び働いてきた。
(人によってドローンオペレーターとか操縦士とか様々な言い方はがあるが、格好良いので以下パイロットとする)

FLIGHTSに在籍中に案件と個人での遊び含め300時間くらい飛ばしたから、新人ドローンパイロットとしてはなかなか頑張ったほうだと思う。
まだ世間的に馴染みが薄く、主観でドローンパイロットの仕事について発信してる人がそんないなかったから、この職業を事細かに解説していく。

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ドローンの運用は、想像の10倍くらい面倒臭い

ドローンの運用は申請から始まる。

まずは国交省の包括申請というもの。私はパイロットでこんな機体をこんな条件で飛ばすんで許可くださいっていう、ドローンの一番スタンダードな申請。これを怠ると捕まる。
高いところ(150メートル以上)まで飛ばしたいとなったら、さらに別の申請がいる。これを怠ると捕まる。
イベントを撮りたいとなったら、主催者とかなり綿密な打ち合わせが必要で、かつ法律を満たす安全対策がいる。これを怠ると捕まる。
国の重要施設の近くで飛ばしたいとなったら、さらに別の申請がいる。これを怠ると捕まる。

悪質な場合は逮捕されるし、適切な許可承認を得ずドローン飛行を行なったら書類送検は確実と言って良い。
面白いことに、しっかりした申請をしないとすぐ警察のお世話になるのがドローンである。

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僕も会社の案件を東京のど真ん中で実施していたら、2つの警察署と警視庁、あと公安から合計30人くらい警察がきた。
あらかじめ的確に申請を通していたから何もなかったものの、書類を1枚出していなかったら普通に捕まるし、多分会社ごと廃業する。

さらに、ドローン関係の申請の大半は、許可に1ヶ月弱くらいかかるクソ厄介なものばかりである。
オンラインでできることも多くなったものの、いまだに「詳細をFAXで…」なんて言われたことも多い。
僕は平成の時代に生まれ令和になった今でも、旧世代通信機器を使っていることに感激し、ゲボを吐きそうになった。

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工業製品として完成度がまだまだ低いドローン

僕は今から6,7年前に兄らとPhantom2を買った。当時gopro4を付けて飛ばしてて、今どの角度で撮っているかよく分からない状態でカメラをチルトしていた覚えがある。
それが今は、はるかに安定性も上がり、映像伝送はほぼラグなしで、バッテリーも長持ちする優秀なドローンが多くなってきた。
ただ、これが工業製品として完成度が高いかと言われれば、僕はイエスとは言えない。
クソ当たり前のことではあるが、ドローンは空を飛んでいるため、墜落する。

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パイロットは常に墜落のリスクと、それに伴う人的・物的被害を想像し、精神をすり減らしながら操縦を行なっている。
DJIのドローンは、ごく稀にモード(操縦方法)が突然変わったり、GPSを掴まなくなったり、センサーエラーを起こす。
もちろんまともなパイロットや企業であれば、案件前に機体のメンテナンスを行い、現場ではGPS状況・センサー状態・周辺環境を考慮し、できる最大限の安全を配慮しながら仕事をするのだが、機体は気まぐれである。

車やバイクで言い換えれば、突然ステアリングが切れなくなったり、もっと言えば右にハンドルを切ったら左に曲がったり、ブレーキが効かなくなったり、クラッチが切れなくなるというようなものである。本当にたまーに起きる。突然起きる。
これが走行中に起きる可能性があると考えれば、パイロットがどれだけ精神をすり減らしているか多少は分かると思う。

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どれだけメンテナンスしようが、どれだけ安全確保をしようが、稀に、突然起きるのが今のドローンである。
そして、墜落した場合、会社名にとどまらず個人名までも世に発信され、明日には無職という未来が待っている。
ただよっぽど運が無い人でない限り、1年間ずっとドローンを飛ばし続けても遭遇しないと思うから、まあまあ安心して欲しい。

あとDJIのドローンのクオリティは間違いなく世界一。
製品全体としてまだまだ成熟してないだけ。
車で置き換えると、ホンダがN360作ってるくらいの時代感。
バイクだったら、ホンダがCB750 FOURとか作ってるくらいの。
僕の体感だから知らんけど。

シーケンス 01.00_04_36_20.静止画002

ドローンは結構楽しいが、これから個人でやる難易度は結構高い

僕はこれまで地上で静止画や映像を撮っていたから、それが空から撮れるとなれば楽しいに決まってる。
テレビゲームとかに没頭してきたタイプの人は絶対にハマるし、僕もこういう人種だったから、ドローンパイロットって職業はなかなか楽しめた。
ただ僕が楽しめたのは、おそらく企業に属し、ある程度いろんなタイプの案件を飽きない感じでやってたからだと思う。
具体的に言うと、一番メジャーなテレビ番組の空撮から、施設のプロモーション空撮、不動産の眺望撮影、ドローンVR撮影、外壁点検撮影などなど。

多分ずーっと同じ分野の撮影してると、いつも同じものを撮り同じような操縦をするだけでツマんないし、こんなことをしてたら撮影操縦技術は驚くべき速度で落ちていく。

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これを踏まえ個人のドローンパイロットだとどうなるシミュレートしてみる。
個人で請けられるドローンの仕事ってせいぜいテレビの撮影か企業プロモーションが限界なのである。よっぽど突き抜けない限り。

なぜかと言うと、DJI製品別に考えると、

Mavic2Pro・Phantom4Pro 購入金額:30万〜
できること:テレビ・プロモーション・(ギリギリ低予算)映画 
Inspire2 購入金額:80万〜
できること:予算あるプロモーション・そこそこの映画・ドラマ
M600 購入金額:120万〜(一眼レフ・ジンバル含む)
できること:解像度の高い静止画撮影・映画撮影・眺望・測量とか産業方向
M200シリーズ 購入金額:250万〜
できること:解像度の高い静止画撮影・映画撮影・眺望・測量・点検・警備

と言った感じで、墜落したら即パーになるものが四輪車くらいの価格帯になる可能性もある。
さらに、バッテリーや周辺機器を多く所有したり、別のカメラを載せたりすると価格倍プッシュもかなりあり得る。
では、個人のドローンパイロットが持てる機材はどこまでかと考えると、Inspire2が限界である。
取り回しやよくもらえる案件の内容を考えると、Mavic2ProやPhantomシリーズを必ず購入する。
M600以上の機体は必ず2人以上で現場に入るから、個人で受けるのは不可能と断言していい。

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こう考えると、平凡な個人のドローンパイロットはテレビ系もしくはプロモーション撮影までしか受けられず、大抵1日8万〜(よくて)20万くらいの案件をこなしていくこととなる。

現状ドローン業界での人間的価値は
・ドローン操縦そのものが死ぬほど上手い
・産業的な用途への知見が深い
・撮影にとどまらず編集も上手い
・扱える機材が豊富
・フットワークが軽く長距離移動できる
くらいに収束し、結局ドローンを手に入れたものの編集もしないといけないし遠く行くのもしんどいし、かと言って撮影した実績も外には出しにくいし…という流れで、経済的にも人間的価値もジリ貧になっていく。
人間は年を取るから。
製作会社と直接関係を作れないとなかなか厳しい。
まあフッ軽を価値としてるパイロットはまずお先真っ暗だと思う。

こう言ったことを全て踏まえると、
ドローン買って練習する
→ある程度上手く飛ばせるようになったら会社に所属する
→いろんな機体使う
→いろんな案件こなす
→ある程度の案件を一人で行けるようにする
って感じで、1年くらいかけて会社内で独り立ちするほうが絶対に楽。
現に僕がこのパターンで、DJIでもう飛ばせない機体がないくらいになると、業界の中でもだいぶ信用されると思う。

そして何より、ドローンは常にエラーとの戦いであるため、最初から現場に一人だと対処できない。
有能なドローンパイロットと案件を回り、エラーのパターンを対処できるよう身につけ、現場での最悪のシチュエーションを避けられるように成長するのが一番の近道である。
ちなみに最悪のシチュエーションというのは墜落もそうだが、そもそもモーターが回らないとか、飛び上がったがある程度の距離以上上昇しないとか、映像の収録ができないとか、そういう類のものである。
スケジュールがタイトな現場でこんなことにもたついてたら多分ブチ切れられる。

どうしても個人のドローンパイロットでやっていきたいのであれば、作品を作りまくるか、DJI製品だけでなくマイクロ、フリースタイル機をできるようになるか、ドローン改造めっちゃ強いとかじゃないと厳しいと思う。
フリードローンパイロットやってます!Mavic2Pro持ってます!だけでは、1日5万(交通費込み)案件を地獄のように回していく未来しか待っていない。

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ドローン企業はパイロットを死ぬほど欲してる

小さい案件から大きい案件まで一人でこなせて、産業的なことも分かって、現場で焦らないような精神力があって、体力があるタフな人をドローン企業はすごく求めてて、僕の推測ではあるけど「うちはパイロット十分すぎるくらい足りてます!」って企業は1社もないんじゃないかな。

企業として空撮ができたらVRもしたい、測量も点検も農業もしたい、講習もしたいし保険も抱き合わせたいみたいな感じで、ドローンはできることが多いからどんどん人が必要になってくる。当然だけど。

だからこれからすごく需要が高くなってる職業だと思うし、今のうちにいろいろできるようになれば業界内の転職もすっげー楽だと思う。業界狭すぎるからあんまする人いないけど。転職するくらいなら複数社の業務委託のほうがいい。

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(採用用に撮って世に出せなかった個人写真をここに供養させてくれ)

ということで僕はドローンパイロットを辞めたわけですが、別にネガティブな理由ではないし、会社のことも好きだから、ドローンに興味ある人はぜひ株式会社FLIGHTSへ。

ハードに働いて強制的に成長できる環境があるよ。

最後に、ありがとう、FLIGHTS。



以下、ドローン業界のもっとリアルな話と少し明るい話。
無意味だから興味のある人だけ、明日の缶コーヒーを我慢して読んでくれれば嬉しい。

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