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[読書ログ]「きつねやまのよめいり」

作: わかやま けん
出版社: こぐま社

あらすじ

きつね山にはお父さんぎつねとお母さんぎつね、そして5匹の娘のきつねが住んでいました。
雪が降り積もり、一番目の娘のきつねが嫁入りに行きます。
山じゅうのきつねがお祝いに集まり、見送ってくれます。

火打ち石でみんなのちょうちんに火を入れて明るくなると、きつねは、ふわっと空に浮かぶのです。やがて二番目のきつねもお嫁に行くことになりました。
こうして5匹のきつねたちは順番に嫁いでいくのです。

ところが、きつねが通る道には高速道路ができ、スキー場が開発され、次々と通る道がなくなっていくのです。
そうして追いやられた五番目のきつねが嫁入りに行く時にとうとう・・・!?

人間が自然破壊を繰り返していくその陰で、邪魔されながらもひっそりと続けられる嫁入りの行事。小さな灯りのもと、幻想的に浮かびあがる彼らの姿はどこか悲しげ、そしてとても美しいのです。

この静かで詩情溢れる物語を描き出したのは「こぐまちゃんえほん」で知られるわかやまけんさん。柔らかなタッチと淡い色合いに、「こぐまちゃんえほん」のファンの方は驚かれるかもしれませんね。

紙やインクにもこだわった贅沢な作りとなっていて、1968年の初版から長く読者の心を響かせ続けています。最後まで揺れ続けるちょうちんの灯りに何を思うのでしょう。
今こそ、この美しく丁寧につくられた絵本を子どもたちに読んでもらいたいと思うのです。(絵本ナビより)


感想

(ネタバレしか含みません。注意。)

「しろくまちゃんのほっとけーき」がいちばん有名かな、と思うが、こぐまちゃんシリーズで有名なわかやまけんさんの作品。
さすが絵本ナビの方の作品紹介文にも熱がこもっている。

対象年齢は5歳以上。
淡い色調と柔らかい絵のタッチ、話も簡潔明瞭ではないので、物語自体を深く理解しようと思うと、9歳以上くらいでもいいのかな、とも思う。

お父さんとお母さんと五匹の娘のきつねがおり、一匹ずつ嫁入りしていくかたちで物語が進んでいく。

こんどは にばんめの きつねが、
およめに いくことになりました。
おとうさんぎつねが 
ひうちいしで みんなの ちょうちんに、ひをいれました。
ちょうちんが あかるくなると きつねは、
ふわっと そらに うかびます。
(中略)
ピュウイン ピュウイン
じどうしゃが はしっています。
あたらしい こうそくどうろが、できていました。
ならんだ すいぎんとうの ひかりが 
まぶしくて とおれません。
よめいりみちが とおれないので、とおまわりして、
からまつやまを こえていきました。

本文より引用

こうして最後の娘が開発が広がって、よめいりみちがどんどんとなくなって、かなり遠回りをしてよめいりしなければならなくなった時、
「ダダァン」という音がして、5番目のきつねがいなくなってしまう。

たくさんのきつねがいなくなった5番目のきつねをどこまでも探し続けるというエンド。

分かりやすいのは、森林伐採や開発によって環境がどんどん変化していくことを憂いている作者の目線。

そして5番目のきつねの行方へのもの悲しさや、見つからないことで物語が終わらない(問題が解決していない)という問題提起も感じられた。



物語の構造はパターンがあるが、すべての物語にいえるのは、「行きて帰りし物語」だと思う。

物理的に行って帰るだけでなく、ある出来事が起こって、そこから本当の自分に気がづいた、というのもある種、行きて帰りしといえる。

よって、行ったっきりの物語では、オチがなくてすっきりしない。

ふつうはここで、「結局何が言いたかったのか分からない」とか、「問題が解決しないまま終わって後味がよくない」と言われて、作品の評価が下がり、読まれなくなる。

だが、それだけでとどまらないような力を作品から感じる。

この作品は、この行ったっきりの状態をあえて物語として設定する、あるいは行ったっきりのように見せることで消化不良の状態から、考える力を引き出しているようにもわたしには感じられたのだ。

例えば、子どもが大きくなった時、木々が伐採されて、開発された場所を見る。
ふと、「きつねやまのよめいり」の話を思い出す。

今もきつねやまのきつねたちは、開発された山々に囲まれて、よめいりに苦労しながら、いなくなったきつねのことを想って探し回っている、と、想像する。

それがこの本の意図していたところなのではないかな、と。


こういう本は評価が上がりづらいと思う。
だから、絵本業界に大きな功績を残している、わかやまさんだからこそできる表現、のようにも感じた。

そういうわけで、絵や文章はシンプルだが、物語を味わおうと思えば、小学校中学年以上から読んだ方が格段に味わい深くなると思う。もちろん、大人にも良い、手元に置いておきたくなるような絵本だった。


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