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恋愛ヘッドハンター2 砂時計⑤

その夜、智也は宿泊先を変えた。
賢太郎と顔を合わせないためだった。
話が進むと少し距離を取るのが智也のやり方だった。

新たな宿泊先でチェックインをしていると、背後が騒がしくなった。
振り返ると、制服姿の男女がぞろぞろと入ってきていた。
「本日は修学旅行のお客様がいるので、夜8時から9時まで大浴場が大変混み合いますがよろしいでしょうか」
フロントの女性が申し訳なさそうに訊ねた。
「いいですよ」
「申し訳ありません。8時前まで、もしくは9時以降にご利用いただけますと、ゆっくり出来るかと思います」
「わかりました。ありがとうございます」
カードキーを受け取ると、智也はエレベーターへと向かった。手をつないで教師の話を聞いている制服姿の男女に目が行く。
本当は自分とれいかもあんなふうに話を聞いたのだろうかと想像する。
仕事を優先し二人して通信制高校へと入学したが、そこは修学旅行が無い。
いずれ、れいかと二人で修学旅行に行こうかと考える。
「今の人、カッコいいね」
すれ違った女子高生たちが囁く。智也はうつむいて照れ笑いを隠しつつ、エレベーターに乗り込んだ。
部屋がある15階のボタンを押すと、スマホが震えた。風間ひかりからの電話だった。
「お世話になっております。朝井です。はい。はい。いえいえ。とんでもございません。はいはい。ああ、そうですか。承知いたしました。たぶん、大丈夫ですよ。はい。またご連絡いたします。はい、失礼いたします」
電話が切れるとほぼ同時に、エレベーターが15階に着いた。
フロアへ出た瞬間、大きなため息が出た。
部屋に入り、荷物を置いてジャケットをハンガーにかけた。ネクタイを緩めながら、スマホを操作する。
着信履歴やメールをチェックするが、れいかからの連絡は全く無かった。
もともと自ら連絡してくるタイプではないが、出張中の恋人兼相棒且つきょうだいにつれなさすぎないか。
まさか、自分がいない間に他の男と遊んでいるのだろうか。智也は焦燥感を募らせた。
れいかに電話をかける。
割とすぐにれいかは出た。
「あ、智也。お疲れ様」
淡々とした話し方に智也は苛立った。
「お疲れ様じゃないよ、俺のことが心配じゃないのかよ」
「寂しいなら電話してくればいいじゃない」
「そうだけど。あのさ、ターゲットの人がさ、逃げちゃったんだよ」
「ええ!」

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