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妄想日記㉚もしも私がおじさまだったら。終

今朝、おりんさんは一人でお稽古に出かけて行った。藍色の紬を着ていた。叔母が少女時代に着ていたお古らしい。長い髪は1つにまとめて肩に流している。
「おりんさんに見とれてるの?」
窓際に立っておりんさんを見送っていると叔母に話しかけられた。
「いや。あんなに小さいのにお妾さんだったなんて信じられないって思って」
奈緒の華奢な背中が脳裏に蘇る。奈緒も薄っぺらな体をしていたが、身長はあった。
「13歳でお妾さんになったんだって。お父さんの借金のカタにされて」
「昔の人は大変だよね」
俺は言葉が薄っぺらだ。
「昔の人と言えば、小夜さんに会ったわよ」
「え」
「乗り継ぎの駅のホームでたまたま。貴方に感謝してるって言ってた」
「そう」
俺の様子を見て叔母は笑った。
「わかりやすい子ね、相変わらず」
「え」
「好きな子の話になると鼻が赤くなる」
俺は鼻を隠した。
「小夜さん、綺麗になってた。貴方達色々あったのね」
身内に言われるととことん恥ずかしい。
「会いに行けば?もう私は旅に出ないし。おりんさんの面倒を見るわ」
叔母は俺の手を握った。
「たまには追いかけるのもいいんじゃない?いつも受け止めて捧げてばかりの幸福の王子様」
「そうだね。もう王子様じゃなくておじさまだけどね」
俺は叔母の手をさすった。
皺々なのに瑞々しさを感じる。

明日、俺は時間旅行へ出る。
濃いめの酒を携えて。
小夜に出会ったらすべてを捧げてしまいそう。
そう思ったらやけに晴れがましい気持ちになった。


おしまい。
30日間妄想日記チャレンジ終了!
お付き合いいただいた皆さま、ありがとうございました✨!

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