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目や耳や脳を介さず感じる世界… 植物の静かで知的な生活

植物といえば静かに動かず穏やかで、芽吹いた場所に適応して生き抜いていく、環境に束縛された受動的な生物だと思われています。
が… これは本当でしょうか?

自由に動けなければ自発性がないのでしょうか? 目や耳を持たなければ、世界を認識することはできないのでしょうか? 発達した頭脳を持たなければ、考えることはできないのでしょうか?

知性を「生きているあいだに生じるさまざまな問題を解決する能力」と考えれば、明らかに植物は知性を持っています。
植物は外界からの刺激に対して適切に対応し、自分が何者で、自分の周りに何があるのかをきちんと自覚して適応しています。

進化の過程で、植物は動かないことを選択しました。

動物はその名の通り、動くことによって危険を回避したり栄養を摂取するよう進化しました。脳、肺、胃などの少数の器官に重要な生命機能のほとんどが集中され、それぞれの器官は一つづつ。取り換えもきかず、再生能力はほとんどありません。

一方、植物はどうでしょう?
もし、植物が動物と同じような体のつくりをしていたら、草食動物に噛まれただけでたちまち死んでしまいます。植物は簡単に捕食されてしまうことを考えて、いくつかの中心的部分に全機能を集中させないように進化していきました。

動物と植物ではそもそも進化の仕方が全く異なっているのです。

肺がなくても呼吸ができ、口や胃がなくても栄養を摂取でき、骨格がなくても直立し、脳がなくても決定を下すには… たくさんの構成要素が機能的にまとまり、各部分は交換可能という、無数の独立した同じモジュールから構成される体が選ばれました。
自由に移動することができない植物の各機能には、専用の器官があるわけではなく、体のどのパーツも絶対必要不可欠でもありません。
消極的抵抗手段を発達させた、モジュール構造の誕生です。

牧草地や庭の芝生が好例ですが、植物は体の大部分が切り離されたとしても、死んでしまうことはありません。残った小さな部分から再生し、やがては元の状態へと戻っていきます。植物の中には体の90-95%まで食べられてしまっても大丈夫なものもあるそうです。
また、樹木の剪定のように、余分な枝葉を刈り取った方が成長が促される場合もあります。

植物は動かず、光合成を行い、時々新しい芽を出し、花を咲かせ、葉を落とします。では、植物にとっての感性はどうでしょう?

植物の感覚機能は、根に備わっているもの、葉に備わっているもの、体全体に散らばっているものなどがあり、その感覚器官は人とは異なります。
しかも、人のような目や耳といった器官を備えてはいませんが、独自の方法で五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)どころか、さらに少なくとも15の感覚をそなえているそうです。

例えば、視る力。目という器官で見る能力ではなく、光の感覚や光学的な刺激を知覚して、光合成に必要不可欠な光を求め、葉や体の位置を動かし修正しながら成長していきます。
聴く力については、話しかけて育てた植物は成長が良かったり、音楽を聞かせて育てた野菜や果物の生育状態が良好であったりします。
嗅覚や匂いには、体全体を使って反応。ハーブ(香草)は自らにおいを作り出し、メッセージを発信しています。においに含まれる化合物が危険の警告、誘惑、拒絶のメッセージを伝え、花粉を媒介する昆虫とのコミュニケーションに役立てられています。
ハエトリグサのような肉食植物は味覚を、オジギソウの反応は触覚によるものです。
他にも、湿度を測定して水源を感知。重力や磁場、化学物質の土壌含有率を分析して、栄養素があれば根を伸ばし、有害物や汚染物を見つければ遠ざかろうとします。
受動的で無感覚、動物に備わっている特質を全く持たない生物とされている植物は、実は20の感覚を持つといわれています。

人は植物に対して無意識のうちに決めつけた偏見を持ってしまっています。生育した場所から動けないので、植物は動かないと思い込んでいますが、芽が出たり、花が咲いたりするような運動成長を常に行っています。他の運動も、スピードやリズムが動物に比べてあまりに遅い違うので勝手に錯覚してしまっているのです。
知性に関してもまさにその通り。脳がなければ思考することができないというのは単なる思い込みにすぎません。

人は自分とは異なるタイプの生命システムや知性を、真に理解したり認識することができないのかもしれません。

地球上の生物量バイオマスの割合において、植物はなんと99.5%以上を占めています。一方、動物は僅か0.1-0.5%にすぎません。

植物なしでは私たちは生きていくことができません。
反対に私たち動物が消えても、植物は動物が蔓延はびこっていた大地をすぐさま取り戻し、一世紀もすれば数千年に渡る人類の文明の痕跡すら完全に覆い尽くしてしまうでしょう。

人は地上に現れたときからずっと植物と共に生きていますが、実は植物のことをよくわかってはいません。
植物は私たちが考えているよりもはるかに洗練され、はるかに優れた適応能力と、はるかに優れた知性を持っているのです。

植物は食物連鎖の土台となり、人が利用してきた燃料エネルギーのほとんどを作り出してきました。

植物は地球と太陽をつなぐ輪である
ー クリメント・チミリャーゼフ(露:1843-1920)

人に知られている植物の種類は、地上に存在する全植物種の約5-10%にすぎないそうなのですが、そのわずかな種類から、医療品の全成分の95%が抽出されているのだそうです。何とも驚きです。

緑の星、地球は植物が支配している生態系。

風にそよぐ森の樹々、街中の街路樹や道端の雑草が今までとはちょっと変わって見えてきませんか?
私たちが感じ取れないだけで、人にも静かに話しかけているのかもしれません…

参考文献:
植物は〈知性〉をもっている 20の感覚で思考する生命システム
ステファノ・マンクーゾ / アレッサンドラ・ヴィオラ  著

2022年10月8日 寒露

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