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夢の国の木馬

 そこは、子供なら誰もが憧れる夢の国でした。広い敷地に様々な遊具や乗り物がそろい、立派な洋風のお城や、緑の森もあります。楽しい音楽、甘〜いお菓子。子供たちは、まるでおとぎ話の中へ入り込んだような気分になり、幸せな一日を過ごすのでした。

 広場には、12頭の木馬が回るメリーゴーランドがありました。馬たちの轡(くつわ)や鐙(あぶみ)は金色で、ピカピカに光っています。手綱や鞍は、それぞれ赤や緑、黄色や青など、鮮やかな色彩で飾られ、それはそれは華やかでした。

 馬たちは皆、自分の美しさがとても自慢でした。ですから、アイスクリームの食べこぼしをつけた子や、元気に走り回りすぎて泥だらけの子を乗せるのは、本当は嫌でした。でも遊園地の決まりで、代金を払った人は乗せなければなりません。ただ時折、閉園間際に、係のおじさんがさっさと帰ってしまうことがあります。すると、目ざとい子供がそうっとやってきて、馬たちに頼むのです。
「ねぇ、ちょっとだけ、乗せてくれない?」
けれど馬たちは、「ダメダメ、とんでもない」と、決して承知しないのでした。


 いつしか時は流れ、人々の暮らしは移り変わりました。色々な娯楽を、簡単に家で味わえる時代になったのです。遊園地で遊ぶ人は激減し、かつて夢の国だった施設は、とうとう閉鎖されました。そして打ち捨てられたまま、長い年月が経ちました。
 メリーゴーランドの木馬たちは、風雨に晒され、ボロボロになった我が身を嘆きました。
「ああ、ああ! 私の、美しかった装具!」
「こんなに色褪せて……あちこち剥げて」
廃墟となった施設には、ずっと訪れる人もありません。

 そんなある日、情報通の風が馬たちに教えてくれました。この土地が不動産屋に買い取られたらしいと。ここは更地にされ、住宅地になるのだと。

 馬たちが恐怖に震えるうち、作業は始まりました。建物や遊具が次々と取り壊され、撤去されて行きます。馬たちは人間を見るたびに、今度は自分たちかと怯えました。作業はどんどん進み、ついに、メリーゴーランドだけが残されました。

 その夜。何もない敷地に、ポツンと立つメリーゴーランドのそばに、一人の青年がやって来ました。遠くに灯る工事用のライトが、かつての美しい輝きの名残のように、木馬たちを照らしています。
「……懐かしいな。木馬よ、ちょっとだけ、乗せてくれるかい?」

 囁くように青年が言うと、木馬たちは口々に言いました。
「どうぞ、ああ! こんな私でよければ!」
「お願い、私に乗って!」
青年は微笑みを浮かべ、そっと木馬の一つに座りました。
「僕はここに街を作る。夢だったんだ……誰でも乗れるメリーゴーランドのある公園」

- fin -

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