柿内午後

柿内午後と申します。詩や短歌をつくります。フリーのライターです。詩のサークル( @ot…

柿内午後

柿内午後と申します。詩や短歌をつくります。フリーのライターです。詩のサークル( @otaku_ltr_club )やってます。お仕事依頼はDMもしくはこちらのメールアドレスにお願いします。→komo198198@gmail.com

マガジン

最近の記事

  • 固定された記事

柿内午後の短歌100首『カナンの地への手紙』

私の享年だけが才能の証明になるなんてばかみたい 愛または断絶の物証として匣中に干からびた臍の緒 暑くって嫌になりそう半分は君とも言える水を飲み干す 私のじゃない髪の毛が床にいるこの子に虫を食べてもらおう これ以上大きくなれば殺せない無垢の夏蜘蛛潰して捨てた きみが地獄に堕ちることになるならわたし天国なんていらない 君が夢枕に立ったことがない 死者は当人から見ても他者 日の長い一日の暮れいつまでも会えないことを告げる夕映 青褪めた果物持ちて強姦の後完璧な鮫肌とな

    • 2024/04/15

      壁に向かって喋り続けることができるか?私にはできない。カメラに向かって話しかけ続けることができるか?私にはできない。電話もあまり得意ではない。目の前に相手の顔がなければ、どうも人と話している感じがしなくて、次の言葉が出てこない。 騒がしい街に住んでいる。この前の復活祭の日には、窓の外から道にたむろしているらしい人々の歓びの声が聞こえてきた。おそらく「ホサナ!」と叫んでいた。 先週は誕生日だった。今日が残りの人生で一番若い日で、これまでの人生で最も老いた日だ。どちらも真実だが、

      • 2023/06/13

         こういう風にだらしのない書き方をすると、もう書いてしまって取り返しのつかないことに対して、もっと違う風にも考えることができたのではないのかという疑念が次々に頭をもたげてくる。誰かひとりのためにすら書かれていない、締まりがなく、面白いところが一つもない。腰を据えてじっくりと書くべきことは見つからない。とりとめのない愚痴のような、足を引っ張るだけの、罪を作るだけの文章を書いている。こうでもしなければ、こうでもしなければ、どうしたってみじめだ。  先ほどの文章では、言い落したこ

        • 2023/06/10

           牛乳パックが綺麗に開けられない。ネジをまっすぐに締めることができない。立体視ができない。キリストのことが書かれていない本は読みたくない。いつも死んだ人のことを考えている。社会保険料や年金、奨学金を払い続けなければいけないことを考えると気が重くなる。あってもなくても何も変わらないような仕事をしている。何かを書くことが好きであるかどうかはわからないが、少なくとも読むことは好きだと思う。どのようなことが、どのように書かれているのか。自分でも書いてみるようなつもりで、内側に入り込ん

        • 固定された記事

        柿内午後の短歌100首『カナンの地への手紙』

        マガジン

        • 西洋美術
          2本
        • マゾヒズム関連
          4本
        • 労働
          2本

        記事

          2022年の振り返り 1/4

          年の瀬なので一年を簡単に振り返ります。年中Twitterをやっているとライフログみたいになってこういう時に便利です。 1月 1月1日 一年の目標を立てる 1月4日 新年のあいさつをし過ぎてノイローゼになる 同日 前年に聴いた同人音声の話をする 1月6日 防寒具を揃える 同日 ベルクソンを読む 同日 「図解」シリーズに興味を抱く 1月7日 香水に興味を持つ 同日 肖像画について調べる 1月8日 テレビの話題を嫌がる 1月9日 いちご100%の夢を見る 1

          2022年の振り返り 1/4

          2022/09/17(2)

          https://note.com/komo198198/n/nf3ff22c3d8a0 これはゴダールの死について書かれたものではあるが、ゴダールについての文章ではない。私の悲しみがもたらした、ささやかで、束の間の出会いの印象にまつわる覚書である。私はそこに喪の共同作業というものの可能性を見出し、それが私を書くことに駆り立てた。 死別を体験した者にしばしば見られる反応として、遅延もしくは遅滞がある。この遅延は、数週間から数か月、何年も続くこともある。 「遅延が何年も続くこ

          2022/09/17(2)

          2022/09/17

          構造的に私と同じ場を占めている人、ゴダールの死を呆然と悲しんでいる人の、嘆きの言葉を聞き取って、私は容易く自らを相手に同一化する。この人は私と同じように、彼をかけがえのない存在として、その喪失に打ちひしがれているのだ。同じ魂のかたちをしている友達よ!手に手を取って、心の内を打ち明け合って、涙がこぼれるように話そうじゃないか! 野次馬的な傍観者たちの、彼に対する無関心を表明する腹立たしい身振りに隠れて、あなたが悲しんでいるのを見つけた。対象を断念することのない、喪の作業からの

          2022/09/13

          彼は本物の詩人だった。僕に世界を手渡してくれた。

          概念の夏の写真ver.1.1(2022/09/11)

          概念の夏の写真を撮った。概念の夏の写真だ。概念の夏が撮れた。概念の夏が写った写真だ。風景には光が、突き抜けるような青い空が、夏の雲が、そして生の暗い影が、それらが概念の夏を形成している。 錆びた緑のフェンスの向こうに、セイタカアワダチソウが、群島のように集まっている。背の高いセイタカアワダチソウが、フェンスの向こうに、突き抜けるような青い空の下、暗がりを作り出す高架の下で、光を浴びて、夏の暗さを色濃くしている。 セイタカアワダチソウが夏を暗くしている。セイタカアワダチ

          概念の夏の写真ver.1.1(2022/09/11)

          概念の夏の写真(2022/09/11)

          概念の夏の写真を撮った。概念の夏の写真だ。概念の夏が撮れた。概念の夏が写った写真だ。風景には光が、突き抜けるような青い空が、夏の雲が、そして生の暗い影が、それらが概念の夏を形成している。 錆びた緑のフェンスの向こうに、セイタカアワダチソウが、群島のように集まっている。背の高いセイタカアワダチソウが、フェンスの向こうに、突き抜けるような青い空の下、暗がりを作り出す高架の下で、光を浴びて、夏の暗さを色濃くしている。セイタカアワダチソウが夏を暗くしている。セイタカアワダチソウの周

          概念の夏の写真(2022/09/11)

          限界百合小説(仮)

          「私も、そろそろ働かなきゃなって、思うんだよね。」 「なんで?無理しなくていいよ。ゆりのペースで、焦らずやっていこ?今だってなんとかなってるし、ゆっくりで大丈夫だよ。」  私は咄嗟にそう言ってたしなめた。ゆりがそんなことを言い出したのは初めてだった。今だって、洗濯物も上手く畳めないのに。お薬何錠飲んでるの?毎日何時に起きてるの?知らない人が怖いって、言ってたじゃん。大人の人の、見定めるような視線が気持ち悪いって。私といる時だけ、素直に喋れる気がするって。働き始めたらさ、私

          限界百合小説(仮)

          2022/06/28

           幼いころ、救急車のサイレンの音が聞こえると、つらくてたまらなくなった。誰かの日常が壊れたことを、告げ知らせる音に思えたからだった。それは間違いではないだろう。しかし、救急車がサイレンを鳴らすのは、むしろそれが決定的な破滅になることを防ぐためである。幼いわたしは、それでも悲しかった。誰かの日常が、壊れることがあるということそれ自体が、悲しくてたまらなかった。誰の日常も永遠に決して壊れることがない世界を、わたしは望んでいたのだろうか。  今では、救急車のサイレンが聞こえても、

          心象(2022/06/01)

          黄緑色の小道を、弱々しい足取りで滑るようにして辿ってきた。海綿のような雲が、共喰いをするようにくっついてはあふれて千切れる。喉で歌うような潮風が、微かにここまで漂ってくる。 冷たい海に流れ出す鯨油、死骸はやがて大らかな家となるだろう。一部始終を伝える手紙が、恋人の予感のように美しい。 逆光の中の子供たちが、いま葡萄酒をこぼしたところで、鬣を引きずる男が、流氷のように歩いている。あなたは私に時間を差し出し、それを惜しげもなく塗り潰した。2年間切れたままの電球が、ひとつの暗い

          心象(2022/06/01)

          馬(2022/05/29)

          苦しむ馬の頭部、燃焼の後に残る匂い、あなたの薄い手、口に出さなかった残酷さ、死んでしまった波の群れ、潮風のような労働歌。水中のような重たさを引きずりながら、曇った街で粗大ゴミを盗んだ。 打ち捨てられた過去の、皺を伸ばして見出した、黄色い空、緑の眼をもつ風が、あなたの名前を探して、遍歴する。旅の旅の途中で、剥がれ落ちる母音。葉が擦れるような、ピカソの中の海、アトリエの中の女が、知っている、熱帯の植物。古い海図に描かれた、奇妙な形の鯨の腹を突き破り、打ち明け話のように、葡萄の木

          馬(2022/05/29)

          「一日」

          すでに完結している事物の裸身、染みや汚れのような電信、見出されるのを待っている、天使のような間隙を、あなたが踏破した風景の膨らみを、もう一度辿り直すための絵が、静かに日に焼けている。 無表情な手が触知した棘、めくるめく諸価値、乾いた花弁の軽さが、火の中で崩れる、永遠の消滅のための音楽が、硝子の中に閉じ込められる。 一つの過ちから生ずる、数多くの帰結、擦り切れたあこがれを、流通する言語を、屠殺するための暗がり。飢えと渇きが刻まれた地図には、蜜の流れる川が── 顔は夜の中で

          「一日」

          2022/04/02(小島信夫『美濃』について)

           昨日から夢中になって小島信夫の『美濃』を読んでいた。『美濃』は古井由吉や後藤明生が主宰する文芸雑誌『文体』に、1977年から1980年にかけて、三か月に一度のペースで連載された長編小説で、『私の作家評伝』(後の私の作家遍歴)、『別れる理由』の後半部分との同時連載であったようだ。小島信夫は1971年に一度講談社から全6巻の『小島信夫全集』を出しており、その折に同郷の詩人・平光善久に年譜の作成を依頼したエピソードを発端として本作は書き継がれることになる。  連載当初、唯一『文藝

          2022/04/02(小島信夫『美濃』について)