明治初期にアメリカから伝わった豚の飼い方~古文書『養豚説略』ご紹介
古文書ご紹介を再開したいと思います。
今回は明治4年の『養豚説略』。
これは、アメリカの飼豚結社中のハリスという人が書いた本を訳したもので、養豚の指南書になります。これから肉食をどんどん日本に広めるため、豚肉とはそもそもどういうものかを教える基本の「き」に始まり、豚を飼うということ、さらに詳しい飼い方など、豚づくしの内容になっています。
養豚業者向けの記述は専門的になってしまいますから、一般的にわかりやすい部分だけを一部抜粋してお届けしたいと思います。
豚はその肉を食べるためだけにある
総じて家畜とする動物に求めるものはさまざまです。
馬には重い荷物を背負わせ、牛はその肉や乳を食用とし、また、使役します。羊は毛を刈り乳を食用とし、鶏は羽毛を刈り卵と肉は食用とします。
しかし豚に至っては、ただその肉を食用とする以外の用途はなく、それ故に毎日餌を与えて、もっぱらその肉や脂を充分得ることだけが目的とされるのです。
牛を飼うにもその肉が必要なのであれば、さして豚と違いはないのですが、そこには次のような理屈が存在します。
豚は何でも食う
牛には四つの胃袋があり、餌は少なくてもそこから十分な栄養分を得ることができるため、秣(馬や牛の飼料とする草)などを餌とします。
対して豚はたった一つの胃袋しかなく、しかも小さいにもかかわらず、餌は栄養分も含めたくさん必要なので、木の根や木の実・虫などを食します。
このことから、牛や羊に比べると豚は大食いなのが明らかでしょう。
牛と豚を比べると、牛は少ない餌で成長するのですから、同じ肉の分量でも豚より安くなっても当然のはず。
しかし実際のところ、豚はほかに使い道のない台所から出るゴミなどを食べ、さらに牛の乳を搾った残りかすまでもが豚の餌となり、大変貴重な残飯処理要員なわけです。
つまり、牛や羊を飼うには麦や油粕などが多く必要となるところ、5・6匹の豚の場合であれば、特段餌を必要としないということになります。
雑食ゆえに重宝される豚
何の使い道もないゴミまで食べて、この上ない食用肉へと変化するのですから、ほかの家畜を飼うよりも豚に勝るものはありません。
そして、農家で豚を飼えば、その時々の収穫後約50~60日間は、穀物の根を餌にすることができます。
また、場所にもよりますが、林の中などでは餌が豊富にあるため、たとえそれほどの利益がなくても、牛肉と豚肉との値段の差というのは大差ないといえるでしょう。
豚は大食の家畜という意味では、比類するものはありませんが、その見た目から想像もつかないほどよく食べ、それを消化する力もあります。
つまり、己の肉を肥やす能力に長けている家畜といえるのです。
【たまむしのあとがき】
大いなる雑食動物の豚。
一言でいうとそういうことなのですが、なんだか逆に恐ろしいですね。
「何の使い道もないゴミまで食べて」の部分は、完全リサイクル社会だった江戸~明治時代においての話で、例えばそれは動物の骨や皮、腐った食べ物といった、人の目の届く安全な有機物を意味しているはずです。
ですが、現代の豚の餌は何なのか、というところに注目すれば、配合飼料という名のもと、さまざまな原料が含まれているようで、その実態はよくわかりません。
もしかすると輸入配合飼料には遺伝子組み換え食品が含まれているかもしれませんし、疑えばきりがないですね。
古文書の中のこうした小さな話も、どこかで今の自分の生活につながっていて、いろいろ考えさせられるのです。
古文書講座随時募集中です!
詳しくはこちら ↓↓↓
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?