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10年越しの「いいね」

「行ってみたい場所」

それはお金や時間の問題というよりは、ちょっとの勇気やきっかけ。いきおいみたいなものがあれば行ける場所。たとえばよく前を通るけれど、入る勇気がないお店とか。「いつか」を後回しにしてるもの。私はそんなモノゴトがとても多い。

人生も後半戦、コロナカも経験した。思い立ったが吉日を大事にしよう、と今年は北陸や四国へプチ旅もしたけれど、それよりもっと前から、とある場所に行ってみたかった。というか会ってみたかった人がいた。

私が今の仕事を一人で始めたのとだいたい同じころ開業されたのだと思う。「開業」でブログめぐりしていて見つけたのを覚えているから。同業者ではないオーナーの女性は私と同年代か少し年下かな。そのブログは告知や宣伝のために立ち上げられたのだと思うけれど、私はその人の子育てや育てている植物の日常を時々のぞくのが好きになった。

やっぱりブログは人柄がにじみでるようなものがいいと思う。ググればなんでも情報が出てくる昨今、ワードプレスのテンプレ通りにきれいにまとめた差しさわりのないブログやSNSより、私はそういう日常のなかににじみ出る、自分の仕事への信念とか、葛藤とか、ぽろっとこぼれ落ちる愚痴とかね、そんな文章を読むのが好きだ。しょっちゅう覗くわけではなく2ヶ月くらい間があいちゃうこともあるんだけれど、ふと思い出してブログを訪ねるとちゃんと更新されている。3日坊主の私とは大違いだ。信用できる。

けれど「いいね」や「コメント」にはアカウントが必要で。そのためだけに登録するのも躊躇してしまっていた。だから毎年その人の「今年も○○(植物)を植えました」「息子が○才になりました」などのちょっとしたお知らせに心の中で「もうそんな季節ですか」「息子さん進学おめでとうございます」と語りかけていた。私も開業○年になるなと振り返ると、その人もブログで「開業○年になりました。皆さんのおかげで続けられています。ありがとうございます。」とちゃんと書かれていた。えらいな。そして、おたがいおつかれさまです。がんばってますよね、私たち。

私たち。

そのとき初めてアカウントを登録して、そっと「イイネ」を押したのを覚えている。


小学生だったその方の息子さんは、社会人になられた。

行ってみようか。前から(10年も前から)ブログ読んでます、勝手に共感してました、なんて言わずに。言いたいけど恥ずかしいし、それに実際にその方と会って、私が勝手に抱いていた想像と違うって思ってしまったら勝手に申し訳なく思うし。適度な距離感で、あまり話さないようにして、お客さんの一人として。

もしその方が今年育て始めた植物の苗の話が出たら「いいですね、私はガーデニングが苦手だから尊敬です」なんて前から思ってたことは伝えて。

特に大きなきっかけがあったわけではないけれど、「思い立ったが吉日」を使うのはこんなときかもしれない。ぽちっと予約ボタンを押し、LINE登録してちょっとしたやりとりをして。「ああ、10年越しの思いがようやく叶う」と迎えた昨日だった。

風が強くて、雨もちらつくお天気。でも雪みたいな桜の花びらが車のフロントガラスにへばりつくのは何だか風情があるな、なんて枕草子みたいなことを口に出して、そわそわした気持ちを封印する。私は今日初めて体験に行く人である。10年以上前からのブログ主さんのファンであることを微塵にも表に出してはならないのだ。

私が勝手に思ってた想像や印象は、やっぱりブログで感じたとおりだった。

もちろん私はイチお客様だから、向こうだってそういう対応だと思う。私も仲良くなりたいとか知ってもらいたいとか思わない。昨日の体験でも、そんなにブログ主さんと話したわけではなかった。

けれど、アンケートの「当教室を知ったきっかけ」のところで「ブログ」にマルを打ったとき、そして

「今年でうちの教室○年目なので、記念に皆さんに配っているんです」

といい香りのする入浴剤を、ブログ主様~ヨガ教室の先生が、体験生の私にもプレゼントしてくれたとき。胸がきゅっとした。

ひさしぶりに自分の心や体をじっと見つめられた、ゆたかな時間だと思えたから、とりあえず3か月、続けてみることにした。

ブログという文字で目にしていたブログ主さん(ここからは「先生」と呼びます)の「ヨガの心」を直接昨日、私の脳内再生の声ではなくて、先生のもっとやさしく奥深い声で聞くことができた。それはいつまでも冬のいでたちで、重たい塊と化した私の心や体を、ちょっと溶かしてくれた。常に詰まり気味で余裕のない仕事に疲れて、もういつやめてもいいか…なんて考えてもいた。日常のあれやこれやに頭をめぐらすのも、めんどうになっていたけれど。

もうちょっと、がんばろうかな。

そんな気にさせてもらえた春の始まり。

書くこと、続けることの意味ってこういうところにあるのだと私は思う。収益化とか、いいねの数よりもっともっと大事なこと。一日一日の数字よりも、10年続けられることを。

私が「イイネ」を押すために開設した某アカウントは、やっぱり3日坊主で活用できていない。

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