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戦略の大家、マイケル・ポーター教授に学ぶ経営戦略の立て方(4)

「マイケル・ポーター教授に学ぶ経営戦略の立て方」(1)~(3)では、企業内部におけるオペレーション効率の向上のみならず、どのような独自性あるポジショニングを取るか、戦略が優位性構築にとって最も重要であることを学びました。また企業を取り巻く外部環境として、立地にあるクラスターが極めて重要であり、その高度化へ主体的に取り組むと共に、場合によってはそれを積極的に選択し、移動すべきだとの考えを学びました。最後となる(4)では、ローカルのクラスターの中で培われた競争優位性や生産性を、グローバル競争でどう生かし、戦っていくかを学びます。

第3章 グローバル企業に学ぶ勝ち方


 国際的な企業が、すべてグローバル競争に参加する訳ではありません。その多くは、本質的にマルチドメスティックで、国内市場ベースでの競争を、今後もそのまま続けて行く可能性が高いです。通常、その国内での特殊性が高い製品を扱っていたり、輸送コストの嵩む製品を提供していたり、業界として規模の経済が十分でないなど、大きな競争優位が働かない為です。グローバル競争に踏み出す前に、所属している業界がグローバル競争に有利な特質を揃えているかを判断する必要があります。グローバル競争が最も有望になるのは、世界規模での量が単位コストの削減もしくは傑出した評判やサービスという点で、相当の利益をもたらす場合です。規模の経済の可能性を特定するには、深い洞察が必要です。
 多くの事業がグローバル化に進めそうにないのは、規模の経済があまりに小さかったり、研究機開発投資が特定の市場に強くリンクし過ぎていたり、国ごとに製品がかなり違ったり、印刷業など多くのサービス業の様に、リードタイムが短い場合もあるでしょう。貿易に対する政府の障壁が高い、物流網が散在していて浸透が困難と言うこともあります。けれども、多くの国際企業がグローバル化の可能性を持っていると確信します。ただ、ある事業がグローバル化するという保証はないので、グローバルな競争が必要とする大規模な投資をするリスクを進んで引き受けなけければなりません。もし今はまだグローバル化していないが、いずれはそうなる可能性が高いだろうと考えるのであれば、「どの様な戦略的イノベーションがグローバル競争の契機になるか」、「あらゆる競合他社の中で、自社はグローバル戦略を打ち立て、その優位を守るにふさわしい立場にいるだろうか」、「リーダーとしてのポジションを確保するには、どの様な経営資源がどれくらいの期間必要になるだろうか」を自問し、最善の回答を見つけ出さなければなりません。
 グローバル戦略が成功する為には、効率の高さとコスト面での優位だけでなく、他の2つの次元の能力がどうしても必要になります。1つ目はタイミングです。成功を収めたグローバル企業は、製造コストや流通面での優位を手掛かりに、競合他社が対抗するのを困難にしたり、そのコストを引き上げたりしています。2つ目は財務力である。グローバルなイノベーションを引き起こした企業は、技術なり製造施設なり流通網なりに、他社に先駆けて大規模な投資を行っています。これが成功すると、販売量の増大やコストの低下によって、キャッシュフローが増大すると言う利益が得られます。競合他社が対応に時間が掛かればかかるほど、先駆者たる企業が得るキャッシュフローは多くなります。こうなれば、後はそのキャッシュフローを投資や価格引き上げの原資に使い、新規参入に対する障壁を築くことができます
 グローバルに競争するとなると、経営トップは、自社の事業に関する考え方やオペレーションのあり方を変更せざるを得なくなります。マルチドメステックだった時には有効だった方針も、今や逆効果をもたらすかもしれません。最も効果的なのは、世界市場でのコスト・ポジションや差別化能力を向上させ、それと共に他の世界的な競合他社の力を挫く様な手です。主な新興国でリーダーシップを先取りすると言う手、グローバル産業において決定的な一手となるのが、最大の顧客との間に強固な関係を築き、競合他社の攻勢を防ぐことです。グローバル市場が少数の顧客に支配されているビジネスは多くあります。グローバル企業は、こうした顧客の重要性を認識し、既存や将来の競合他社が彼らから少しでも売り上げを得るのを防いでいます。重要な顧客に対する価格を決める際には、ROI(投資収益率)ばかり気にしていてはなりません。価格が今後の新規参入企業に対して及ぼす影響や、事業ベースの維持・拡大に失敗するリスクは、ROIと同じくらい大切なのです。

相互依存を活かした経営

成功しているグローバル企業は、様々な国における事業を、独立したポジションからなるポートフォリオとしてではなく、単一のシステムとして経営しています。グローバル産業においては、ポートフォリオ経営式の国際競争感は危険を孕んでおり、グローバル企業は、ある国の市場でのポジションをレバレッジとして他国の市場で活かせるかどうかを重視し、レバレッジ能力が市場の魅力と同じくらい大切です。一番わかりやすいのは、ある一つの国の市場から量を稼ぐことにより、企業全体してのコストや効率を改善できる場合でしょう。戦略を効果的にコントロールするには、中央集権的な製品ライン中心の組織が有利です。他方では、各市場にうまく対応していくには、現地レベルでの自立性を持たせた地域組織が有利です。成功しているグローバル企業は、少なくとも2つのレベルの財務管理を開発しています。一つは、自給自足型の案件に対するプロフィット・センターとコスト・センターとしてのアプローチであり、もう一つは、相互依存性のある取り組みや、競合他社の業績や対応を追跡する戦略センターとしてのアプローチです。グローバル企業は、グローバル戦略投資の実施状況を監視する際には短期的なフレームワークを使い、その投資や期待利益に関する評価の際には長期的なフレームワークを使っています。国際ビジネスに安全な成功の方程式などは存在せず、業界構造はたえず進化しています。

第4章 多くの立地にまたがる競争 ~ グローバル戦略によって高める競争優位


 競争のグローバル化を検討してみると、一つの明白なパラドックスに直面せざるを得ません。企業はグローバルな規模で競争しており、原材料、資本、科学知識と言った経営資源は、今や世界を自由に移動しています。にも関わらず、立地が依然として競争優位を左右する決定的な役割を果たしている事を示す強力な証拠が存在します。第一に国家どうし、あるいは州・都市どうしを比べてみると、それぞれの経済実績の間に著しい差が根強く存在します。第二にどの業界においても、世界のトップ企業の本拠地はいずれも一ヵ国か二ヵ国に集中しています。第三に確かにグローバル企業は様々な国に活動を分散させてきましたが、主要な製品ラインや事業単位ごとに、その分野で勝ち抜く為のクリティカル・マス(十分な量)を依然として一ヵ所に集中させています。 

グローバル競争の一般的フレームワーク

 競争戦略上の問題は、国内企業でもグローバル企業でもほとんど共通しています。成功するかどうかは、その企業の競争の舞台となる業界そのものの魅力と、その業界における企業の相対的地位によって左右されます。
 一つの業界における企業の業績は、競合他社と比較した場合の競争優位(あるいは劣位)によって決まります。優位を生むには、競合他社よりもコストを抑えるか、商品を差別化してそのためのコストを上回るプレミアム価格で販売するかのいずれかです。オペレーション効率の差で競争優位が生じる場合もあるが、最も持続可能な競争優位は、独自の競争ポジションを築くことによって生まれるものです。自社が参入している業界構造を理解し、自らの競争優位の源泉を見極め、競合他社を分析することが必要です。
 各業界における国際競争がどの様な性質を持つかは、あるスペクトルに沿って配列できます。スペクトルの一方の端は「マルチドメスティック」な業界です。多くの国にその業界は存在するが、競争は国ごとの単位で行われ、相互の間にはほとんど関連がみられません。ほとんどの小売業、金属加工業、建設業及び多くのサービス業がこれに該当します。もう一方の端には真の「グローバル」な業界があります。企業のある国での地位が、他国での地位に重大な影響を与えるので、様々な国での競争が互いにリンクしてます。民生用航空機、家電製品、産業用機械などがこれに該当します。マルチドメスティックな業界は、グローバル戦略は必要なく、各国別の国内戦略を並べたものに過ぎず、国ごとの事業部に幅広い裁量と自律性を与えるべきです。しかしグローバルな業界では、全ての国を同時に巻き込む統合戦略を用意する必要があります。何が競争優位を支え、グローバル戦略がどう貢献するかを理解するには、「価値連鎖」に分解してみる必要があります。価値連鎖では、企業の活動をいくつかのカテゴリーに分類します。製造、マーケティング、サービス支援と言った業務に直接関わる活動と、経営資源や技術を創出する活動、資金調達、意思決定などの為の重要な活動は、明確に区別されます。こうした価値活動によって、コストもしくは差別化と言う競争優位の基盤が形成されます。

 グローバル戦略の特徴は、価値連鎖の各部分をいろいろな国に自由に配分できる点にあり、基本的な選択は、次の2つに分類することができます。
1.配置  配置は、企業の価値連鎖の個々の活動を「どこに」置くかに着目します。例えば、製品の組み立てをある国に置いて、研究開発は別の国に置くと言った具合です。立地選択の決定要因の一つは、その活動を行う際の「比較優位」です。原材料や労働力が最もコスト効率よく確保できる立地などが、これに該当します。立地選択の第二の決定要因は、「競争優位」または「生産性優位」です。イノベーションまたは生産性向上の点で、最も魅力ある環境を持つ国々に配置することです。活動を一ヵ所に集中させれば、規模の経済を活かしたり、学習曲線を急速に下げる可能性が開けます。これに対し、多くの場所に活動を分散させる正当な根拠もあり、その例として、輸送・保管コストを抑える、一ヵ所に集中した場合のリスクを回避する、ローカルな市場に応じた極め細かい活動を行う、国や市場の状況に付いて知識を得る、現地政府の圧力やインセンティブに機敏に対応するなどです。グローバル企業は、こうしたメリットを活かすのに必要な活動だけを分散すべきで、それ以外は分散すべきではないでしょう。他の条件が同じなら、できるだけ多くの活動を同じ場所に配置した方が生産性の点でもイノベーションの容易さの点でもプラスになります。
2.調整 分散した活動の間で経営手法や技術、そして生産する製品に関する決定を調整すれば、潜在的な競争優位が数多く得られます。比較優位が変化した場合に対応が可能だし、習得した知識を各国間で共有できることもあります。調整について考える際に中心となるのは、全く異なる場所から得た情報、技術その他の知識を、どこでどのように統合し、製品やプロセスその他の活動に反映して行くかという点です。この必要不可欠な機能を果たすのがホームベースなのです。

 グローバル戦略がもたらす競争優位は、立地から生まれるものと、全体的なグローバル・ネットワークやそのマネジメント手法から生まれるものがあります。通常、どんなグローバル戦略でも立地がもたらす何らかの優位性から出発しており、それがその企業の競争上のポジションにも反映されています。企業はこの優位性を生かして国際市場に入り込み、他国での競争に付きものの不利を克服できます。最初に存在した立地上の優位性は、グローバル・ネットワークを通じて拡大・補強されます。マルチドメスティックな業界では、業界の構造上、分散が高度に進んだ形が有利になります。つまりそれぞれの国に実質的に価値連鎖全体が含まれるような配置です。この場合、国ごとの事業部にはほぼ完全に戦略上の意思決定の権限を与えることで、結果として強大なメリットが生まれます

立地とグローバル競争

 立地間の競争を支配するパラダイムが、今や「比較優位」ではなく、もっと幅広い概念である「競争優位」へと移行してきました。グローバル化のおかげで、今や企業は原材料や資本、更には科学知識全般と言った経営資源をどこからでも入手できる為、競合他社の比較優位に対抗することができます。また、低コストの労働や資本を利用するべく任意の活動を外国に分散することも可能です。グローバル企業は、こうした努力を通じてオペレーションの効率を高めなければなりません。比較優位を手に入れるための活動の分散を怠ると、やがてそれは競争「劣位」につながってしまいます。ある地域に持続的な競争優位が生まれるのは、企業が生産性の高い業務活動を実現し、より高いレベルを目指して競争の方法を革新・向上させ、さらには生産性を改善できると言う環境があるからです。イノベーションとは、技術だけに関わる限定的なものではなく、マーケティングや製品のポジショニング、サービス提供の方法にもあてはまります。そういう地域にある最もダイナミックかつ革新的な企業ならば、別の地域にいる競合他社を追い越し、古い経営手法で要素費用の低さや規模の経済の上に胡坐をかいている競合他社の足許をすくうことができるでしょう。競争優位はイノベーションおよび生産性向上のプロセスから生じます。その多くは特定の製品ラインに関するその企業の「ホームベース」、つまり戦略開発や主力製品・プロセスの研究開発、高度な製造(又はサービス提供)が十分に集積している地域に集中します。グルーバルな活動によって調達された経営資源や情報がそこで統合され、最も生産性の高い作業はここに置かれることになります。

 競争優位の確立の機会、そしてそれを実現する為に必要な経営資源の多くは、社内にではなく、社外の近隣の環境に存在するものなのです。そう考えなければ、個々の分野における成功が、これほどまでに1つの国や国内の同じ地域に集中する理由を説明することができません。立地がもたらす第三の競争優位は、その地域の市場の性質によるものです。知識があって要求水準の高い顧客がいること、あるいは他の市場でも需要のある特殊な製品に対して、通常より強い需要を持つ顧客がいることです。そうした顧客は、企業に高品質な製品を作るようプレッシャーをかけてくるし、進化する顧客ニーズを知る手が掛かりとなります。それによって、企業はイノベーションを継続し、更に先進的な分野へ進もうと言う刺激を受けるのです。また他の市場では無視されていた業界セグメントが発見される場合にも、そこから競争優位が生まれます。

 立地に由来する競争優位の最後の一つは、有能な専門供給業者や関連産業の存在である。関連分野に実力ある地域の企業が存在すれば、研究開発、流通、マーケティングと言った補完的な機能が得やすく、効率向上に更に役立ちます。だが多くの場合、更に大切なのは、イノベーションやダイナミズムと言う点でのメリットです。関連産業の供給業者や企業が近隣にあれば、情報の流れも速くなるし、科学研究の協力、共同開発への取り組みも容易になります。アウトソーシングすることも簡単になる為、新製品を導入する際のスピードや柔軟性も増します。更に視野を広げれば、供給業者の技術的な取り組みに影響を与え、新規の開発に対する実験の場を提供する事で、イノベーションのペースを加速させる事になります。

 クラスターは、専門的供給業者、サービス業者、川下業界、情報提供業者、インフラ提供業者、そして関連産業などから成り立っています。業界団体、規格設定機関、大学の学部と言った関係機関も、クラスターの一部を構成します。クラスターは集団としての資産であり、企業が効率よく知識やスキル、経営資源を集めやすい環境を生み出し、これにより生産性が増大し、イノベーションのスピードが上がります。クラスターの形成・改善プロセスは、地域での関係の強さ、情報フローの開放性、様々な企業・機関の相互の敏速は反応が必要で、特に、地域での競争の激しさや投資環境は重要な役割を果たします。要素条件、企業戦略・競合関係、需要条件、関連産業・支援産業の4つからなるダイヤモンドは、集積的・自己強化的な性質を持っており、また専門機関や知識、それに十分な数の企業が集まるには時間が掛かる為、あるビジネスに対して競争に有利に働く地域は、ごく限られたものとなるのが普通です。

多くの立地にまたがる競争:ローカル戦略からグローバル戦略へ

・独自の競争ポジションを基盤としたグローバル戦略の構築
 グローバル戦略(もしくは複数立地戦略)は、明確な競争優位をもたらす様な独自の競争ポジションを出発点としなければなりません。
コストや差別化と言う点で明確な競争優位を打ち出せない限り、未知の市場に参入する際の障壁は克服できないでしょう。企業がグローバル化を進めるには、まず最もユニークな競争優位を持つ事業や製品ラインから手を付けるべきだということになり、こうした製品分野こそ、国際的な競争での勝算が最も大きい領域なのです。
・一貫したポジショニングによる国際市場への浸透
 グローバル戦略に必要なのは、あらゆる主要市場への参入をめざして辛抱強く長期的に取り組む事と、一方で自社独自の戦略ポジションを維持・強化すること
です。企業独自の戦略があっても、外国市場のどの部分に進出できるかは、地域の購買力やニーズによって国ごとに変わり、これが各国市場に参入する順序の参考となります。とは言え、どこの国でも一貫した戦略を維持すれば、企業の競争優位は強化されます。ポジショニングに一貫性がなければ、真の競争優位など得られないし、企業としての評判も育って行きません。企業が独自の戦略と言う点で妥協することなく成長するには、今もなお地理的拡大が最善の方法の一つです。
・個別の事業ごとの明確なホームベースの確立
 戦略的に区分される事業ごとに、競争に向けた明確なホームベースを確立する必要があります。企業全体としての「本社」の立地はあまり意味を持たず、歴史的な背景を反映していたり、便宜上置かれている場合もあります。ホームベースはその事業分野について、全世界に対する明確な責任を負うべきであり、その事業にとって最も望ましいダイヤモンドを備える国や地域に置くべきです。そうすれば、イノベーションや生産性向上の点で最適の環境が得られるでしょう。企業は、製品ラインに関する主な責任の担当を、そのセグメントに関して最も望ましいダイヤモンドを備える国に割り当てるような形で、自社の国際活動を分化して行くべきです。主要な子会社各社がそれぞれの立地のダイヤモンドが最も適合すると思われる製品モデルに特化し、その部門について世界を相手に活動すべきです。
・分散した活動の調整と統合
分散した活動から競争優位を導き出すには、活動をグローバルに調整する必要があります。遠く離れた国同士を調整しようとすると、組織として難題を抱えることになり、言語、文化の違いや距離が、コミュニケーションや共通の考え方を妨げます。各国の子会社が自律性を求め、自らを徹底的に現地に合わせようとするのは自然な流れです。成功しているグローバル企業は、様々な方法でこれら課題を克服しています。第一に、ポジショニングを明確にし、グローバル戦略に対する理解を徹底することです。第二に、地域子会社のマネジャーに、グローバルな全社的ポジションを、自国と比較にならぬほどの重要性を持つものとして認識させます。第三に、情報システムや会計システムを世界中で統一し、それによってオペレーションの調整、情報交換、地域同士の比較、適切なトレード・オフを容易にします。第四に、子会社のマネージャー同士の交流や学習交換を促進するよう積極的に努力し、それによって相互理解を深め、人間味のある調整を心掛けます。最後に、グローバル戦略を追求する企業は、子会社としての業績だけでなく、全社的な貢献をも重んじるようなインセンティブ制度を導入しなければなりません。
・事業部における国籍と言うアイデンティティの維持

企業の個々の事業が持つ国籍と言うアイデンティティについて、それを克服すべきという主張も一部にありますが、実際には維持すべきものです。ある事業における競争優位は、その企業の本国の環境が持つ独自の属性から生じる場合が多く、立地は企業のあり方に影響を与え、競争の手法を左右します。外国の顧客は、国籍や文化、そしてそこから暗示される企業の特徴を重視しています。企業は、独自のポジショニングやアイデンティティを失うべきではなく、それを外国の子会社でも維持し、教え込むべきです。
・グローバル化の手段としての提携と戦略の明確な区別
提携は、分散した活動のネットワークを築く手段であり、ホームベース以外で行う活動をより効果的に進める可能性を開きます。ただし提携を結んだ為に、自社のポジショニングが曖昧になり、全ての市場を通じた一貫性あるポジショニングが妨げられてしまう恐れや、調整が複雑になり、イノベーションが遅れてしまう場合もあります。理想的な提携は一時的な手段である場合が多く、企業が自らの長所を生かし、学習を進めるのを支えてくれます。企業は、自らの競争優位に不可欠な資産をパートナーに依存する訳にはいかないのです。
・立地に立脚した競争優位による業界、セグメントへの事業拡大
 立地に伴う競争優位は、ある企業が他地域の競合他社に対して、独自の競争優位を得られる業界を特定する手掛かりとなります。ホームベースの環境が最大のメリットをもたらしてくれる業界内セグメントを特定するガイドラインとなります。新規事業を展開する際には、そうした有利な分野に集中すべきです。生産性をめぐる競争と言う新たなパラダイムの下では、広範な垂直統合については警戒しなければなりません。垂直統合は資源を浪費し、融通性を損なってしまうので、その範囲は全社的な戦略と密接な関わりを持つ活動に限定するべきです。それ以外は、専門的な機械や経営資源を提供する地元の供給業者と強固な関係を築く方が得策です。多角化はクラスターの本流に沿って進めるべきです。そうすれば、社内の長所を活かすだけでなく、自社が特に有利なアクセス手段を持つ、立地に備わる独自の資産も上手く生かせます。イノベーションは関連する技術やスキルの融合により、業界やクラスターの隙間から生じる例が多くあります。
・ホームベースの改善
健全な基盤を備えたホームベースがなければ、その事業における生産性向上やイノベーションの可能性が減少してしまいます。企業は、専門性の高い研修プログラムを支援し、自社ビジネスに関連のある大学研究を奨励すべきです。地域の供給業者を育て、質を向上させる必要もあり、遠方の供給業者に依存し過ぎると、潜在的な競争優位が帳消しになります。地域のインフラ整備を担当する企業を指導し、プレッシャーをかけて自分たちのニーズを満たす様に仕向け、政府の規制が生産性向上に役立つように働きかける必要があります。残念ながら、自社が立地する地域環境を、競争を有利に進めるために不可欠な要素と捉えている企業はほとんど見られません。
・必要に応じたホームベースの移転
顧客の要求水準が落ちたり、新しいタイプの供給業者が必要になった場合、あるいは地域の金融機関の無能さなどで、ホームベースの活力が低下する事があります。そんな時、まずやらなければいけないことは、ホームベースの改善です。しかし、そうした努力も水泡に帰した場合は、ホームベースをもっと好ましい場所にシフトする必要が出てきます。これはおそらくグローバル競争の究極の形でしょう。
 ホームベース移転という判断には、慎重なアプローチが求められます。移転を成功させるには、新しい場所や新しい文化に真の仲間として受け入れられる必要があるからです。企業全体のホームベースを丸ごと移転する例は滅多に見られません。移転するのは、特定の製品ラインもしくは事業分野のホームベースだけです。


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