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畑で体を動かしながら考えていた、生活と仕事のこと。ー季節アルバイトを終えて

12日目。朝、雨のため午後のみ収穫作業。結果的に一日半の休みになり体力回復。午前中、斎藤幸平さんの「ゼロからの資本論」を読みながら労働について考える。裁量の余地の少ない仕事はつまらないが、裁量と責任の多い仕事は脳のキャパが埋まって辛い。肉体労働は、頭は自由なので他のことに使えて良い。

36日目(ゆる6連勤目)。気づけば折り返し地点を過ぎている。引き続き傾斜のキツい農園。昨夕の雨で地面がぬかるみ、アスレチック状態。脚立を階段代わりに使うなどする。右手の痺れがやや強くなっている。午後におばちゃんにのど飴もらってほっこり。

44日目。午前中で紐切りが終わり、午後は紐を繋げていたワイヤーを外す作業。ハウスの中の柿の紅葉が凄く綺麗。何をするかも大事だけど、働く環境はすごく満足度に影響する。緑の多い環境で体を動かす仕事は本当に性に合っている。仕事後に完熟した柿でジャムを作っていたら、20個ほど新たに柿をいただく。



柿の収獲作業が例年より早く終わって、当初の予定より3日早く季節バイトが終わり、おとといの夜から自宅に戻ってきている。

寮でポケットwifiがつながらなかったので、noteの更新がずいぶんご無沙汰になってしまっていたんだけど、毎日SNSにその日の記録をつけていた。

それを見返しながら、思っていたことをゆるゆると書いてここに残してみようと思う。



お金のこと、暮らす場所のこと。

うつになって退職した人にとって、多くの場合、お金のことは大きな課題になってくると思う。僕は保険を一時的に国保に切り替えていた関係で傷病手当をもらえる期間が一般の人より短くて、4か月半休職していた間だけもらって、それが終わる翌月に、たまたま見つけた、3か月弱の住み込みの農業バイトをはじめた。

季節バイトはもろもろの天引きがないのと(寮費として1日500円だけ)、土日関係なく働ける分、平均すると、手取りは福祉職の正社員として働いていた頃と同じくらいはもらえていた。その間の年金や保険料などは別途支払わないといけないと考えると決して多くはないのだけれど、自宅の家賃などの固定費を払っても収支がマイナスにならない程度はもらえていたので、安心感はあった。

寮は山の中腹の、最寄りのスーパーまで原付で10~15分くらいかかるような場所で、ネット環境もなかったけれど、案外慣れるもので、家にいるときはテレビを見たり本を読んだり料理をしたりして楽しく過ごしていた。田舎の風景は元々好きなので、アフター5(幸運なことに、5時にはきっかり上がらせてくれるホワイトな農園だった。)はすぐに好きな場所で自由な時間が過ごせるのはとても嬉しいことだった。


落ち着ける場所を早めに作った。

 うつ上がりの人間にとって、環境の変化というのは結構なストレスで、しかもはじめての住み込みバイトだったこともあって、慣れるまでは正直かなり緊張感が強かった。

とりあえずリラックスできる場所を見つけておこうと思って、仕事が始まる前の日からその地域のスーパー銭湯に行ってみたり、カフェに行ったりして、落ち着ける場所を見つけることを大事にしていた。お気に入りのスーパー銭湯が見つかったので、回数券を買って何度も行ってみたり(原付しか移動手段がないので途中から帰りが寒くなってきて行くのを諦めたけど)、図書館も僕にとって落ち着ける場所なので、休日には隣の市や町も含めていくつかの図書館を訪れたりもしていた。

カフェも、チェーン店でリラックスできると、次は個人経営のところにも行ってみたい欲が出て、休みの日はその地域の近くの居心地のいいカフェに行ってみたりして、結果的に娯楽が増えていった。


制限がある方が楽しい。

 このことを、3か月のあいだ、何度も感じていた。家の外に出ないとネットが繋がらないし、お店のある場所まで、歩いたら40分はかかるような環境にいれば、ネットが繋がる場所にいけばそれだけで幸せだし、食料を買いにスーパーに行くことが、それだけでちょっとした娯楽になっていた。仕事後に、今日はどのスーパーに行こうかと考えるのが楽しく、いつの間にか、市街地にあるたいていのスーパーについて、どの店が魚が安いか、いつ行くと値引きされているかなど、ずいぶん詳しくなっていた。田舎のイオンのスーパーは閉店が近づくと半額以下の値段で弁当が売られいてすごかった(550円の弁当が150円になるなど)。

 また、ネット環境が繋がる畑に仕事外の時間も来ていいと言ってもらっていたので、畑の前の農道にキャンプ用チェアを置いてパソコン作業などをするようになって、アウトドア気分で楽しんでいた。10月半ばごろからは夜は寒すぎて上着を3枚くらい着こみながらだったけど。


柿のオブジェ。思っていたより大きくてちょっとびっくりした。


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仕事のこと、働くということ

 ここに書くのは、当たり前のようなことかもしれないけど、大事だなと思っていたので、残してみる。

仕事との相性について

 3か月弱働いてみて、畑仕事は、とても性に合っていたなと思っている。柿の収穫も、ビニルハウスの片付け作業も、体力は使うし繰り返しの作業なのだけど、やったことがわかりやすく目に見えて達成感があるし、繰り返す作業はある程度慣れてくれば、働きながらも頭のなかはフリーになって、いろんなことを自由に考えながらできる。仕事で考えることが多すぎてしんどくなって鬱になった過去があったので、頭のなかが自由というのはありがたかった。


職種も大事だけど、メインの作業内容と働く環境が自分に合ってるかはかなり大事。

仕事を選ぶときに、どの企業で勤めるかとか、どのジャンルの仕事をするか、という基準で選ぶ人が多いんじゃないかと思うんだけど、その会社で仕事として自分が何を主にするのかというのは仕事の満足度にかなり大きく影響すると思った。動詞で仕事内容を考えてみること。

僕なら、運転や、体を動かすこと、人と話すこと、書くことが好きなので、それができる仕事だと満足度が比較的高いんじゃないかと思う。会社に入ればいろんな業務はあると思うんだけど、仕事のなかで多くの時間を割いてすることが、自分が大きなストレスを感じずにできることであることは大事だと思う。

あとは、働く環境。労働環境というといろいろあるけど、まずは、シンプルに仕事をする場所のこと。部屋のなかで働くのか、外で働くのかというのもあるし、働く地域が田舎か、オフィス街かというのも大きい。リモートワークでPCがあればどこでも働けるって人は、そこが自由でいいんだろうけど、そうじゃない人は、職場がどこにあるかは大事にした方がいいんだろうなと。僕は緑や木々の多い場所が好きなので田舎での畑仕事は良かった。さっきも書いたけど、仕事終わりに、すぐに好きな場所で自分の時間が持てるというのはすごく幸せだった。

誰にとっても楽な仕事はないけど、自分にとっての「わりと楽」はありそう。

「楽な仕事はない」と、いまの時代でもよく言われる。なんの苦労もしないで稼げる仕事があればそりゃみんなやるだろうし、そうして倍率が高くなれば結局競争になってしんどくなってしまうのは当然だろうと思う。
だけど、「他の人はしんどいっていうけど自分にはそんなにしんどくないな」と思える仕事なら、案外探せばあるんじゃないかなと、この仕事を経験して思った。

もちろん、僕がしていたのは季節バイトという、定時で上がれて、働いた時間分だけ給料が支給される恵まれた身分だったわけだし、農業を専業でやっていけば、繁忙期は時間関係なくずっと働いたり、利益を出す工夫をし続けないといけないっていう大変な苦労はあると思うんだけど、たとえば体力を使う仕事は、他の人にはきついかもしれないけど、自分はわりと楽しくやれるなとか、あるいは、人と長時間過ごすことや、認知症の人に暴言をはかれてもそんなに苦にはならないから、介護の仕事は結構向いてるかもしれないなとか、そういうこと。

多くの人にとってしんどいから避けられがちだけど、自分はできるなと思えることが見つかれば、倍率が低いどころか重宝されるし、すごくいいんだろうと思う。

結局、いろいろ試してみないとわからない。

 ここまでいろいろと書いてみたけれど、何が自分に合っているのかは、本当に、やってみないとわからないなと思う。大学の文系の学部を卒業して、まさか自分が一時的にでも農業を仕事にするとは思ってなかったけれど、やってみたら随分楽しかった。田舎暮らしも、これまで経験がなかったけど、都市部で暮らすよりも性に合っているかもしれないと思った。

数か月という短い期間、短期的にそういう経験ができる、農業の季節アルバイトというのはとても良かったし、鬱になって退職した結果そういう経験ができたのはある意味ラッキーだったと思っている。

季節バイトなんて、誰にでも経験できるものではない。定職についていて責任のあるポストにいたり、人手不足でやめられない職場にいるという人(絶対にやめてはいけない仕事というのはないと思うけれど)や、子育てをしている人がこういうことをするのは難しい。そうでなくても、体が不自由な人はできない。

でも、可能な人、たとえば転職のタイミングで数か月余白を作れそうとか、独身でいて身軽だとかで、農業に関心ある人には、季節バイトはかなりおすすめ。あぐりナビっていう求人サイトをみたらいろんな求人があります。(ただし、場所によっては何日も休みなく働かされるようなところもあるみたいなので事前に条件を丁寧に確認することをおすすめします。)

あとは、いろいろな業界で人手不足になっていくこれからの時代、いろんな仕事ができる人がたくさんいると、融通が利いて労働力を補いやすくなって良いんじゃないかなとも思う。自分もいろいろ経験しておこうと思っていて、これからもいろんな仕事をやってみるつもりです。その方が楽しそうと思えるようになったので。


たまには遠くを眺めてぼーっとしようね。