見出し画像

ニュータウン[ショート小説]

幼いころ週末に家族で出かけると、決まってニュータウンに行った。家から車で数kmの道のり。図書館に行ったり大型スーパーに買い物を待たされたり、ファミレスでご飯を食べたり。私は後部座席の左が定位置。帰りは疲れてシートに仰向けになる。

窓の外、夜空の中で左から右へ流れていく街灯のオレンジを見るたびに、ここは未来世界なのか宇宙都市なのか、いまが現実ではない気持ちになった。

どこかの星の地球そっくりに造られた街で、故郷を思いながら夜空を見上げる。今いる場所が地球じゃないことを知っているのは自分ひとり。そんな気分に浸る。

中学に上がって行動範囲が広がると、自転車でよくニュータウンに行った。大型書店で立ち読みをして帰る。車の後部座席では気づかなかった坂道が長々続いてて、私はいつも目の前の上り坂と格闘する。

大学を卒業して就職し、家を離れた。十数年して思い返すこともなくなった頃、ニュータウンの職場に異動になった。

車の後部座席でも自転車でもなく、新居から電車で通う。ニュータウンはもう新しくなくて、ショッピングセンターのテナントも少ししょぼい。昔あったおもちゃ屋も今は建物だけ。

夜、仕事が終わって駅に向かう途中に少し寄り道をして、坂の上から大通りを見下ろす。きらびやかな中心部と森に畑があるアンバランスのなかに、街の作り物めいた感覚を子供の頃から察していた。オレンジの街灯が遠くまで続いていて、空想していた宇宙を思い出してしまう自分に気づいた。


この記事が参加している募集

スキしてみて

よろしければサポートお願いします! 物理学の学び直しに使って次の創作の題材にします!