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航空機事故から学ぶ:疲労困憊で舞い上がった

2016年3月19日、アラブ首長国連邦(UAE)のDubai空港からRussia南西部Rostov-on-Don空港へ向かっていたfly dubai 981便(Boeing737-8KN型機)は、乗員7名と乗客55名を乗せて、風向240°突風30ktの暴風雨のなかRwy22へアプローチしていた。1,000AGLでwindshear alarmが作動し、機長は着陸復行を宣言。Aeroflotなど他3機は次々とdivertする中、空港の東側で2時間近くFL150でholdingして天候回復を待った。

その後機内Radarで雲の切れ間をみてRwy22へ再度着陸を試みたが、副操縦士はwind shearによる対気速度の急速な上昇を機長へ報告。機長は再度Go-aroundへ移行した。ところが今回は機体が急加速して機内では人物が浮き上がり、そのまま機首が滑走路方向へdivingして、同滑走路端へ3:45amに墜落した。高速で地表へ激突したため、62名全員が死亡した。

IAC(Interstate事故調)は旧ソ連諸国の航空機事故調査委員会で、UAEの事故調等と合同で事故調査を行った。事故機の残骸は木端微塵となっており、相当な高速で地面と激突したことが想像された。かつてB737型機はRudderのhard-overによる操縦不能事故が3件知られており(別記事参照)、Power Control Unitの残骸を回収してテストしたが、故障していなかった。

FDRの解析では、2回目の着陸復行ではFlapとGearが共に上げられてhybrid go-aroundしており、短時間に速度が25ktほど急加速していた。副操縦士は機長が減速しようとして操縦桿を急激に引いて機首上げとなったことを指摘。機長がtrim-downを12秒続けたため、今度は機体が急降下していった。事故調は、機長が後方と上方への体圧で体感性の錯覚から空間識失調に陥ったのだろうと推測した。

CVRの解析では、乗員は同社dispatcherから出来る限りholdingして目的地へ着陸するよう指示されていた。操縦士らは乗員のduty hourの上限に達することも危惧しており、勤務時間切れになる前に、無理なアプローチを試みた可能性が考えられた。

ロシアのRostov-on-Donでは春先に荒天が多いのが有名です。乗客が55人しか乗っていなかったので、Dubaiで安いJet A-1を目一杯搭載して離陸したのでしょうか?それとも2時間ほどholdingすることを事前に想定していたのか?straight legを2分、合計6分で1周するとして、20周くらい旋回してからapproachしたと考えると、疲労から来る空間識失調は必然かと思います。

急速に上昇したところで機首下げ姿勢になるとマイナスGとなり、空間識失調に陥って操縦対処を誤るのは、ウインチで曳航されたグライダー・パイロットでよく発生します。三半規管に急激な加速度が加わり、操縦席からは上昇中は青空が眼前に広がり、曳航索が切れて下向き姿勢となると、今度は地面が正面に見えます。姿勢儀がないグライダーでは、地平線を直ぐに目視出来ないと、容易に空間識失調へ陥ります。

悪天候下の夜間アプローチは細心の注意と集中力が求められ、自分なりの限度を設けておくのが良いでしょう。出発地からの飛行時間にもよりますが、自分はアプローチ3回まで、ホールディング30分程度が目安です。半時間を超えて上空で待機して天候が好転したことは、経験上殆どありませんでした。

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