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航空身体検査での適合・不適合

心身に病気があって操縦することが認められないことがあり、それを航空法では航空身体検査の不適合状態といいます。詳細は国ごとに多少異なり、日本の場合は他国より厳しめと思います。今世紀に入るまではもっと厳しく、自衛隊の航空機に乗務するsuper normalな健康状態に匹敵するくらい厳しいなと感じることもありました。自家用事業用を問わず、今日ではだいぶ緩和されたと感じます。

不適合の考え方は、どこの国でも「航空業務に支障を来す(恐れのある)疾患」という観点でほぼ共通しています。つまり航空機に搭乗中、操縦できない、または出来なくなるincapacitation(無力化、略してインキャパと呼ばれる)を起こす疾患が不適合ということです。

航空機の操縦では、機内が与圧されていないものでも富士山頂に匹敵する高度4,000m近くの高さまで酸素なしで上昇して操縦するので、低酸素状態で病状が悪化する疾病は危険です。この位の高さではSpO2(血中酸素飽和度)は海岸で100%近い人でも70%台まで下がります、過呼吸や激しい頭痛を起こす人もいます。一般の医師は、海水面のレベルで生活することを想定した診断をするので、この位の病状だったら普通に生活出来ますと患者を安心させるのですが、航空医学では判断が異なることを理解せねばなりません。音速に近い高速や宙返りなど、地上では経験できない非日常環境にも遭遇します。「パイロットになれなかった医者が腹いせで不適合にする」と逆恨みするのは大きな誤解です。特に有償で乗客や器物を輸送するベンテランパイロットの多くは、第1種航空身体検査証明を保持するため、多大な努力と節制をされています。

他方、Wright兄弟が初飛行した米国ではRight of Flight(飛行する権利)が浸透しており、幾つもの疾病が一定条件を満たせば引き続き操縦しても良いと認められる特例(Special Issuance)が指定されています。最初の申請では大抵が大臣判定となりますが、その後は明確な臨床条件をクリアしていれば自動的に適合が延長されます。

自家用操縦士でsafety pilotが同乗すれば操縦が出来る場合や、個別の条件下で操縦を認める条件付き適合の事例は、米国FAAでは沢山あります。

かつてベースにしていたGeorgia州には、身体障害者に操縦を教える学校があり、車椅子で操縦出来るよう改造された小型機が置いてありました。操縦席に座らせて貰い、満ち足りた様子で飛び立っていく操縦学生をみて、思うように体が動かせない人ほど自由に空を飛ぶ喜びは大きいのだと感じされられました。

先天性の心臓病を患った若者が幾多の苦難を乗り越えて職業操縦士になった若者、抗癌剤治療を受けながら操縦訓練を続けている大学生、エイズと共に生きながら航空会社へ就職活動する軍人パイロットなど、挑戦を続けるエアマンを何人も応援してきました。

為せば成る。為さねば成らぬ、何事も!このシリーズでは色々な病気で航空身体検査の可否が決まった体験談を綴っていきます。






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