ぺんだんと 第三章 作:Erin

「~♪」

 鼻歌を歌いながら学校に向かう。

色々とスッキリしたせいで、逆にテンションが高くなってしまった。

ドサ!

「いったー」

案の定、門から少し離れたところで誰かとぶつかって転んでしまった。

「あっ、わりぃ。大丈夫か?」

ぶつかった相手は今学校で噂の不良、望月(もちづき)瞬(しゅん)だった。

私とはクラスが離れていて、よく知らないけど、問題をよく起こすという噂は聞いた。

おまけにモテる。不良なのになんでモテるんだろう? 前からずっと疑問に思っていた。

しかも、不良のくせに金髪ではなく黒髪で理系男子にいそうな髪型だ。

「だ、大丈夫です」

「次は気をつけろよ!」

望月君はそのまま門の中に入った。

立ち上がろうとすると、望月君のハンカチが落ちているのに気づく。

「あ、 待って!」

呼び止めようとしたけど私の声は届かなかった。

「また会ったときに返そう」

ガラガラ

いつもの調子で教室の扉を開けた。

いつもなら私が入った瞬間教室の空気が悪くなり、女子に嘲笑われるのに、

何も起こらない。

もしや拓斗と別れたからいじめがなくなったのか? それにしては情報早すぎない?

まあ、収まったのならどうでもいいか。

久しぶりに聞く賑やかさの中、私は席に座った。

1時間目からいきなりテスト返し。

「日高さん」

「はい!」

名前を呼ばれ、テストを受け取る。すると先生が気持ち悪いくらいの笑顔で私を見る。

「日高さんおめでとう! 学年トップだよ」

「え、うそ!?」

解答用紙を見てみると、なんと100点! うれしさのあまりにやけてしまう。

 4時間目までテスト返しが続いた。しかも全教科、オール90点代だった。

「日高さーん、テスト見せて~」

璃子たちが紙を勝手にとる。だけどそれを見た瞬間、隣で見ていた美雪たちも目を丸くした。

「ぜ、全部90点代!?」

「えええええええ!?」

クラスのみんなも目を丸くして私を見た。

「あのさ」

女の子たちがニヤニヤしながら話し出す。

「なんか、いままでちょーバカだと思ってたけど見直しちゃった!」

「え、ああ、ありがとう」

皮肉っているのか褒めているのかよくわからないけど、とりあえずお礼を言った。

こいつら絶対裏で何か企んでる……。

昼休みになり、裏庭で食べに行こうとすると璃子たちに呼び止められた。

「一緒にお昼食べよー」

「あ、うん」

咄嗟に了承したけど、どういう風の吹き回し!?

なんか今日のこいつら気持ち悪い。

結局教室で一緒に食べ、会話にも自然に馴染めたが、由梨は私に目も向けず話してくれない。

まず会話の内容が先生の悪口というのがタチ悪い。毎日こんな話題なのだろうか……。

ああ、裏庭で食べたい。

「2学期から専門委員が変わりますので決めたいと思います」

5時間目、委員会、係決めの時間。1学期は理科係をやった。仕事もそんなにないし楽だから。

(次は数学係にでもなろうかな……)

「委員長決めは推薦にする。推薦したい人いるか?」

ぼーっとしていると先生の声が耳に響いた。委員長か、私には関係のないことだ。

そう思って机にかまぼこ状態になろうとした。

「誰もいないのか? じゃあ先生が推薦しよう。日高、委員長やってみないか?」

「え!?」

突然先生に推薦される。断りきれない空気になってしまい、受け入れてしまった。

「他の推薦がないので委員長は日高に決定しました。じゃあ次は——」

なんて勝手な……。

掃除の時間、女子が私の周りを囲んだ。

「テストが全部90点代だったからって、いい気になってんじゃねえよ!」

「委員長になったからって偉そうにしやがって、 あんたが推薦された理由はね、点数が高かったからなだけなんだよ!」

女子どもは性別にしては荒っぽい口調で言い、私を突き飛ばした。転んだ場所はぬれていて、制服が汚れてしまった。

わーなんて勝手な(2回目)。誰も反対していなかったのに。さっきまで一緒にお弁当食べてたのに。
やっぱり、何か企んでいたのね。

「うわーっ、だっさ!」

みんなは笑いながら去っていった。その群れの中に璃子、美雪がいた。

ほかのみんなと一緒に私を見ながら笑っている。

ほんと……女って恐い。

とりあえずトイレで汚れた制服を脱ぎ、体操服に着替えた。

家に帰る前に気持ちを落ち着かせるため、裏庭に向かう。

「ハァー、疲れた」

あの大きな木にもたれ、溜息をつく。やっぱり心の奥底では悔しかったのか怒りが収まらないのか、涙が頬をつたっていく。

ドサッ!

「え!?」

突然上から男子が落ちてきた。二階からだけど、低めの高さで死んではいないのだろうけど心配になり、恐る恐る近づいてみる。落ちてきた男子は朝ぶつかったあの望月瞬だった。

「イッテー。ったくあいつらぶっ殺す!」

「だ、大丈夫ですか?」

心臓をバクバクさせながら声をかけてみた。すると望月君は起き上がって私をじーっと見つめる。

「な、なんですか?」

「おまえも大丈夫? 泣いてたみたいだけど」

「あ、」

素早く涙を拭う。

「ちょっと、色々あって」

「ふーん」

「あ! そういえば」

私は朝、望月君が落としたハンカチをポケットから取り出した。

「これ、ぶつかったときに落としてったよ。ちょっと汚れてるけど……」

「いや、元から汚れてたし、サンキューな」

「おーい瞬——、大丈夫か?」

上から望月君を呼ぶ声が聞こえた。上を見ると、望月君といつも一緒にいる藤原君がいた。

拓斗の名字も藤原だからちょっとドキッとしてしまう。

藤原って名字はいっぱいいるけど、なんか雰囲気似てるし親戚かもしれない。

いや、気のせいか。

「じゃあ、俺行ってくる」

「ああ、うん」

望月君はそのまま木に登って窓から教室に入った。

この大きい木のせいで、藤原君から私は見えなかった。一緒にいたらなんか噂されそうだし……。

「さてと、帰ろうか」

私は立ち上がって背伸びをした。

あと2年。そう、2年なんかあっというまだ。私なら絶対、越えられる。