ぺんだんと 第一章 作:Erin

「ヤバいちこくする!!」

 私、日高夏美。

月見ヶ丘(つきみがおか)中学の1年生。入学したばかりで、まだ分からないことが多い。

そして遅刻したことはないが、いつもギリギリの時間帯で学校に着く。

小学校の頃は、結構成功していた。例えば剣道1級合格、マラソン大会優勝、テストは毎回90点以上などなどもっとたくさんある。

そして成功で一番の自慢は、彼氏ができたこと。剣道の道場で出会った、同級生の藤原拓斗(たくと)。
拓斗とは学校が違ったけど、家が近くで親同士も仲がいい。

そんなこんなで中学生になった訳なんですが

勉強は別に心配はないけれど、あまり社交的でない私は未だに5人も友達ができていない。

唯一友達、いや親友と言えるのは入学してすぐ仲良くなった秋月由梨だけ。

でもね、友人がたった一人じゃだめなの。

「夏美、私同じ塾の拓斗、好きになったかも」

「あ、そうなんだ……」

ほらね。確かに私は由梨に拓斗と付き合ってることは言っていない。
でももし言えば、確実に友情関係は崩れる。

「ごめん、私拓斗と付き合ってるから」

「え……」

それでも私は言った。恋と友情どっちを選ぶ? なんて質問が嫌なだけで思わず言っただけだけど。
明日から確実に独りになるのを覚悟して、一日が終わった。

次の日、いつものように教室に入った。

「机が、ない!?」

あったはずの机は教室の端にきれいにかたづけられていた。

「え? どういうこと?」

不思議に思いながら机をもとの場所に運んでいると教室中から冷たい視線が私に向けられた。

となりの席の美雪(みゆき)に声をかけようとすると、美雪は

「やだぁ~! 裏切り者がこっちにくるよぉ。」

困った顔で璃子(りこ)や由梨達のいるグループの方に逃げて行った。

すると、璃子はいやみっぽい笑いを浮かべながら私の席に近づいてきた。

「由梨の好きな人を横取りするなんていい度胸ね」

「え、ちょっとそれ誤解ーー」

「ていうか、あんたって前からウザイって思ってたんだよね」

他の女子もでいっしょになって私を責める。

「ねっ、由梨! そうだよね」

「う、うん……」

困った表情で頷く由梨。

「というわけだからさ、罪滅ぼしってことで!」

そう言って璃子達は笑いながら、私の机から離れていった。

その後も教室移動、昼食、私はずっと一人だった。

女子は徹底的に私を無視した。男子は私がいじめられていることを察して避けていった。

授業中は先生の見ていないとき、私の教科書や筆箱を床に落とし、

それを拾おうとするとみんなをクスクスと笑いだした。
ただ好きな人がかぶっただけなのに、このまでされるとは。改めて女子の恐ろしさを知った。

やっと最後のチャイムが鳴り私は急いで逃げるように家に帰った。

「ただいまー」

誰も返事をしない。そりゃ当たり前か……。

私のお母さんはハリウッドスターも使う有名化粧品会社の女社長。
お父さんは有名なオリンピック選手を数々導いてきたスポーツトレーナーで今海外にいる。

そういうことで両親はどっちも忙しく私はいつも一人。

いじめのことは誰にも相談できない。

夜十時、お母さんが帰ってきた。

「ただいま~ 夏美、最近学校はどう?楽しくやってる?」

「あ、うん……」

お母さんにいじめのことを話すべきなのか。
やっぱりつらい。
忙しいようだし、おまけにプライドが高いから余計ーー。

お母さんは何事も完璧にしたがる。
剣道も最初は軽い気持ちで始めたけど、お母さんが厳しいおかげで一級までの道のりは大変だった。

もう毎日バリバリしごかれた。

まあ女社長だし会社を継ぐとしたら私だしそりゃしごかれるけど。

「うん、めっちゃいい感じ!」

「あらそう、よかったわ。成績落としたら塾、週三回に増やすわよ。」

「はぁーい」

塾が週三回になるだけは絶対にいや。そりゃ~帰宅部だけど、いじめのせいでよくわからない体力を使ってしまう。

「そのかわり、成績上がったらご褒美ちょうだいね」

「はいはい。前からずーっと欲しがっていたスマホあげるわ」

「ありがとう、がんばる!!」

ということで、今日からいじめなんか忘れて勉強に励みます! のはずが、勉強する場所がない。

教室はうるさくて集中できない。家は、まぁできるけどゲーム機などが邪魔する。

「そうだ、図書室だ!」

放課後、チャイムが鳴った後すぐに図書室まで行った。月見ヶ丘の図書室は、人気がないのか、来る人が少ない。

そこで私は勉強し始めた。

「えーっと、2X−8=4X+6っと」

勉強中、独り言が多い癖があって、勉強会ではいつもうるさいと言われる。そのせいで、誘われなくなれ、自分から行きたい! 

と言っても断られる。そんなちょっとした悲しい過去もあった。

キーンコーンカーンコーン

下校のチャイムが鳴った。私はすぐに図書室を飛び出し、暇なもんだったから裏庭に行ってみた。

そこには、一本の大きな木があった。

学校にはこんなうわさがある。

 裏庭にある大きな木の下で、好きな人に告白をすると両想いになると……。

クラスの子も先輩たちもしたことがあるようだけど、誰も両想いになった人はいない。

「明日から、休み時間はここですごそうかな……」

そんな独り言を呟き、その大きな木に近づいて行った。

そういえば、私と拓斗が付き合った理由って、ただ親同士の仲がよくて気が合っていたからだ。

中学生になってからも、忙しくて一緒にいる時間がないし。もしかしたら私はただ、拓斗との恋に恋をしていたのかもしれない。

「もう、別れよう。そしたら、由梨たちの気も済むかもしれない」

 そう決意し、大きな木から離れ、学校を出た。