見出し画像

大学付属校から内部進学を決める際の留意点(データから見る長所短所)


付属校から進学して、下宿までさせたのに…

ある先輩が、ご子息の学生時代の話をされた。色々お金がかかったとおっしゃる。
付属校から内部進学を決めたのは良かったが、大学のそばで下宿したいと突っ張ったそうだ。その大学まで先輩の家からは、公共交通機関で1時間ほどだが、少なくとも3度の乗り換えを伴う。3社ともに定期代がかかるとなると費用がかさむ。それで家賃等との比較もされたのだろうか、結局は認めた。
ところが、ほどなくして不登校になる。結果的に卒業まで5年かかり、親である先輩にとって余計な出費になった。バイトを続けてくれていたのは、せめてもの救いだったというが。

『付属校出身で友達もいるはずなのに、何でや?と。(卒業後、節目のイベントでの資金について)息子から助けてと言われた時は、断るなり減らすなりしたったわ~』とのこと。実に納得である。
それでも、付属校に行かせたことは間違いなかったとおっしゃり、なにより(大学受験の心配がなくて)楽だったという。頭の善し悪しではなく、「勉強」が苦手な子だったらしい。

この「楽」が、外部進学者だった私からは不自然に思えた。
親はともかくとして、内部進学してきた付属校出身者たち自身は、どうしても「楽」には見えなかったからだ。

付属校出身者の立ち位置

付属校出身者は、アホ扱いされた印象が残っている。私の通った大学で、語学の再履修といえば、内部進学組の宝庫だった。
受験勉強が、ある程度は大学履修の準備にはなっていたりする。その後の人生に役立つかどうかは不確かでも、入学準備としての頭の体操にはなる。
また、1回生ゼミでも3回生以降のゼミでも、発言が多かったりリードするのは、一般入試組か指定校推薦組が相場だった。それでも付属校出身者同士の絆があって、その点はうらやましく感じたものだ。

ただ、以上は私の通っていた大学の話であり、現在、教員を務める大学だと状況が変わる。
15名ほどの1回生クラス6つを持ちまわる授業を担当しているが、付属校出身者の中にも、話をリードしてくれる学生は少なくない。もっとも高評価をつけたのが、付属校出身者だったクラスもあった。何が違うのだろうか。

大学ごとの特徴

私の通っていた大学(立命館大学)と、教員を務める大学(大阪産業大学)のデータで比較すると、何か出てくるのではないだろうか。
単純ではあるが、各在籍者数のうち、付属校出身の内部進学者はどれだけを占めるかをみてみる。以下、特に断りが無ければ、2022年度の卒業生におけるデータだ。

立命館大学の例

ありがたいことに、入学者総数と内部進学者数の両方が載った公開資料があるので、先にリンクを示しておく。
2022年度志願者・合格者入学者数
同年度の入学者総数が7965名に対し、学内推薦すなわち内部進学者は958名である。11.93%となるから、10人に1人以上も同じ学校の出身者がいれば上等と思われるかもしれない。少ないと思われる方もいるかもしれない。
が、上記は付属4校の総数であって、1校ごととなると、さらに減る。

最も内部進学者が多かった立命館宇治高校でも287名にとどまる。これを入学者総数で割ってみると3.6%となり、大学同期のうち28名に1人しか高校の同窓がいない計算になる。
一緒の科目を履修すれば良いとの発想もあるが、同大学の基礎は1回生ゼミ(基礎演習)に始まる。自分の意思で割り振られないから、いくら同じ学部・学科専攻に入学を決めても、同じ高校の友人と一緒になれる確率は極めて低い。

あくまでデータだけの話だが、内部進学者で固まったら何とかなるわ~で済ませない構造が成立している。私がいた頃よりも徹底している。
ちなみに私の出身学部は、4校総計の内部進学者が10.3%にとどまっている。専攻別でも10.7%。いずれも、全学平均より低い。意外な結果だった。

大阪産業大学の例

まず、公開されている入学者数は、1,828名になる。
これに、付属2校からの合格実績が、合計236名。仮に全員が入学したとすると12.9%となり、立命館の状況とそこまで変わらない。

だが、1校ごとの比率となると状況が変わる。
事実上、内部進学が存在するのは大阪産業大学付属高校からのみで、756名の卒業者のうち、229名。同じ高校の同級生が8人に1人はいる状況となる。私の印象ともほぼ変わらず、親御さんが『大学でも友達がいるから』と思われても、差し支えない比率だ。

内部進学者が7名しかいない、もう一つの付属校とは、あの大阪桐蔭高校だ。そもそも、内部進学者目的に運営されていない、進学校兼アスリート養成校であり、別物と考えたほうが良い。
ただし校地じたいは、大産大に隣接している。駅からのスクールバスは大産大生との同乗になる。高名な野球部員たる生徒は、生駒山頂(飯盛山)の寮兼練習所との往復だから別バスだ。1年生はバスに乗らず、3キロ以上の山道を上り下りするという。(時間帯的に見たことがない)

以下、色々と話題の二校についても挙げてみる。

慶應義塾大学の例

まず、最新の入学者数は、2023年4月期で6375名。9月期は毎年200名以下なので、除外するとして、付属各校の進学実績をみてみる。

慶應義塾高校 724名中、711名が内部進学。大学入学者総数の11.2%
慶應義塾志木高校 237名中、234名が内部進学。大学入学者総数の3.7%
慶應義塾女子高校 推薦数として188名。大学入学者総数の2.9%

志木と女子は、立命館の全4校同様に、大学に進学した途端、意外にも広い海に放たれた印象を受けるだろう。
一方、慶應高校は、しっかり9人に1人いるから、大産大付属同様に『大学でも友達がいるから』が成立する。外部進学者たちにも、慶応高校への親近感を広める規模と言っていいだろう。大学相手のエラーを誘ったとの批判すら生じた甲子園での大応援も、身内ネタで盛り上がっただけのことだ。「学閥愛」は良いほうにも悪い方にも転ぶ。

日本大学の例

この学園は、付属校やら系属校やら、内部進学の仕組みが複数あり、関係する学校数が断トツに多い。やめた。理事長の林真理子さんでも、ご存じないだろう。
・・・では、もったいないので、何校かだけ挙げてみる。

日本大学情報公開サイト を見わたしてみたのだが、入学者総数を示す数値がなかなか見つからない。入試の合格者総数は要らないから、在籍者数から割り出すよりないか。以下、日大の在籍者総数73,686名を4.1で割った、17,972名を1年生の在籍者総数=2023年4月の入学者総数とみなす。(4.1で割ったのは、中途退学や留年・休学を配慮した概算です)

日本大学高校 515名中、262名が内部進学。みなし入学者総数の1.5%
日本大学藤沢高校 581名中、291名が内部進学。みなし入学者総数の1.6%
日本大学山形高校 301名中、100名が内部進学。みなし入学者総数の0.6%
日本大学第二高校 400名中、127名が内部進学。みなし入学者総数の0.7%
日本大学第三高校 367名中、159名が内部進学。みなし入学者総数の0.9%

日本大学が巨大であり、かつ付属校も多いがゆえに、どの高校から入ろうが少数派でしかない。

データを見た上での分析

『大学でも友だちがいるから』型・・・大産大付属高、慶應高

他を調べてみないと分からないが、少数派とみられる。
ただし、大産大付属高にとって、内部進学は一部の選択肢でしかなく、7割がたの生徒は他の学園への進路を選択する。関関同立等への入学も少なくない。
いっぽう、慶應高校は724名中711名が慶應義塾大学に進むから、明らかに内部進学用の高校として位置付けられている。間違いなく、高いブランド力と高い教育力を誇る学園である。それだけに、同じような人脈の中で生活を続ける状態については、メリット面のみが語られるのだろう。(慶應で当然!な感覚が、甲子園の過剰?応援にもつながっているのだろう)

『大海に放たれる』型・・・立命館の全4校、大阪桐蔭高、慶應志木、慶應女子、日本大付属の全校

私のような(おなじ京都府内であるにもかかわらず)公立高校出身者は、大学で同窓生と会う期待などまずなかった。というか全く想定していなかった。それに比べれば、20名に1名ぐらいなら、高校時代の付き合いがほどよく残るんじゃないかと思ってしまう。
『高校の付き合いが続く』と思い込んでいる内部進学者にすれば、大海に放たれたも当然だろう。同じブランドの学校なのになぜ?と思っても仕方がない。それでも、数字上では、他の学校出身者よりは恵まれた状況だ。
新しい出会いのきっかけととらえるか、無理やり大海に放たれたと考えるかは、入学生自身による。間違っても、親の判断ではない。

何にしろ、内部進学はメリットが多い。

先述のように、首尾一貫して同じ学閥ブランドの中で生きていけるのは慶応高校ぐらいだ。『大学でも友達がいるから』メリットは、始めから考えないほうが良い。
それでも、付属校からの内部進学の社会的意義は多い。いくつか整理しておく。
ただし、親の不安解消目的はあらかじめ外しておいた。子の人生自体に、直接関係ないからだ。未来志向ならいいけど、親御さんの経験則だけで発生している「不安」なら、解消するだけ無駄だ。同じ時勢や状況は続かない。中途半端に過去の価値観を押し付けることは、子が新たな状況を迎えて判断するときの邪魔でしかない。

1.人間関係が続きやすく、将来にわたって交流が見込める

多くのみなさんがご想像の通りだ。地縁や血縁の薄さを、大きくカバーできる。とはいえ、今年の甲子園優勝校のように、相手側守備のエラーを誘うまでの過剰な応援をしたりなど、行き過ぎた学閥愛は考え物だ。学校関係者以外から疎遠にされる言動は避けたほうが良い。

2.大学受験向けの指導が控えめで、特殊な才能を邪魔しにくい

これが一番大きいかもしれない。特に『高等学校普通科』は、大学進学だけを目標にしたがる傾向が昭和以来の相場だ。というより、進学を当然としている高校がほとんどだ。
大学一般入試の出題範囲が、国語・数学・理科・社会・外国語の枠を超えてくることは、早々ないだろう。この5教科に全く得意がないなら、普通科を避け、特殊な専攻科に入るか、職業系の高校に入るほうが賢明だ。あるいは、高校に入らず好きなことをやって、後から高卒認定試験を受ける道もある。また、国家資格の中には、学歴要件が不要なものも少なくない。
芸能やアスリートなど、まさに特殊な才能を生かす人も、付属校からの内部進学が目立つ。お笑い芸人かつ関西圏に限っても、サバンナとジャルジャルの両名は高校以前からの付き合いで、他には霜降り明星の粗品など、枚挙にいとまがない。

3.学区が狭い(京都府など)公立高校の弊害を回避

公立高校との比較に限ってのメリットになる。人口集中地域かつ学区の狭い都道府県が対象だが、学生の多様性が薄い中で3年を過ごす羽目になり、人間関係で学べる範囲は広くない。都市部のように生徒の多くがサラリーマンの子女であるなら、地縁も期待しづらい。
かつて私のように、特になりたいものがない15歳なら、地元の公立に行こうが私立に行こうが大して差はないだろう。高校3年間を成人するまでの「モラトリアム(猶予期間)」と割り切ってしまうのもありだ。

4.貧富の格差を緩和(外部進学者からは感謝です)

意外に思われるかもしれない。大学を持つ学校法人の多くは、財務安定化のために付属校を運営している。言い換えれば、高校収入の余剰金を大学に回すことだって可能だ。回せるからこそ、ほぼ無試験での内部進学を認めているとも言える。
私のような、公立高校から私立大学に入った者としては、付属校出身者の親御さんには、感謝しかない。おかげさまで、高校以前から学費を払い続けている学生と同じカリキュラムを受け、施設を利用できるのだから。

ほかにも色々あるが、メリットのほうが圧倒的に大きい。大阪府のような高校学費補助(無償化)が進む地域なら、なおさらありだろう。(ただし、学校法人側はしょっちゅう元の学費削減について圧力を受けているらしく、先行きは不明とみている)

数少ないデメリットとして

先ほどの先輩のご子息の例が、まさにデメリットかと思われる。『大学でも友達がいるから』と期待した事例だ。
ご子息の大学についても調べたが、立命館各校と同程度の高校同窓生しかいない計算だった。分析の段落でも述べたが、「出会いが増えた」とプラスに捉えることが出来なかったのかもしれない。
また、わざわざ下宿にしたのは、その大学の学生が実家を出てキャンパスの近くに住むうケースが多いのもあったと思われる。親にすれば損だったかもしれないが、ご子息自身は周囲に合わせようとしたのだろう・・・

以上、付属校に縁がなかった私が言うから間違いは少ないだろう。「あの決断は良かった」と思い込むバイアスが働かない。
何より、親御さん達が付属校から払い続けた学費の恩恵を受けた身だ。感謝しかない。ぜひ、付属校からの学内推薦・内部進学システムは続けていただきたい。

※先輩とご子息の話は、方々から聞いた話をリミックスした架空の内容です。

ここから先は

0字
過去記事を全部読めます。よろしければ、ご購入願います。

SDGs的なことを書いていると思いきや、情報社会関連、大学でも教えているボランティア活動などを書き連ねます。斜め視点な政治経済文化評論も書…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?