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「PRとはパブリックリレーションズ」という言葉の先にあるもの。

「PRとはパブリシティではなく、パブリックリレーションズである」

この言葉は、PRを仕事にする人からよく聞くことが多い。僕自身もPRについて説明をする時によく話している。

メディアで記事になることを目的としたパブリシティはあくまでもPRの手段のひとつであり、社会との関係づくりを行うことこそ、がPRの本来の仕事なのだと。

だけど、この言葉は、しっかりと届いていないことが多い気がしている。

それはなぜかと考えてみると、パブリックリレーションズというのは、コミュニケーション戦略を考えるにあたっての「考え方=概念」だからどうしてもフワッとしてしまうからだ、と思う。

だから、「PRの考え方は分かったけど、具体的に何をすればいいの?」という状況が起きてしまっているように感じる。

そこで、「パブリックリレーションズとは社会との関係づくり」という言葉を、より具体的に「どう考えて、何をすればいいのか」言語化することに、チャレンジしたい。

ざっくりと自己紹介

なぜか、小さい頃から忍者に憧れていた。忍者になりたかった。その思いを秘めたまま大学生になり、就職先を考える時期に読んだ1冊の本で、PRという仕事と出逢った。

この本『戦争広告代理店』は、1990年代に起こったボスニア紛争においてボスニアに雇われたアメリカのPR企業・ルーダフィン社が、巧みな情報戦略により国際的な世論を動かしてしていく暗躍の様子が描かれている。

この本でPRという仕事の凄まじさを知ったのと同時に、「これこそ憧れていた忍者だ!」と直感的にときめき、PR会社ばかり受けて、無事に新卒でPR会社に入社した。

PRの現場で、一生懸命に仕事をする中で、「PRを追求するためには、パブリシティ以外もできないといけない」と強く思うようになり、大学院に進学してデジタルコンテンツプラットフォーム研究、IT企業でのマーケティング職を経て、今に至る。

割と散らかっているが、自分の中ではずっとPRのスキルを一生懸命に追求してきたつもりなので、その中で学んできたことを、なるべく分かりやすく書きたいと思う。

改めて、PRとはどんな仕事か

それでは、改めて「PRの仕事とは何か」ということを考えるにあたって、「PRとはパブリックリレーションズである」という言葉から始めたいと思う。

PRとはパブリックリレーションズ、つまり、"社会との関係づくり"にコミットする仕事と言われている。そしてそこでよく語られる大切な概念が利害関係者のことを指す「ステークホルダー」というもの。

PRの仕事は、まず「ステークホルダー」を定義することから始まり、そのステークホルダーとの良好な関係を築くためのコミュニケーション戦略を考え、実行していく。

このステークホルダーとの関係を作るために、マスコミュニケーションではなく、一本の線を通すようなコミュニケーション設計の考えをするところが、PRのユニークな点かと思う。

極論をいれば、「たったひとりを動かせばいい」ということがPRならではの考え方だ。

では、PRマンの腕の発揮をするのはどこかといえば、ステークホルダーとの関係づくりをするために、最適な「メディア」と「メッセージ」を選んで実行していくところだと思う。

次のパートから、どのようなステップでPR戦略を考えていくか、もう少し具体的に書いていく。

ステップ1:ステークホルダーの定義

先ほども書いた通り、PRの仕事はまずステークホルダーの定義から始まる。

ステークホルダーの定義と書くと少し難しく感じるが、要するに「誰と、どんな関係を作りたいか」を決める、ということだ。

ここの「誰」と「どんな関係」がなるべく具体的であればあるほど、その後のPR戦略が作りやすくなるので、なるべく具体的に想像することをおすすめしたい。

例えば、以下のようなイメージ。

・「新R25」を熱心に読んでそうな23〜25歳くらいの若手ビジネスパーソンに、新刊の読者になってもらいたい。
・メガベンチャーの労務担当者に自社サービスを導入してもらいたい。
・大手総合商社で働く人に事業担当として入社して欲しい。

ここでは表向きの綺麗事は書く必要ないので、なるべく本来の目的に忠実になって、誰とどんな関係を作りたいかを定義できるかが、成功の鍵になると思う。

ステップ2:ステークホルダーの行動原理を理解する

次に行うことが、「ステークホルダーの行動原理を理解する」ことだ。

そう書くと、また難しく感じてしまうが、コミュニケーションプランを考えるにあたって、関係を築きたいステークホルダーが「何に興味があって」「どんな行動原理で動いているのか」ということを把握することだ。

それを考えるために、ステークホルダー本人もしくは、ステークホルダーに近い方を知り合いやネット上の中から探してきて、インタビュー記事やSNS投稿、各種アウトプットなどを徹底的に調べたうえで、何に興味があって、どんな行動原理で動いているか(たとえば「やりがい」を求める、「お金」を求めるなど)を理解しておくことが大事だ。

身の回りの凄腕PRマンたちは、ちょっと怖くなるくらい、対象のステークホルダーTwitter/Facebook投稿などをくまなくチェックしている気がする。僕も気づいたらかなり細かくチェックするようになり、ネットストーキング力が自然と高くなっている。

ステップ3:接点となる「メディア」とそこに載せる「メッセージ」を決める

これまでのステップで、ステークホルダーへの理解が深まってきたら、いよいよ彼ら/彼女らとの接点となる「メディア」と「メッセージ」の選定を行いコミュニケーションを作っていく。

まずは、「メディア選定」から。

ここでいう「メディア」とは、いわゆるメディア(TV/新聞/WEBなど)、プレスリリース、SNSに限らず、ステークホルダーとのあらゆる接点を「メディア」として捉え活用していくところが、PRマンの腕の見せどころだと思う。

たとえば、「メディア」はざっと思いつくだけでも以下のようなものがある。

・メディアへ企画持ち込み
・プレスリリースを出す
・電話をかける
・メール/お問い合わせフォームから連絡
・メルマガ開設/寄稿してもらう
・イベント開催/ゲスト参加
・展示会を開催
・人に紹介してもらう
・Twitter/Facebook/Instagramでの発信
・Youtubeでの発信/コラボ
・広告出稿/広告での起用
・自社サイトでの記事で取材/対談
・外部メディア/イベントででの対談
・取り組みに協賛する/共同でPJをやる
・商品サンプリング
・インフルエンサーを起用
・飲み会にきてもらう/一緒に飲む
・第三者団体からの調査発表


よく見回してみると、世の中にはたくさんの「メディア」がある。

ステークホルダー像が具体的になっていればいるほど、そのステークホルダーと接点を持てる固有の「メディア」も見つかりやすくなると思う。

そして、メディア選定ができたら、次はそこにメッセージを載せていく。

メッセージづくりについては別途またTipsの形でnoteを書きたいと思っているが、メッセージを考えるにあたり大切なことは、「あらゆるメディアは制約をもっている」ということだ。

たとえば、TVであれば画面映えする画がないといけない。(Webサービスはこの点、PRに苦戦することが多い)。イベントであれば、時間の尺という制約がある。サンプリングであれば、渡せるもののサイズや許可されている場所の制限がある。noteでの文章は、プラットフォーム規約に違反しない形で書くという制限がある。Twitterでは140字以内で表現しないといけない。

このように、あらゆるメディアは必ず何らかの制約をもっている。だから、メッセージをそのまま伝えるのではなく、そのメディアの制約に合わせて発信したいメッセージを加工していくことが大切だ。

さらに言えば、そのメディアの制約は、それぞれのメディアの個性でもあるので、どのメディアであれば伝えたいメッセージが一番届きやすいかも逆算して、メディア選定・メッセージ開発をできたら良い。

書いてみると意外とシンプルで、そんなもんか、という感じもするが、このプロセスをしっかりとやることが大切だと思う。個人的には、鮮やかなPRプランを考えることができるPRマンよりも、「この人にメール一本送れば関係作れますよ」という派手でなくても最適な打ち手を提案できるPRマンこそが一番のプロフェッショナルだと思う。

そしてやっぱり大切なパブリシティの話

ここまで、あらゆる接点を「メディア」として捉えてコミュニケーションを作っていくパブリックリレーションズについて書いてきたが、パブリシティ(メディアプロモーション)はPRの仕事をするにあたってベースとなってくるものだと思う。

パブリシティで成果を出すにあたっても、基本はここまで書いてきた考えが活用できると考えている。

メディアリストを作って上からどんどん電話を欠けていくのではなく、どのメディアと親和性が高そうかをリサーチしたうえで対象となるメディアを選択する。

次に、そのメディアへの理解を理解を深めるために、過去の特集企画や、記者の方がこれまでどんな取材をしてきたのか、徹底的に調べる。

そのうえで、記者に電話もしくはメールにて、「なぜ連絡したか」「どういう企画を相談したいか」を伝えたうえでアポをとり、直接面談し企画を相談。何を誰を取材できるかを伝えたうえで、記事化打診というプロセスを丁寧にやっていくことが大切だ。ここでも一本の線を通す、という考えでコミュニケーションを作っていくこことがおすすめだ。

また、PRをやっているとよく話に出てくる「WBS」に出たいという話。これはもちろん可能性はなくは無いが、競合も多いためあまりおすすめでは無い。

おすすめなのが、「メディアは他のメディアを参考にしている」というメディア間の情報連鎖の考えだ。たとえば、テレビ番組のスタッフはネットメディアを参考にしている、ネットメディアの記者は、SNSで話題になっているネタを参考にしている、新聞記者は専門誌からも情報を得ている、などだ。

その連鎖にうまく乗れば、うまく拡がっていくことができるので、まずは自社の情報をnoteなどで直接発信しSNSでシェアをすること、親和性の高い専門webメディア、業界紙での露出量を増やすことからおすすめしたい。これは比較的難易度が高く無いため、ここをしっかりやっていくことが、長い目で観た時に、大きな資産となってくる。

いくつか事例紹介

最後に、少しだけPRにおける「関係づくり」の事例を紹介する。

①某スポーツ選手とのコミュニケーション
以前、仕事で某スポーツ選手と仕事をした際そのスポーツ選手が急に機嫌が悪くなり、全くこちらのいうことに聞く耳を持ってくれないということが起きた。その際、そのスポーツ選手とのあらゆる接点を洗い出し、この方には絶対に頭が上がらないという方を見つけた。そしてその方経由でスポーツ選手に話をしてもらうことで、反省の言葉も頂き、無事に仕事を進めることができた。仕事としては炎上案件というもので、成功事例としてではないが、「あらゆる接点をメディアとして捉える」PRという仕事を考えるうえで、思い出深い仕事となった。

②「削らない角質ケア」フットケア商品
ピーリングという方法で足の角質を除去するという新規性の高いフットケア商品のPRをした際、当初はドンキホーテなどでイロモノ商品として扱われていた。「ピーリング」という方法をイロモノとしてではなく、信頼性の高い正統派商品として位置付けるためのPRを行った。まず、ピーリングを信頼性の高いフットケア方法として定着させるために、フットケアにまつわる専門家を組織化のうえ、定期的なセミナーやレポートを通じて情報発信を行った。また、並行して、他のお店ではまだそれ程売上が伸びていなかったが、渋谷ロフトで売れ始めていることに着目し「渋谷ロフトでのフットケアグッズランキング」企画を情報番組に実施してもらい、全国放送となることで、大きな話題を呼び、売上を伸ばすことができた。

③ハイテクベンチャーPR
スタートアップがパブリシティを行う際に直面する問題は「早すぎる」ということだと思う。量子コンピュータ分野のスタートアップのPRを担当した際、メディアPRを行うのではなく、自社メディアにて「量子コンピュータ」とは何かという対談記事を作り公開することで他のメディアへの情報元となり、週刊ダイヤモンド等、メディア露出へと繋がった。

以上です。色々と苦労が多い時期ではあるかと思いますが、こんな時こそPRを行い、世の中と関係づくりをしていくことが大切だと思います。

ご質問・ツッコミなどあれば、TwitterのDMからご連絡ください。


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