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『アウシュヴィッツのタトゥー係』ヘザー・モリス/金原瑞人・笹山裕子訳

1942年、スロヴァキアから家畜運搬車でアウシュヴィッツに強制収容された主人公は、偶然の縁と語学力と器用さから、収容者の腕に番号を針で埋め込むタトゥー係を任命されます。この立場を得たことは収容所内で有利に働き、ガス室行きを免れたばかりか、外部との接触に成功したり、食料を多めに確保したり、女性収容者と恋仲になったり。それでも極限状態の毎日を数年間やり過ごし、ついに収容所が開放される日まで生き延びたのです。更には、紆余曲折の末に、恋人との再会にも漕ぎ着けたのでした。

実在の人物と事件をベースにしたフィクションです。脚本家である著者は、晩年の主人公と出会い、じっくりと話を聞いて、それらを事実と照合しながら整理して物語にしたそうです。収容者すなわち当事者の視点から、収容所の中の様々な様子が描写されています。

収容者を使って収容者たちを管理させるナチスのやり方は他の文献や映画でも見て来ましたが、番号タトゥー入れと言う苦痛を与えかつ尊厳を踏みにじる行為をも収容者にやらせていたとは知りませんでした。実に狡猾かつ残虐なやり方です。

主人公は、収容者の中では特段に幸運な境遇にあったとは言え、死と隣り合わせの極度の緊張を強いられる日々が続いているのは他の主張者と大差なく、そして実際に危機一髪の絶望的ピンチも訪れています。読んでいて、凄まじい緊迫感です。更に、ソ連軍の接近によりようやく収容所から解放された後にも、まだまだ苦難の道は続いていたことを知りました。

この主人公が何とか生き延びて、このような数奇な事実があったと事細かに伝えてくれたことを、本当にありがたく思います。

[2024/03/09 #読書 #アウシュヴィッツのタトゥー係 #ヘザーモリス #金原瑞人 #笹山裕子 #双葉社 ]

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