見出し画像

青春18きっぷ、再び (中編)鋸山へ


これは熊本への2泊3日の旅行と、その足で休みなく旅をしたハードな5日間を描いた旅エッセイ、中編。


旅の再開

2泊3日の熊本旅行を終え、ここから旅のスタート。だが私の体はすでに限界に来ていた。特にふくらはぎ。前日まで阿蘇の山々をカモシカのように駆け回り、山登りくらいの体力を要する熊本城にも行っていたからだ。

そんなこんなで羽田空港着。ここから千葉県の君津駅まで高速バスで移動だ。そして一泊し次の日に備える。翌日に鋸山を控えていたので、もう駅に着いたら速攻でタクシーに乗ってホテルに移動する予定だった。
が、しかし。君津駅に降ろされ、辺りの何にもなさに軽くショックを受けた。あれっ? というかタクシーが一台もいない。えっ、こんなことってある? 思い返せば駅内に行くなり検索するなりしてタクシーを呼べばよかったのに、その判断ができなかった。疲れと空腹でだ。ホテルまで徒歩40分、まさかの歩く判断をしてしまった。ふくらはぎズタズタなのに、ただでさえ明日のために体力を温存しておきたいのに、私のばか。リュックを背負い、真っ赤なボストンバックを抱き抱え、風が強い中、半泣きで歩いた。


4日目 鋸山とC

さぁ待ちに待った鋸山だ。だがすでに足は限界。ふくらはぎは筋繊維ズタズタのパンパンの状態になっていた。極力歩かないことを第一優先にした。タクシーで君津駅まで向かう。

昨日の君津駅に到着。昨日は強いと感じた風も、この日は気持ちよく感じた。天気がよく気温も高い。駅のベンチで電車を待った。風がそよそよ、気持ちいい。
荷物をたくさん抱えた知らないおじさんに「館山行きの電車って2番線ですか?」と聞かれる。私と同じだったので半開きの間の抜けた顔で「ソウデスヨォ~」と答える。

この日は鋸山を紹介してくれたCと会うことになった。鋸山は観光名所にもなっているようだが、山なので少し不安もあった。なので、一度登ったことのある人と行けるのはとても有り難かった。
ホームで待ち合わせだった、まもなくしてC登場。お洒落でかっこいいスラッとしたお兄さんだった。顔が小さく肌が綺麗で「 ヒョエー!」となる。

電車に乗った。海沿いの内房線を走る。気持ちがいい。目の前に立つC、ふと後方へ歩いて行ったのでどうしたんだろう?と目で追うと、過ぎてゆく風景の写真を撮っていた。あぁ、大丈夫そう…そう思った。何度かやりとりしたことはあったがなんだかんだ言っても初対面だ、どんな人かと少し不安だったので、心がほぐれた感覚だった。

駅着。風が強かった。Cは煙草を吸いたいというので空き地でブレイク。潮風と太陽を浴びながら煙草を吸う姿は、ファッション雑誌の現場かと思うほどだった。「カッケェ~」思わず心の声が出る。そんなことないですと言うC。ほんとにそんなことないですと思っている言い方だった。

さて、綺麗だのカッケェ~だの思っている場合じゃない。足のズタズタ加減は変わらない。本当は歩いて山頂まで向かいたかったが、やむなくロープウェイを使うことにした。
切符を買って乗り込んだ。山の上を通るのだが、結構な高さがある。ロープウェイが止まる可能性もあるくらいの強風だったようで、揺れで怖いだのなんだの言う人もいたが、そんなのそっちのけで楽しんだ。むしろもっと揺れろと思った。

山頂着。思ったよりも観光山だった。結構人がいる。今回頂上がスタート地点だから仕方ないか。人が集まっているところはサラッと見た。Cがマップを見てくれ「次はこっちっすね」と、ルートを提案してくれたので有り難かった、かなり。のこのこ進む。

参拝券を買うために並ぶ。じ、地獄のぞき… ゴクッ…


Cから私が書いてるnoteについて話があった。「memo」と題して今年最初1月12日に投稿した内容についてだった。あれを読む人がいるんだぁと少し驚いた。CはCで色々と考えたり悩んだりしているようだった。あれってどういうことですか、とか、どうやってあの内容みたいに思えるようになったんですか、など質問をもらったけど、大した回答が出来なかった気がする。階段を登った息切れで、それどころではなかったからだ。C、すまん。

下ったと思ったら登り。ゆれる木漏れ日の元、パーフェクトデイズの話もしたっけ。

鋸山は見どころがたくさんあり、ものすごい好きな感じだった。しかも今回頂上からスタートしたのがいい選択だった。ほとんどが下山しながら参拝する感じだったので、あまり疲れずじっくり観ることができた。ここからは撮った写真で見てもらおうと思う。

色んな表情をしている仏さまたち。ひとつひとつじっくり見ると作った人の遊び心が伝わってくる。
岩に溶け込んでゆったりリラックスしてらっしゃる姿が心地いい。いちばん好きな仏さま。
Cが撮ってくれていた。苔に夢中なわたし。

こんな岩肌がすぐ頭上に迫り出してて、ものすごい迫力。
「あんなところに!」15mくらい上の岩肌にぽつんと仏さま。一体どうやって…  本当に色んな場所に仏像があるので、見つけるのも面白い。
やさしいおてもと


途中、前を行っていた観光客が引き返していた場所があった。なんだろうと思ったら蜂がブンブン飛んでいた。まるでここを通さんと言わんばかりだったが、わたしは全く気にしないで進んだ。「くるみさん、すごいすね」とC。「蜂はね、こっちが何にも関心向けなきゃ攻撃はしないのよ」と、もっともらしいことを言う自分。

進んだその先にいらした仏様たちに息をのんだ。柵で閉ざされた向こう側に静かに集まっていた。今まで見た仏さまたちと明らかに空気感が違った。静寂そのもの。あまりここに居てはいけないような、そんな感覚さえもった。蜂トラップもあったし、ゲームの隠れボスか?と思うような、そんな雰囲気だった。

『奥の院無漏窟(むろうくつ)』


ここの正式名称は『鋸山 日本寺』。コースを歩くと、切り出された仏像が山の至るところに現れる。その数およそ1500体にもなるらしい。物凄い数だ。1779年から21年かけて、大野甚五郎という名工が27人の弟子と共に作ったようだ。仏様たちの表情がとても豊かなので、きっと大野氏は好きに作りなさいと、弟子の自由な表現を尊重したんじゃないだろうか。そうだったらいいなぁと思う。

鋸山はどれもこれも、目に映るもの全てにわくわくした。美しい流線を描く岩肌も、表情豊かな仏さまも、新緑で揺れる木々たちも、全てが魅力的だった。3時間くらいかけただろうか、じっくり見ることができた。Cも「きっとくるみさんはじっくり見ると思ったんで良かったです」と言ってくれた。私のペースに付き合ってくれたので本当に有り難かった。彼も彼で楽しそうだったので良かった。

Cに感謝を告げ、ファミレスで飯を食べ解散した。この時食べた唐揚げ定食はホント美味かった。

さぁ、電車旅はまだ続く。この日のゴールは栃木県の小山という駅。そこまで約4時間だ、重い身体にアドレナリンを流しもう一息。
途中、湘南新宿ラインを通った。先日ライブに行った七尾旅人の作った曲に出てくる路線だ。ぼんやりしたわたしを乗せ、電車は走った。
(つづく)



前編はこちら↓


この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?