見出し画像

青春18きっぷ / センチメンタル松島


明日で春の青春18きっぷの期限が終わる。残り2回分、以前ちょろっと行ったことのあるワイナリーへ行き、一通り有料の試飲を吞んで帰ることを考えていた。

4月10日、起床。
それまでの考えとは打って変わり、わたしの頭には宮城県の端『松島』が浮かんでいた。折角ならもっと遠くへ行きたい。「今から支度して到着は14時か・・・」今日も少し遅く起きてしまったけど、天気が良かったので行ってみることにした。だって、もうすでに実質無料で行けるようなものなんだもの。せっかくだし、ねぇ。もう少しだけ、この魔法のきっぷで楽しませてもらうことにしよう。
(私は数日前、すでに東京から千葉、そして山形まで鈍行で行く素敵な旅をしていた)

支度を整え、空気を入れておいた愛車にまたがった。今日は駅まで自転車で行ってみる。少しひんやりする空気、少し走ると桜が目に入った。「もうこんなに咲いてたんだ。」どうやら今年は少し早いらしい。8分くらいまで開花していた。満開まであと少し。カラリとした青空の下、ぐいぐい自転車をこいだ。

山形駅着。電車に乗り込む。
途中、「霞城公園の桜の開花に合わせスピードを落として運行いたします。」とアナウンス。つかの間ゆっくりと走る電車。桜と、桜を撮ってるおじさんたちが見えていい。

今回もあなたのおかげでたくさんたくさん楽しめました。

まだ新緑で潤んでいない山々を眺める。これから芽吹き始めるカラリとした山肌も好きだ。わたしの旅人のコートと同じ色。

山形から仙台へは山間を抜けるので、途中かなり自然との距離が近くなる箇所がある。列車もトンネルでガタゴト。ちょっとアドベンチャーチックで面白い。

まもなく仙台駅。ぼんやりと街中に視線を向ける。
アパートの屋上に銀色のテープがみえた。
風に吹かれて、きらっきらっ きれい。

仙台駅着。電車が30分遅れているというアナウンス。こんなこともあるんだなぁとしばし待ちぼうけ。さっき買ったチーズタルト、電車の中で食べようと思ったけど、、食べちゃおうか・・・。

どうしようかしら(紙袋の中にはチーズタルト)

何を勘違いしていたのか、電車ホームを間違っていたらしい。「松島行き」と「松島海岸行き」と混乱したようだった。2本も乗り過ごし、やっと正解のホームへ辿り着く。松島到着は15時くらいになりそう・・・。でもまぁ夕暮れの松島もいいはず。ゆっくり行こう。

松島行きの列車は特徴的だった。2シートずつのカップル席のような車両に乗るか、普通の方に乗るかで迷ったが、とりあえず普通の方に乗った。ものすごく席が弾む。もるんもるん、おしりだけ遊園地気分。しばらく楽しんだ後、カップル車両の方に移動。こちらも随分面白い。普通車両より心なしか人が少ないように感じる。気のせいかな。

おもしろいシートだね

松島海岸駅着。初めての駅を降り街を歩いた。

いい感じ。


観光向けの道を歩く。数十年前、両親と行った頃の景色とは随分違って見えた。あの頃の古めかしさはない。でも当時から大好きなかまぼこはある。揚げたてのご当地名物『むぅ』を食べる。美味しい。

レジのお姉さんに「大変聞きづらいのですが」と、津波が当時どこまで来たのかをたずねた。
「このお店の一階の真ん中くらいまでです。でももう全部改装してあるので」と笑顔で答えてくれる。改装してあるので衛生的にもキレイで安全だよという意味を込めてくれたのだと思う。
店を出てまた少し歩く。どこも綺麗だった。ところどころに当時の面影を感じるも、やはりほとんど綺麗になっていた。平日なのに観光客も多い。海外の方の言葉も至る所から聞こえ活気がある。でもなんだかさみしくなった。何故だろう。

私は何を求めて旅をするんだろうと考えた。ずっとそこにあり続けてきた息づかいを感じたいからではないか。たくさんの人たちが触れてきた街並み、それらが様々な背景を背負いながらも今も続く姿、そこにきっと何かを感じる、感じたいのだと思う。新しさももちろん好きだ。様々な関わりの人たちの合意の元でリニューアルする街の変化はいいと思う。でも、だからこそ、自然災害により代々続いてきた風景が強制的に変わってしまったことに悲しさを感じた。
わたしが幼少期にここで感じたものはもうなくなってしまったかのよう。水族館ももうない。そんな感覚を受け、たった数十分の滞在で帰ってしまおうかとすら思った。いや、でもそれはあんまりだ。わたしが知らない何かがきっとある。もう少しふらふらと歩いてみることにした。

ここは当時のまま。
裏路地にて。なんだかきれいに見えた石
近くの公園から小学生くらいの子供の声が聞こえる。綺麗な遊具で遊ぶ子供たちの姿と笑顔、きらりきらり。

歩いてると段々と木が増えてきた。そういえばお寺っぽいとこがあったな。どうもその裏手に出たらしい。岩山を直角に切り抜いたお堀のような穴がいくつもある。なんだろう。
木々の間から差し込む西日が美しい。こういう感じが好きなんだよなと思った。観光ロードと真逆の静けさだったのでわかりやすい。自分は山なんだ。しかも神様がいるような、苔むしてるような。そこに癒しや感動を持つのかもしれない。

生命力って、魅入っちゃう。


また少し進むと大きなお寺が出現した。松島にそういう場所があるとぼんやりと存在は知っていたが、実際に観たことはなかった。これはぜひ行ってみよう。拝観料を支払い、中へ。

木々の間から差し込む光、美しい…



順路通りに進む。まずは展示室。年に2回しか公開していない襖が展示されていた。きっと当時は全て金箔だったのだろう。ものすごいスケール感だ。
今度はお寺の中へ。どうやらこの建物自体が国宝らしい。残念ながら中の撮影はできないみたい。靴を脱いで、磨かれた重厚感のある美しい廊下を進む。心地よいきしみ、こんな昔からの建物に入らせていただけるなんてそれだけで有り難い。
そしてメインとなる本堂の上手側の入り口に立った。


目に映った光景に、思わず惹き込まれた。

ふわぁ~ ・・・

五色幕がゆったりと風にふかれゆれていたのだ。
2m×25mはあろう大きな大きな五色の布が、ゆったりとゆったりと動いていた。
とても、静か。静かだった。時が止まっているようにも見える。
不思議な時間がながれていた。

端から順に襖の中を見ていった。どれも豪華絢爛。金の屏風だった。でもいやらしさがない。なぜだろう、天井が高く、閉じられた空間でないからだろうか。ひとつひとつ丁寧に観て進む。
中心部に来て今度は圧倒された。言葉が出なかった。しばらく立ちすくむ。お参り出来るようになっていたが、お金を入れ、一礼だけした。あまりのすごさに何かを祈っていいように思えなかったのだ。
本堂を一周し、また五色幕の揺れに浸り、もう一度拝観したく再び中心へ。やはりものすごかった。視界に入るビジュアルはこんなにも煌びやかで豪華なのに、この静けさはなんだろう。そのギャップに心を掴まれた。やられた、とんでもない場所に出会ってしまった。

わたしの近くにいた、案内のお兄さんと警備のおじさんが色々と教えてくれた。仲のいいふたりだった。ほっこり。ここのお寺の名前は「瑞巌寺(ずいがんじ)」。聞くとここは伊達政宗のお墓が奉っている場所なのだそうだ。このタイミングでこの場所がどういう場所なのかをちゃんと認識した。(美術展など、何かの展示では基本的に題名を見ないで作品のファーストインプレッションで何を感じるかを大切にしているため、あまり文字情報を追わない癖がついていた。でもこういったところではいい癖にはならない 苦笑)。夕暮れで、自分が最後の拝観者だったそうで色々と親切に教えてくれた。ありがたい。

1609年(慶長14年)に完成し、400年以上もの歴史がある瑞巌寺。仙台城が万が一敗れた時にここに逃げてこれるよう、城としての作りも兼ねた構造になっているのだそう。
こんなにもすごい内装なのに、本堂含め、雨樋や扉がほとんど開いていたことが印象的だった。聞くと雨の日もほとんど一年中開館時間は開けているそう。風の向きも山側から海に向かう風しか吹かないので、雨が入ってくることは滅多にないとのこと。それもきっと、当時の人が土地勘を考慮し綿密な計算の上で建てたんだろうなぁ。
震災の時も、丁度修復中で瓦も全て降ろしていたため、大きな被害はなかったのだそうだ。津波もここまで来なかったし「何かに守られてるんでしょうね」とお兄さん。ほんとそんな感じがした。炊き出し300人分を数日間お寺の備蓄で賄ったとも教えてくれ、色んな理由で訪れる全ての人たちに開けている居場所のように感じた。伊達政宗って器の大きい人だったのかもしれない。

ここに来るのは夕暮れ時がいい。閉館する1時間前くらいにくるとお客さんも少なく、ゆったり拝観できる。ぜひまたいらしてくださいと何度も言ってもらったので、今度は大切な友人を連れて行きたいと思う。



ワイナリーに行って帰ってこようと思っていた青春18きっぷ最終日だったが、ちょっと足を伸ばしたことで、とっても素敵な収穫ができた。幼少期と現在の違いで浮かんだ思考もあったし、何より松島にまた来たいと思える出会いがあった。こちらに来る選択が出来て本当によかったと思う。

青春18きっぷは本当に素敵な企画だと思う。考えに浸る余韻をこちらにくれる存在だ。車だと自分が運転しなきゃいけないし、飛行機だと一瞬すぎて遠くまで来た感覚もなくほぼワープしたような感覚。それらに比べ電車はいい。距離を感じられるし、旅らしい旅ができる。旅は自分の現在地が知ることができる。「あぁ楽しかった」だけではない収穫を得られるのが旅の醍醐味だと思う。旅行とは少し違うのだ。あぁそうだ、このことについても近々noteに書こう。

次の18きっぷはいつかな、とっても楽しみ。




この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?