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創作短編【お題】今/浦島太郎が/ツイッターで/呟いたら

指先から、
ぶどうのような匂いがする。

今日は部活で絞られた。
私の練習態度が鼻につくらしい。

先輩3人に囲まれて、
次々と
人間性を否定された。
たまったもんじゃない。

いつものように
ベッドへダイブして、
うつ伏せになってスマホをいじる。

今は
友だちのインスタを開く気には
なれなくて、
とりあえずTwitterを選ぶ。

私がこんなに凹んでいるのに、
世界は今日も平穏だ。

好きなアイドルグループの
新曲発表、
人気YouTuberの日常、
ネットの友人の近況報告。

今日の嫌な出来事を
上書きするかのように、
タイムラインを
どんどんスクロールしていく。

すると
「ここはどこ」
とだけ書かれたツイートが、
1万リツイートされていた。
なぜだ。

気になって詳細を見てみると、
ユーザー名には
「うらしま@帰ってきたら家がない」
とある。

ツイートは下に続いていて、
「帰ってきたら家がない」
「知らない人が住んでいる」
「というか、
 道とか何もかも違いすぎて草」
「故郷かどうかも怪しいレベルww」
と、うらしま氏が
変わり果てた故郷に
驚いている様子を呟いている。

久しぶりに
帰省でもしたのだろうか。

「道の人に話しかけたら逃げられた。
 とりあえず釣り竿捨てといた」
「今年2019年らしいwww
 馬鹿にすんなwww」
「本当に2019年らしい」
「嘘だろ」
「まじか」
どんどんと
呟きの間隔が狭くなっていく。
うらしま氏の困惑や息遣いが、
スマホの画面を通じて
伝わってくる。

「【急募】記憶喪失かもしれない。
 故郷の情報求む」
ここからのツイートには、
手書きの地図の画像が
添付されるようになった。

「ここは船着場だった」
「ここは長屋だった」
「ここには蔵があった」
現在の写真と手書きの地図とが、
一緒に投稿される。

すると あるツイートに、
歴史学者と思われる
ユーザーが反応。

地図の正確性や
史実の確実性を指摘したことで、
今回 うらしま氏のツイートが
劇的に伸びたようだ。

しかし
有益な情報が集まり始める中、
当の本人は
「そういえば土産もらってた」
「開けるなと言われて
 従える人はいるのか」
「YouTube用に撮っておけばよかった」
「髪 ブリーチせずに済んだww」
「関節が痛い。
 みんな、じいちゃんは大切に」
「【悲報】彼女、カメだった」
と よくわからないツイートが続く。

思わず 心配したのもつかの間、
ツイートはぷつりと途切れていた。
「【爆笑】ツルになったら戻れなくなったwww」

 

スマホの画面から目を逸らすと同時に
部屋のドアがノックされ、
そろそろごはんだから、
と母が呼びにくきた。

脳内は
一瞬で晩ごはんモードになり、
さっきまで 何を見ていたかも
すっかり忘れてしまった。

指先から、
ぶどうのような匂いがする。

 

隣のクリストさん、
お題のご提供
ありがとうございました!

写真素材:ぱくたそさん


うつ病とADHD持ちの漫画家・イラストレーター・作家(障害者手帳持ち)|『祖母漫画ハルエさん』たちき書房 http://kono3310.thebase.in|『うつには祖母がよく効きます』旬報社 http://amzn.to/39eexG1