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清里に行った/本を作ること

9月最後の週末、車で清里に行った。ふるさと納税で届いたピオーネがあまりにもおいしかったので、「ぶどう狩り行こうぜ」という話になったのだ。

当日は、朝9時にレンタカーを借りて出発した。運転するはずだった人が、1週間前に山の頂上で捻挫をしてしまい(最悪の場所とタイミング)、運転手は夫に。

夫は昔、一晩のうちに2回事故を起こし、レンタカー屋出禁になったことがある。警察には、怒られるどころか「誰か悪い人に脅されて運転してないですか? 大丈夫ですか?」と心配されたらしい。まあ警察の気持ちはわかる。

だから夫は運転が嫌い。今まで「車で旅行? しないっしょ。全部ウーバーで行こう」と言っていた。金持ちだな。夫と結婚した時、もう二度とドライブすることのない人生を覚悟した。わたしは免許(取れ)ないため…。

それなのに、なぜか運転席に座る夫。「だって捻挫してる人に運転させたらかわいそうじゃん」熱い友情である。

運転予定の人がダイエットyoutuberの動画を見る→影響されて登山→山の頂上で捻挫→夫が運転することになる。死のピラゴラスイッチ完成!(デッドコースター)

でもこのメンバーだったらまあ、死んでもいいな〜と思い、出発。痛いのは嫌だけど。


意外と無事、高速に乗った。渋滞にはまった。今まで自粛していたが、みなさんこんなにお出かけしてたんだね…? 談合坂で一旦降りて、パオとか食べた。パオ好き。

夫が「みんな、おしっことか大丈夫かな?」と聞いてきて、お父さんみたいだった。夫がお父さんだったら、トトロに出てくるお父さんっぽいだろうなと思う。わたしは妻でも恋人でも友達でもあるけど、娘にはなれない。娘にもなってみたかった。仕事してる彼の机に、たんぽぽ並べたくない?


道中、ずっと重たい曇りだったんだけど、あるトンネルを抜けたら、急に晴れた。

清里はなんか、天国みたいだった(死んだのか?)

RPGゲーム(というかMother 2)をクリアしたあとに戻ってくるホームタウンみたい。メイン通りは、平和でちょっと古ぼけていて、誰もいなくて、かわいい建物の隣に廃墟がある。

青空で、風が心地良くて、コスモスがいっぱい咲いていて、全部が終わったあとに辿り着ける安寧の地みたいだった。日に焼けたレースのテーブルクロスとか、何年もネジを回されていない昔のオルゴールとかがきっとある。


最初の目的地は、清泉寮ジャージー牧場。牧場のソフトクリームが目当てだ。夫は行く前から「牛のおしりかじかじしたいな」とニコニコ楽しみにしていた。牛、思ったより大きい。触るのは禁止されており、残念がっていた。興味深そうに観察していた。

ソフトクリーム食べて、レジャーシート敷いて、ごろした。全然続かないバドミントンもした。日差しがあったかくて、風がひんやりしていて、気持ちよかった。急に、こんなすてきなことが起きるんだなと思った。

ソフトクリーム食べるだけでも幸せ、レジャーシート敷いてごろするだけでも幸せ、バドミントンするだけでも幸せなのに、全部そろっていて、天気はよく、正面には山があり、隣には大好きな人がいた。


散歩をしたあと、黒井健絵本ハウスに行った。はじめて来た。小さいころから好きだった画家さん。今の会社に入ってすぐ、奇跡的に一緒にお仕事をさせてもらった画家さん。

1階に展示されていたのは『ヤンときいろいブルンル』(やすいすえこ/作 黒井健/絵)の原画だった。

お話がすばらしいのはもちろん、絵もお話のなかの世界や登場人物の、そのシーンでのいちばん大切なところが、ひとつひとつ感嘆してしまうほどぴったりの表現で描かれている。心の裏側までぐるりと入ってくるの。

仕事場の様子や、絵を描く手順の展示もあった。知ってたはずだったけど、りんご一個描くのにも、とても手のかかる描きかたで。

そんなの全部、気持ちや思いがなきゃ絶対できない。

この一冊を作るときの思いがわーっと伝わってきて、なみだが出た。わたし、こんな人と、一緒にお仕事させてもらったんだな。知ってたけど、知ってたけど。


最近考えていた。世の中には、もう一生かかっても読み切れない量のおもしろい本があるのに、どうして本を作るのかと。

考えるまでもないことだけど、それは、作りたいからだよなとあらためて思った。

たくさん本があっても、ブルンルが作られるまで、ブルンルはなかった。

作りたい気持ち、届けたい気持ちは抑えるべきでない。ブルンルのない世界よりある世界のほうがいい。


先日、「たった1人の命を救う本と、そうじゃないけど世界中の人に読まれるベストセラー本、どっちを担当したいですか?」と聞かれた。後者と答えた。

その時点では誰のことも救わなくても、それだけ多くの人に届いていれば、いずれ誰かの心を救うことはあるはずだから。

ただ、前者の本だって、あとで何かの拍子にたくさん読まれて、名作になる可能性はあるよね。本当に、何が名作かは結構あとになってみないとわからないものだもん。


生きてるあいだの話として、ベストセラー担当したら、お金入ってもっといい本作れるわけだし、名編集者として企画が通りやすくなるわけだし、そういう理由を答えるほうが正しかったかもしれない。



まあとにかく、需要ありきで作ることもあるけど、何がいい本(売れる本やのちに名作となる本など…いい本とはの話はまた今度)になるかは結局わからないので、作りたい気持ちを形にするのが一番大切。




話がそれたけど、それから絵本ハウスの2階の展示(ころわん)と絵本を何冊か読み、記帳して外に出た。


17時過ぎで、空はだんだん蒼く暮れてきていた。薄暗い森に、絵本ハウス、隣にはチョコレートハウス。外気も冷えてきて、なんだかちょっとわくわくしていた。

チョコレートハウスで、一杯だけチョコレートサイダー(!)を買って、車に戻った。


これから、ステーキハウスで夕食なのだ。予約の時間まで少しあったので、晩酌用のお酒を買いにコンビニに寄ってから、向かった。


予約したレストラン「キースプリング」は、ロッジやホテル、レジャー施設が一体となったアートヴィレッジのなかにあった。

熊の毛皮とか、銃とか、アメリカのレコードのコレクションが飾られた、大きなカントリー調のステーキハウス。

ここで食べたワインビーフが、もう、やわらかくってすーーーっごくおいしかった!

何度も思い出して、また食べたい〜!!ってなるくらい。

それぞれのステーキの他に、赤ワイン煮込みと、ワイン鱒を頼んで、テーブルいっぱいの料理をおなかいっぱい食べた。野菜も甘みがあっておいしかった。

写真はまだあんまりお料理が来てないけど…。お店、いい雰囲気でしょう。


食べ終わって、真っ暗な坂を降って車まで戻って、ペンションへ。やっぱり、森や高原に泊まるならペンションがいい。やさしいオーナーさんがいるペンションに素泊まり。

木のお部屋で、ロフトがついてた。21時から、鬼滅の刃の映画を観た。


好きな出版社の編集の人(Aさんとする)と、ヒットメーカーになるにはどうしたらいいか? の話をしたのを思い出しながら。

鬼滅のヒットについては、ふろむださんのを貼っておこう。はてぶでケチつけられてた記憶があるけどこれは至極真っ当じゃない? ケチつけてた人たちは作品を作った経験がないのでは!?


Aさんも言ってた。話したのは、売れる本の法則じゃなくて、売れる本を作る編集者の法則の話だけど「法則なんてあったら真似してる」と。

そりゃそうなんだよな〜。でも、いい編集者を見てると、やっぱりめちゃくちゃ広く興味をもって勉強してるし、とにかく打ちまくってるそう。

なんでもいいから打つって言ったって、打つには勉強が必要だから、簡単ではない。それをめちゃくちゃやるってことは努力してるってことよ。

話していて、理想の編集者像ってそうだよなと思った。理想の像に向かってやっていく。楽ではないけど、打ち込むのは気持ちいいし、そうしている自分でいたい。


うー、また話がそれた。鬼滅の刃観終わる頃には1日の疲れでねむねむ。そのまま90センチくらいしか幅がないベッドに、2人で倒れ込んで寝た。


翌朝、起きてシャワーを浴びた。貸し切りのお風呂にタオルを持っていくのを忘れて、詰んだ……Tシャツで拭くか…寒いよ〜と思っていたら、夫が外のドアノブにタオルをかけてくれていた。

よく気づくやさしい人。

まぐちゃんラーメンと桔梗屋に寄り、中込農園でぶどう狩りして、帰ってきた。こんなに皮が薄くて甘いマスカット(つまりよく熟れている)は、農園じゃないと食べられないよね。

体と心がいっぱい動く旅行はいい旅行。全員帰る家が同じだと、帰っても楽しくていいな。おしまい。

急に雨が降ってきた時の、傘を買うお金にします。 もうちょっとがんばらなきゃいけない日の、ココア代にします。