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大人になるとはそういうことなのか

(さてさて、どうしたものか……)

目の前に座る男を見て私は考える
この男と私の付き合いはそろそろ25年になる
高校生の頃は嫌でも毎日
高校卒業後も年に1回は顔を合わせていたわけだが
とあることがきっかけで6年のブランクができた

「6年ってあっという間だったけど
よく考えたら高校生が成人しちゃうんだね」

(そりゃそうだ)

両肘をついてコーヒーカップを持ちながら
彼の顔を様子見る

精悍な顔立ちで背もすらりと高い
以前はいくつになってもどこか幼さが残っていたが
目の前にいる男はこの6年の間にすっかり壮年の男になっていた

無邪気な笑顔は儚げな笑みに変わっていた

(なんにしてもキレイな顔なのよね)

私はカップに残っていたコーヒーを飲み干す

「他の人は正直遠くから認識できる自信はないけど
〇〇ちゃんはきっといくつになってもすぐわかると思う」

歩き出しながら彼は言う
頭一つ分違う身長差は
不覚にも私にとって心地良いものだった

(人間丸くなり過ぎても扱いに困る)

嫌なことがあると
それを表情や行動に出して
周りを困惑させるような人だった
それゆえ孤立することも多かった

感情が激しく揺れ動く場面に出くわすと
一切の人間関係を断ち切ってしまう人

面倒くさく繊細な性格の持ち主だけれど
私にとって彼はあまりにもわかりやすく
そのとき彼がどうして欲しいのかを察することができた

でも今は
彼が傷ついたままなのか
立ち直りつつあるのか
さっぱりわからない

それに、私も6年の間に変わった
いい意味で鈍感になり
感情の振れ幅もいくぶん小さくなった
代わりに無遠慮な言葉を投げかけることも多くなったように思う

(だからこそ何て言っていいかわからないんだよなぁ)

彼が他の仲間に会いたくないことはわかっている

(そんなところはちっとも変わらないのよね)

私が仲間内で唯一残った理由は
彼を放っておくことができるからだ
そしてぜったいに彼を見放すことがないことを
彼が信じて疑わないからだ

6年ぶりの帰郷
彼が今度帰ってくるのはいつになるのだろう
帰ってきたいと思えるようになる日はくるのだろうか
彼の傷が癒える日はくるのだろうか

(まぁいつになってもいいんだけどね)

私にできることなんて限られている
乗り越えるも越えないも彼次第だから

新幹線の乗り場で彼を見送り改めて思う
私は彼が帰ってきたら
笑顔で迎えて笑顔で送り出せばいい
ただ、それだけでいいと彼も知っているのだろう

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