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凹凸のススメ

僕たちが生きる世の中は、「できる、うまくやれる、長けている」というモノサシに目を向けすぎではないだろうか。

小学生の時から、子どもの「できないこと」に対して、大人は厳しい言葉を投げかける。(言葉に出さないまでも態度や表情で。)

「なんでできないんだ」とか「そんなんじゃ大人になって困るのはあなただよ」とか「あの子はうまくできているよ」とか、至極それっぽい理由で子どもの短所(できないこと)ばかりに目を向けがちだ。

そんなことを子どもが言われている光景を目にすると、胸がきゅっと苦しくなるのは僕だけではないだろう。

もちろん、大人のモノサシで良かれと思って、子どもの「できないこと(凹)」を「できること(凸)」に変えていくことだったり、克服するように促すことは当然のことではあるかもしれないし、

できないことができるようになることはとっても素晴らしいことである。(子どもの成長に関わる仕事をしていてその姿が1番嬉しかったりする)

でも、「できる、うまくやれる、長けている」というモノサシで、子どもを「ハカル」考え方、教え方は本当に彼らの幸せにつながっているのか、、、、。

そのモノサシが正しいのか、正しくないのかは僕にはわからないが、少なくとも、僕が母から教わったこととは大きくかけ離れている。

そのモノサシが本当に子どものためになっているのかを、僕が母(A美)から教わったことを交えながら文章にしてみたので、みなさんひとりひとりに考えてみて欲しい。

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舞台は長野県の山奥の村の平和な家庭……どのくらい山奥かと言うと、たまに玄関にサルがこんにちはしてくるくらいの山奥である。(実際にこんにちはしたことは片手では数えきれない。)

その家には、3兄弟とその両親、さらにまたその両親(父方)が7人で波乱万丈に暮らしている。

なんでも、三兄弟の母は地域でも有名な名物母ちゃんであるらしい。


ゲンキ(三男)「母ちゃん、ただいま~。」

A美(ゲンキの母)「おかえり、ゲンキ、早かったわね。今日の学校で心を動かされた話をしてみてよ。」

ゲンキ「またいつものそれね。いいよ!今日は色々と楽しいことがあったけど、一番は、作文でクラスの代表に選ばれたんだ!友達にもゲンキは文章を書くのが得意だねっていわれてとっても嬉しかったよ!でも、音楽の授業で隣の子に音痴、あんまり歌が上手くないって言われて悲しかったなあ。」

A美「チャンスね!あなた、今日だけで人生でとっても大事なことを二つも学べたわね。今日は最高の日だったじゃない!」

ゲンキ「なんでよ。作文は最高だったけど、音楽はとっても悲しい気持ちになったんだから、良いことと悪いことで相殺しあったと考えてプラスマイナスゼロだよ!むしろ、悲しい気持ちの方が大きいくらいだよ。母さんはなんでもプラスに考える天才だからなあ。じゃあ、その理由を教えてよ。」

A美「あんたは今日、人生の本質を感じられる二つの出来事を経験できたのよ。一日でこんな経験できることはなかなかないよ。どのくらいないかって言うとあなたのお父さんが家族みんなにご飯をおごるくらいないわね。」

ゲンキ「それは相当ないね。(ゲンキの父はお金がない。いや、お金を必要としない生き方をしている。そのため、彼が家族にご飯を奢ったことはこれまでで1回だけである。)その理由はなにさ。」

A美「ゲンキ、長所と短所と言う言葉は知ってる?」

ゲンキ「もちろんだよ。就活の時によく言うあれでしょ?私の長所はリーダーシップです。大学ではサークルのリーダーをしていました……とかいう。」

A美「小学生なのに、そんなことよく知ってるわね。」

ゲンキ「えへへ。すごいでしょ。」
(ゲンキが長所と短所によって就活で苦戦するのはこの10数年後である。その話はまた。)

A美「わかっていれば話が早いわね。いい?人間には長所と短所があるのね。言い換えればできることとできないことね。まず、あなたは今日の出来事を通して長所と短所を理解することが出来たわ。それだけで+2の今日よ。隣の女の子に感謝しなさいよ。」

ゲンキ「長所を理解できたのは良いことだから+1はわかるけど…短所を知れたのは悪いことだから-1じゃないの?出来ないことを知って、出来るようになれる可能性を知ったから+1ってこと?」

A美「ちがうわね。そういう考えが出来るのも素晴らしいことね。でもそうではないの。あなたは短所を出来るようにならないほうが幸せになれるのよ。むしろ、短所を長所にしないほうがいいのよ。ただ、短所を実感できたこと、そのことが+1といっているのよ。」

ゲンキ「短所を実感できたことが+1????母さんはいつもプラス思考すぎて、何を言っているのか全く理解できないよ。もっとわかりやすく説明してよ。」

A美「それじゃあ、母さんがあなたの脳みそでも理解できるように説明してあげるわね。」

ゲンキ「ぐぬぬ…。悔しいけどお願いします。」

A美「よろしい。今日、あなたは歌がうまくないという短所(歌をうまくできないこと、うまく歌えないこと)を知ったわね。」

ゲンキ「うん。以前から、みんなと歌うときは斉唱なのにハモっていた気がするけど、、今日改めて知ったよ。」

A美「それは知らなかったけど。確かにあなたは歌が上手くない。でも、あなたは音楽をよくきいているね。例えば、よく聞くアーティストとかはいるの?」

ゲンキ「ビーバーに、ワンオクに、ミレーに…たくさんいるね。数えきれないよ!」

A美「音楽が好きなのはいいことよ。じゃあ、もしもあなたがワンオクのTAKAさんの声で歌えたら?ワンオクの音楽に感動できる?」

ゲンキ「僕がTAKAの声で歌えたら…。僕があの声でうぇねばゆうあーを歌えたら、、、、。確かに、自分があの声で歌えるならワンオクの音楽を聴いても、感動は少なくなるかもしれないなぁ。」

A美「そういうことなのよ。あなたがTAKAさんのような歌声で歌えるという長所(歌が上手くできる、うまく歌える)を持っていたとしたら、歌が上手くできる人を必要としないじゃない?」

ゲンキ「自分で歌えちゃうんだもんね。特別な感じもしないから、歌が上手くできる人は必要なくなるかもしれないね。」

A美「そう考えると、あなたが歌をうまく歌えないから、歌が上手い人が成り立っているといえるんじゃない?つまり、あなたの歌が上手くないことはTAKAさんやぶーやんさんを助けているともいえるのよね。」(ワンオクやビーバーの音楽は、歌が上手くできる人にも、なんなら全世界の人から必要とされていると思います。例えですので悪しからず。土下座)

ゲンキ「ってことは、僕の短所はそれを長所とする人を助けているといえるんだね。じゃあ、歌に限らず、短所を持っていることは、それを長所として持っている人たちを助けているんだね。僕の短所は、誰かの長所を輝かせているってことか!それなら、短所はあったほうがいいね。」

A美「そうなのよ。さすが私の息子。飲み込みがはやいわね。しかも、その短所によって、繋がりが広がっていくのよ。あなたがたくさんのアーティストが好きでライブに行って友人をつくるようにね。そして、あなたがさっき言ったように、短所はそれを長所として持って生まれた人に助けてもらうためにあるのよね。じゃあ、逆はどうだと思う?」

ゲンキ「逆?逆ってことは長所か。そうか!長所はそれを短所として持って生まれた人を助けるためにあるんだね。僕の長所で言えば、文章を書くことが苦手な人を助けるためにあるんだね。じゃあ、もしかして、短所とか長所って他人のためにあるものなの?」

A美「ナイス!冴えてるわね。長所とか短所っていう才能は他人のためにあるのよ。今日一日でそれを知ることが出来たあなたは最高ってわけよ。だから+2の今日。いえ、+2どころではないわ。この考え方を身に着けるだけでこれからの人生がもっとハッピーに生きられるのよ。あなたはその長所と短所を使って、もっといろいろな人を幸せにしていくのよ。そう考えたら、短所も必要なものだと思わない?」

ゲンキ「ちょっぴりだけど、僕の歌が下手なところも認められる気がするよ。それにしても、母さんのプラス思考はすごいなぁ。じゃあ、母さんの忘れっぽいところ、単純なところ、すぐに熱くなるところも誰かの役に立っているのかね?」

A美「当然じゃない。母さんの忘れっぽいところ、単純なところ、すぐに熱くなるところも周りを助けているのよ。例えば、私のわすれっぽいところはあなたのお兄さんN生(次男)の真面目さを助けているのよ。他にも、単純なところはあなたのお兄さんD輝(長男)の慎重なところを助けているのよ。何より、私のこの短所によって、全てが真反対の性格といえるあなたの父さんと出会えることにつながったのよ。つまり、私がこの短所を持っているからこそ、あなたは生まれてきたのよ。」

ゲンキ「僕は母さんの短所のおかげで生まれて、ここにいることが出来ているのか…。複雑な気持ちだ…。でも、母さんのおかげでこれから自分の短所が見つかっても明るく生きていけそうだよ。母さんの忘れっぽいところ、単純なところ、すぐに熱くなるところすらも愛おしく感じてきてしまったよ…。そして、短所も大切にしていきたいけど、長所で人を助けていきたいとも思ったよ!母さんのプラス思考にはいつも驚かされるよ。僕のピンチの度に助けてくれてありがとうね。」

A美「いえいえ大したことは言ってないわよ。さっきの話をまとめるわね、あなたはこれから、長所もだけど短所もうまく使って出会う人たちを助けていくのよ。母さんも昔はよく短所に目を向けては悩んでいたのよ。そんなときに私の母さん、あなたのおばあちゃんに言われたのよ。出来ないお前がいるから、他の人が私は出来るって思えるのよってね。」(正確に言うと、太っているお前がいるから痩せてるひとが私は痩せてるって明るくなれると。)

ゲンキ「そうなんだ。母さんも悩んでいることがあったんだね。そのおかげで、母さんのプラス思考やそんな世界の見方が出来るようになったんだね。僕も色々悩んで成長していくよ。」

A美「そういうことよ。あなたはあなたらしく生きていけばいいのよ。隣の女の子には、明日学校に行ったら、昨日は音痴って言ってくれてありがとうって言いなさいね。きみのおかげで僕の短所を知ることが出来たよ、ありがとう!と伝えなさい。」

ゲンキ「相当嫌味な感じになりそうだけど、母さんに教えてもらった、話も一緒に伝えてみるよ。」

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後日談

あれから、15年後。

あの時、僕を音痴だって言ってくれた女の子は世界的なアーティストになっている。

そして、僕はその女の子の自伝を書くお手伝いをしている最中である。




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