「卒業後」という広い海

わたしは大学時代、芸術学部で映画を学んでいた。そのほかにもやりたいことが山盛りあって、上京してからの生活はとにかく忙しいものだった。映画のことなんか1ミリもわからなかったけど、映像制作はだいすきで、4年間通してドキュメンタリーを撮って人を追い続けた。
卒業して数年経ち、定期的に校友会の会報が届く。受け取る卒業生の中で、これを丁寧に見ている者はどのくらいいるだろうか。時間のあるときはつい眺めてしまう。今回の会報は3月に卒業した卒業生の受賞者一覧や、今後活躍するであろう期待の星などをテーマに内容が組まれていた。わたしのあとにもう何千人という人が学部を卒業しているんだ。
わたしは一応学部長賞というのをいただいて、親にも報告できるものがあって卒業できたのだけれど、就職は映画ではなくTV-CMの制作だったし、大学で学んだことは何一つ仕事には生かせなかった。これはあるある。
けど大げさではなく、かけがえのないこの4年間はわたしにとって大事な4年間だったし、10代の終わりから20代のはじまりのころに設定された絶妙なタイミングの大学生活は、人生の中のあの位置にあるから意味のあるもののような気がしている。もちろん、就職して大学に入る人、こどもが手を離れて大学で勉強し直す人など増えてきて、大学生活は10代の終わりから20代のはじまりに限ったことではないが、わたしに限っていうとあの年に大学という場に身を置いていたことはとても大きなことだったように思う。
その4年間をこの春に終えて、大きな卒業後の世界に後輩たちは泳いでいく。そして新たに入学して大学生をスタートさせた後輩たちがいる。変わらずあの4年間は存在しているのに、わたしはもう触れることができないのは、いつも少し寂しい。
同級生が活躍し、メディアに名前が出始めている人もいる。そんな彼らを眩しく見ている、専業主婦のわたし。卒業して1年半で上司と結婚して寿退社して、それからずっと専業主婦。そんな人、周りにいません。笑
わたしはわたし、みんなはみんなの人生。卒業後の広い海で、好きに泳いでいいはずなのに、わたしはまだ周りばかりみながら飛び込めていないように感じる。


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