今日も、おっさんが全巻読んで面白かった漫画をご紹介です。
個人の感想であり、感じ方はそれぞれなれどご参考に。
概要的なネタバレは含みます。

黒博物館
（藤田和日郎/モーニング）
2007年～2023年　既刊１巻＋２巻＋６巻

①　タイプやテーマなど
　ダークファンタジー、大英帝国、スコットランドヤード、怪事件・怪異、女性差別、１８～１９世紀、サスペンス、歴史もの、貴族社会、小説、舞踏・武闘

②　簡単な内容
　ストーリーは毎度、ロンドン警視庁所管の黒博物館に勤める学芸員が、事件の遺留品を確認するシーンからスタートする。
遺留品を確認に来た人物（実在の偉人またはその関係者）が、遺留品に纏わる過去について、学芸員との会話から回想を始め、本編へと移る。
本編はシリーズとなっていて副題がついており「スプリンガルド」はバネ足ジャック、「マザアグウス」はその続編、「ゴーストアンドレディ」は
ナイチンゲール、「三日月よ、怪物と踊れ」はフランケンシュタインの作家のメアリシェリー、それぞれに纏わる物語となっている。

③　読みどころ
　どれも実在の人物や事件をしっかりと捉えた上で作成されているため、プロットを追うだけでも非常に読みごたえがある。
そしてそれらの事件や関連人物の裏話が物語となっていて、怪異や秘密組織、人間離れした戦闘力を持った人物などと共に描かれていて、
展開がとても面白い。また、この時代に見られる女性への扱いや、貴族社会、工業化社会の影響を色濃く描写しており、
女性差別や戦争、労働者問題など、非常に考えさせられる社会風刺的一面もある。


④　雑多な感想
　作者の藤田和日郎先生は「うしおととら」や「からくりサーカス」等で有名な人気作家。今回のダークファンタジーでも、絵柄がとても印象的で、
戦闘シーンや事件現場のシーンでは怖さや迫力があり、美人はとても綺麗に描かれており、笑えるシーンでは絵でしっかり笑える。そうした魅力的な作画に思う。　中でも悪いキャラクターの描き方が特に心を揺さぶるものがある。尊大なせりふ回しと同時の不気味な笑顔、
激しい怒りのセリフと共に鬼の形相、漫画として非常にいいなあと思ってしまう。

　ストーリーとしては、読みどころ等で述べたとおり考えさせられるところがあり、背景知識や説明も多く、難解で大人向けと思う。
物語に出てくる、ナイチンゲールやメアリ・シェリーなど、やはり大事を成した人物は、その高い行動力や目的を成し遂げたその過程が、
漫画でなくとも気になるところである。

　本作ではそれらに纏わる作者なりの一つの妄想なり提案なりを、大胆に漫画表現していて非常に痛快でもある。登場人物の心情の変化や、
ややもすると心が折れそうになる状況を打開するために、怪異や人間離れした何かの存在があった（ことにする）ことで、
一つの偉人伝や不可解な刑事事件が、興味深く重厚に膨らむ。
　おっさんもその絵と展開に作者の実力を感じ、他作品もどんどん読みたくなってしまった。


⑤　その他
　１８世紀～１９世紀のイギリスが舞台となっているが、ゴーストアンドレディのように、イギリスの派兵先が舞台となることもある。
また、三日月よ、怪物と踊れのように、ロシアからの刺客が描かれることもある。現代でもそうだが、この時代は特に国際化が進み、
それに伴う国家間の摩擦によって、大小の秘密組織の結成や、公にできない事件・国同士の衝突が多々あったことを思わせる時代でもある。

　また、機械テクノロジーや医療の進歩が著しかった時代でもあり、裕福な貴族階級がそれら革新的な動きをパトロンとして支え、
或いは自ら飛び込んで正しさを伝えることによって、影響力を競った時代でもある。

　そして、今は一応は階級や男女の在り様の平準化が進み、いかなる身分においても、人権が著しく蔑ろにされることは少なくなったが、
この作品の時代背景では、人間（特に女性）が物や家畜のように切り捨てられる時代でもあった。

　こうした混沌とした時代から出発して、実は現代もそれらの影響が色濃く残っていることを、作品を通して考えずにはいられなかった。
比較的勧善懲悪な展開として描かれてはいるものの、現代とは価値観が違う保守的な登場人物や、その背景から暗い感情に支配されてしまった人々の存在が、
物語を複雑にしており、また非常に人間が生々しく描かれている様も、読みごたえにつながるのではないだろうか。

　シリーズは今後も続くと思われるので、楽しみにしている。また、２０２４年５月には、劇団四季でゴーストアンドレディが開幕予定でもある。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B4%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%88%26%E3%83%AC%E3%83%87%E3%82%A3_(%E5%8A%87%E5%9B%A3%E5%9B%9B%E5%AD%A3)

　アニメ化はあるのかな？　難しいかな？　関連メディア含めておっさんも注目している。