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読了のおっさん13 シュトヘル(伊藤悠/ビッグコミックスピリッツ)受

読了のおっさん13 シュトヘル(伊藤悠/ビッグコミックスピリッツ)

今日も、おっさんが全巻読んで面白かった漫画をご紹介です。
個人の感想であり、感じ方はそれぞれなれどご参考に。
概要的なネタバレは含みます。

シュトヘル
(伊藤悠/ビッグコミックスピリッツ)
2009年~2017年 全14巻

① タイプやテーマなど
 歴史もの、青年漫画、西夏、蒙古(モンゴル)、西夏文字、女戦士、暴力・文化、転生、悪霊、侵略、チンギス・ハン

② 簡単な内容
 西夏文字を巡っての物語。ツォグ族と呼ばれる蒙古配下の一族に娘を嫁がせ、西夏文字を記した玉音同を託した西夏の高官(学者)。
その娘を母親として育ったツォグ族の皇子ユルールは、西夏文字に魅入られ、その保護のために一族を抜け、戦乱に巻き込まれていく。

 一方でツォグ族の侵攻によって自身の仲間たちを殺された女戦士ウィソは、オオカミとの死闘を経てシュトヘル(亡霊)と呼ばれる最強の戦士となり、
ツォグ族と対立。一族からあぶれてしまったユルールと出会う。

 さらに一方で現代の男子高校生、須藤は、処刑されたシュトヘルに時を超えて憑依転生。須藤の魂によってシュトヘルが復活することで、ユルールは玉音同保護、シュトヘルはツォグ族への復讐、須藤は未来世界の修復、それぞれの思惑と西夏文字が紡ぐ物語が展開していく。

③ 読みどころ
 最初は散らかっていて非常に分かりづらいストーリーであるが、歴史ものの常と割り切って3巻まで読むと、そこからは理解が進んでかなり面白い展開になっていく。ユルールの秘密、シュトヘルとユルールの関係性の発展、西夏文字が語る理想と須藤が見せる未来、ツォグ族の後ろから迫る圧倒的強者のモンゴル軍、浮足立つ金国(現在の中国)、武力衝突と蹂躙、チンギス・ハンとその一族、周辺人物たちの思惑と陰謀の交錯。だんだんと絵も綺麗で、迫力のある描写となっていき、
次の展開が気になりながらあっという間に読んでしまう。



④ 雑多な感想
 魅力は詳細や物語そのものにあるので、以下いつもよりネタバレしてしまうことをご了承いただきたい。



 要所要所で、文字の力と文字による理想の実現について、ユルールが語るシーンがある。敵の将軍などは、武力によって国家と統治が実現する事実(蒙古の
チンギス・ハーンもしかり)を語り、ユルールの言葉を切り捨てる。武力による統制は歴史上の現実として間違いのないことではあるが、ユルールの語る文字の持つ力について、実は為政者は恐れているのだという描写もまた見られる。こうしたせめぎ合いが重厚である。
 それに文字の力というテーマがnoteで取り扱うテーマとしてもピッタリではないか。今回はつい筆が進むと言うものである。

 また、未来からシュトヘルに憑依転生した須藤が、文字が紡ぐユルールの理想がいずれ現実となる可能性について語ったり、須藤が憑依しているときに西夏文字を習得したシュトヘルが、文字に魅入られていく様、流浪の道中で出会った民草に文字を伝えることで少しづつ世界が変わっていくといった展開も良い。

 こうした物語全体にちりばめられた想いや願いの実現のために、主人公達が命がけで戦う姿は胸が躍る。

 蒙古のチンギス・ハンは西夏文字を執拗に消滅させようと動くが、その背景に基づいたストーリー展開も、人、情念、理想を含めて躍動感があり、非常に読み応えのあるストーリーとなっている。


⑤ その他
 作者の伊藤悠先生は、機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズでキャラクターデザイン原案を担当している。他にもオオカミライズなど、獣人を描いた作品も描かれており、男性が喜ぶような、迫力あるキャラクター描写であると思う(でも女性作家)。
 そういったわけで絵も良いのだが、本作はそれ以上にストーリー構成がすごいと思う。最初はなんで急に現代に場面が変わって、高校生の須藤が出てくるのか、ちょっと首をかしげながら読んだのだが、読み進めると無くてはならない展開に思えて納得する。
 文字の価値と未来の可能性を語る上でも、ユルールが文字に魅入られた先に進むためにも、シュトヘルとユルール、その他の人物たちがつながるためにも、そしてユルール達と読者との距離を埋める上でも、須藤が絶妙な感じでストーリーに溶け込んでいく必要がある。
 須藤によって単なる淡白な歴史ものではなく、読者自身が臨場感を持つことができる。また、ちょっとだけファンタジーである違和感が無くなり、漫画作品ならではの良さがむしろ前面に出てくる。
 作中のキャラクターも読者もいつの間にか未来志向になっていくし、玉音同の保護に命を懸ける理由付けにもつながる。
 そして所謂ラスボスにあたるチンギス・ハンの底知れなさも、それらのプロットを積み上げた先に、浮かび上がるようにして強調されているように思う。

 この作品は読了のおっさん3で紹介した白暮のクロニクル同様、同年代の友人ナオチャンの推しである。今回も本作を紹介してくれたナオチャンに感謝したい。

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