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プリンセス・クルセイド 第3部「ロイヤル・プリンセス」#1 【波乱を呼ぶ来訪者】 3

「大丈夫かなあ……」

 テーブルの上に置いた水晶玉を、アンバーは不安げに眺めていた。映し出されているのはイキシアのプリンセス・クルセイド。熾烈を極める海上での一戦だ。

「大丈夫ですよ、アンバーさん。姉さんに心配は無用です」

 アンバーの向かいに座るジャスティンも、同じように水晶玉を覗き込んでいた。だがアンバーと違い、彼は余裕綽々としている。

「どうしてですか? このプリンセス……ルチルさんのことをイキシアに警告しにきたのはジャスティン王子じゃないですか?」

 アンバーはジャスティンにそう問いかけながら、水晶玉を指差した。ちょうど、黒いマントを翻しながらイキシアに猛攻をかけるイラフサン国の姫の姿が映っていた。

「あれは一応伝えておいただけです。たとええロイヤル・プリンセスが相手でも、姉さんは負けませんよ」

「だったら、どうして王子はここにいらしたのですか?」

「……いわゆる口実ですよ。単に僕が姉さんに会いたかったから……というか、何と言うか……」

「王子……?」

 明らかに歯切れの悪くなったジャスティンに、アンバーは疑念を募らせた。だが、マクスヤーデンのうら若き王子は隣に座る従者の女性に意味深な視線を向けただけで、それ以上は何も口にしなかった。従者のキララのほうも何も語らず、ただ申し訳なさそうに俯いているだけだ。

(なんか……アヤシイ……)

 アンバーは訝りながらも、それ以上は追求せず、水晶に視線を向けて白熱するプリンセス同士の戦いに意識を戻した。

ーーー

「ほらほら、どうした! 逃げてばかりじゃ勝てないぞ!」

「ちいっ!」

 挑発を繰り返すルチルから間合いを取るように、イキシアは足場としていた岩から飛び離れた。その直後、ルチルの聖剣から放たれた激しい水流が放たれ、先程までイキシアが立っていた場所を瞬時に両断する。

「武芸十八般、馬術! シャイニングペガサス!」

 イキシアは空中で素早く光のペガサスを出現させ、その背に跨ると、水流で真っ二つになった岩を見下ろした。

「これはエレメントの暴力ですわね。なんという荒っぽい技を――」

「よそ見してんじゃないよ!」

 呆れたように呟いたイキシアの隙を突き、ルチルは水上を滑るように移動すると、間合いを強引に詰めにかかった。彼女は聖剣で水面を叩くと、足下の水位を上昇させて高波を生み出し、そのままの勢いでイキシアを斬りつけた。

「ぐうっ!」

 咄嗟の反応で直撃こそ間逃れたものの、斬撃が掠ったイキシアの体は光のペガサスから落馬した。そのまま近くの岩場目掛けて降下していったが、地面すれすれで受け身を取って体勢を整える。

「ハッ、運の良い奴だな。たが……これはどうかな!?」

 その様子を見て、ルチルは威圧的に叫ぶと、追撃をかけるべく足下の波の水位をさらに上げ、岩場ごとイキシアを呑み込みにかかった。

「武芸十八般、鎖鎌術!」

 荒波の水しぶきが降りしきるなか、『太陽のプリンセス』は剣を分銅と鎖で繋がれた鎌に変化させた。そして波上のルチル目掛けて鞭のようにしなやかに腕を打ち振るい、分銅を勢いよく投擲する。

「何っ!?」

 分銅はルチルを捉えると、投擲の勢いで一瞬のうちに鎖を彼女の体に巻き付かせ、直立状態のまま拘束した。直後、イキシアはルチルと繋がった鎖鎌を手に岩場から飛び離れ、振り子運動の要領でルチルの下方へと落ちていった。

「ぐううっっ……!」

 波上で足を踏ん張り、ルチルは鎖から伝わる衝撃に耐えた。眼下を見下ろすと、麗しき『太陽のプリンセス』が、高波に突っ込んでいくさまが見えた。

「おいおい、アイツには常識ってやつがないのか!?」

「でえりゃあ!!」

 ルチルが驚愕に目を見開く中、イキシアはおよそプリンセスらしからぬ叫び声とともに正面から波へと飛び込んだ。一瞬後、彼女の体は波に呑まれたかと思うと、大きな水しぶきを上げて反対側へと突き抜けていった。その流れでイキシアは鎖鎌を剣へと戻すと、空中で抱え込み後転を決め、流れるように頭から水中へと飛び込んだ。

「……水中戦へ挑む気か? ……馬鹿めが」

 鎖の束縛から放たれたルチルは、イキシアの取った一連の無謀な行為を見届けて軽く鼻を鳴らすと、足下の高波を消滅させ、追撃を行うべくそのまま足から水中へと落下していった。

4へつづく

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