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インカローズの余暇

 その日、家庭教師との授業をつつがなく終えたインカローズは王室の大図書館にやってきた。目的は本日の学習内容の復習――というのも確かにあるが、真の狙いは別にあった。彼女は吹き抜けになった円筒状の部屋の中央へと歩み出ると、昼下がりの日光が差し込む天窓を眺めた。もうすぐだ。いつもこの時間、ここからあれがやってくる。

「――来た!」

 インカローズは手を伸ばし、それを受け取った。天窓から啓示じみて舞い降りてくる一片の紙。いつも長さが違うが、今日は一段と短い。嫌な予感が脳裏によぎる中、インカローズはそこに書かれた文字を読み上げる。

「『今日のプリンセス・クルセイドはお休みです』……残念ね」

 インカローズは一つため息を吐くと、頭を振りながら本棚に備え付けられた車輪付きの梯子に手をかけた。そこでふと、もう一度天窓を見上げる。せめてあの、様子のおかしい謎の男の日記でも降ってこないだろうか。だが、天窓からは日の光が差すばかりだ。インカローズは観念して片方の足を梯子にかけると、もう片方の足で地面を蹴り、車輪付きの梯子を溝にそって走らせた。特に意味はないが、インカローズはこれが大好きなのだった。

(今日のプリンセス・クルセイドはお休みです)

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