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IPアドレスは個人の特定ができない

noteさんが以下のような不具合があり謝罪した件がちょっとした騒動になってしまいましたね。

この件自体は反省の上二度と起きないようにしてほしいし、してくれるんだろうとは思っています。
ただ、ここで流出したIPアドレスを元に著名人の特定騒動に走り、誹謗中傷が飛び交っているとのことで、「みんな思ったよりもIPアドレスを知らなさすぎでは・・・」とドン引きした次第です。

この記事ではなぜIPアドレスでは個人を特定できないのかを、IPアドレスに関して解説することで納得していただこうと思います。
別にnote社の回し者とかではないです。これから解説するのは今皆さんが使用しているインターネットの基本的な仕組みの話で、厳然たる事実だけです。
ただし専門家というわけじゃないので、もし内容が間違ってたらご指摘くださいませ。また、内容はできるだけ噛み砕いて記述するため、意図的に詳細な情報を省くこともあります。

IPアドレスとは何?

「IPアドレス」は簡単に言えば「インターネット上でのあなたの端末(PCやスマホ、ルーターなど)の住所」です。
端末一つ一つに割り振られて、「〇〇サーバーさん、私の住所はここです。ここにホームページのデータを送ってください」「わかりました、今から送りますね」
などとやりとりしています。現実でも住所がなきゃ手紙をやりとりできないのと同様に、端末にもそれぞれ住所を割り振ってるんですね。
この住所は「172.168.255.1」のように、「0〜255」の数字を4つ繋げた形をしています。これにより、およそ43億通りの住所を作ることができるわけです。

グローバルIPアドレスとプライベートIPアドレス

しかし考えてみてください。地球上にはすでに70億人の人間が住んでいます。
しかも一人の人間が複数の端末を持つのも当たり前の時代です。PCとスマホを1台持っているだけで2台ですよ。どうみても43億通りの住所じゃ足りないんです。この状態はすでに長く続いていて、IPアドレスは枯渇している状態です。

これを解決するために昔の人は考えました。

「43億通りのうち、この範囲だけはインターネットで使えないことにしよう。そのかわり、これを『プライベート』な環境で、みんなに自由に使わせよう」

ここでいうプライベートな環境とは、ルータの内側、という意味です。
みんなもWi-Fiや光回線を使ってインターネットをする時、必要となるのが「プロバイダ契約」と、「ルータ(アクセスポイントとも)です。プロバイダ契約とルータなしで、あなたのスマホからgoogle検索はできません。なぜか。

さっき言った通り、IPアドレスはすでに足りないので、ある個人の端末にいちいちIPアドレスを与えたりすることはありません。あなたが家でインターネットにアクセスする場合、まずあなたはプロバイダと呼ばれる業者と契約します。Softbank光とか、NTTフレッツ光とか、スマホなら端末を買った時にパケ放題だのといったプランを契約しますね?そういう契約が必ずあります。この契約により、あなたはそのプロバイダが持っているたくさんのIPアドレスのうち、一つを貸し出してもらえる権利を手に入れます。(回りくどい言い方なのは後述します)

この貸し出してもらえるIPアドレスは、直接あなたの端末に登録されることはありません。登録先は「ルータ」という機器になります。光回線を契約した後、業者さんが初期設定して置いていった機器の一つがそれです。

貸し出すIPアドレスは「ルータ」に与え、他の人はルータを経由して繋いでもらう。ルータは『プライベートな環境でつかっていいよ』と定められたIPアドレスを自動的に、あなたの端末に割り振ります。ルータは同時接続数の許す限り、端末10台でも20台でも受け付けますから、ルータ用のIPアドレス1つで10台分のIPアドレスを割り振ったことと同じにできます。こうすることで、インターネット内で使うIPアドレスの数を10分の1とか20分の1に減らすことができました。
こうしてなんとか43億通りの数字をやりくりしているわけですね。

この時の「ルータに割り振られたIPアドレス」を『グローバルIPアドレス』、「ルータがあなたに割り振ったIPアドレス」を『プライベートIPアドレス』と言います。

プライベートIPアドレスはインターネットに流出ことは決してありません。
noteの記事や、匿名掲示板に残るIPアドレスは全て『グローバルIPアドレス』です。

グローバルIPアドレスは変わることがある

先ほど頑張ってIPアドレスの必要量を10分の1にしようと、グローバルIPアドレスという技術を発明しました。

でも、正直これでも足りません。人間も端末も増え続けているのですから、10分の1にしたって焼け石に水なんです。

しかも、グローバルIPアドレスを与えたルータが壊れて買い換えられたら、また新しいIPアドレスを割り振らなければいけません。壊れたルータに入ってたIPアドレスはこのままでは一生使われず、無駄になってしまいます。枯渇しているのにこれでは困ってしまいますね。

そのため、「使わなくなったIPアドレスはなんとか回収できないか」ということも考え出しました。契約解除したり、長いこと使わなくなったIPアドレスを回収して別の端末に貸し出すことができれば、さらにIPアドレスの必要量を減らせます。

これを実現するために、昔のすごい人たちは考えました。

「IPアドレスは与えちゃダメだ。期限や条件を設けて貸し出して、期限が過ぎたら返してもらうことにする。まだ使っていたら新しいIPアドレスを期限つきで貸し出す。この繰り返しにしよう」

先ほどプロバイダ契約の説明をした時に、『プロバイダが持っているたくさんのIPアドレスのうち、一つを貸し出してもらえる権利』といったのは、この仕組みがあるからです。
IPアドレスは貸し出す期間や条件が決まっています。それを過ぎたら新しいIPアドレスをルータに割り振り直します。この仕組みを動的IPアドレスと言います。

ルータの場合、電源が切れたり再起動する度に、貸し出されるIPアドレスが変わる可能性があるようです。

・家で停電
・ルータが壊れて再起動した(買い換えた)
・プロバイダで障害が起きた etcetc…

こうしてみると、案外グローバルIPアドレスはすぐ変わっているかもしれません。(時と場合によるので一概には言えませんが)

さらに言うならあなたがつなぐルータを変えたらそれだけで『グローバルIPアドレス』は変わります。
友達の家や喫茶店にあるWi-Fiを使っているときは、その喫茶店のルータに割り当てられた『グローバルIPアドレス』を使っていますし、スマホで4G通信をしているなら、送受信する電波塔が変わる度に、グローバルIPアドレスは変わるかもしれません。

ここまでのまとめ1

・IPアドレスは端末の住所。これがないとインターネットができないが、43億通りの住所はすでに枯渇状態。
・なんとかやりくりするために『グローバルIPアドレス』といった仕組みがある。ルータにだけグローバルIPアドレスを与え、個別の端末はルータを経由して接続してもらう。このため、インターネットにはグローバルIPアドレスしか残らない。
・さらになんとかするために『グローバルIPアドレス』は貸し出され、一定期間や条件毎に貸し出される住所が変わる。『動的IPアドレス』という。

さて、ここまでの説明を踏まえた上で本題。
「なぜ、IPアドレスでは個人を特定できないのか」を考えてみましょう。

理由1:グローバルIPアドレスは変わってしまう

先ほど述べた『動的IPアドレス』の仕組みにより、あなたが同じ場所で通信していても、1日後、もっと言うと1時間後には違うグローバルIPアドレスに変わっているかもしれません。

noteで、2020/8/14 16:00に記事を投稿した人(Aさん)のIPアドレスが、2ちゃんねるのとあるスレでみつかったとします。しかしその投稿は2019年のものでした。

これは同じ人のIPアドレスと言えるのでしょうか?
つまり、100%同じ人が投稿したとはっきり断言できるのでしょうか?

例えば2019年に投稿されたIPアドレスはAさんのお隣のBさんの家に割り振られていたかもしれません。警察でもない限り、「どの時点でどのIPアドレスが、どの端末に割り振られていたか」という情報は開示されません。
2019年には別の人に割り振られていたIPアドレスが、2020年になってAさんに割り振られ、Aさんはnoteに記事を投稿した。では、2019年の投稿は?当然Aさんのものではない可能性が出てきます。

このように、IPアドレスが同じだった場合、同じ人が投稿した可能性ももちろん存在しますが、「それは100%ではありません」。つまり「同じ人だと断言できない」のです。

IPアドレスが同じでも、投稿時間に差があれば同じ人と断言することは困難です。これはその時間差が広がるほど、同一人物である確率は低くなります。

理由2:ルータは複数人で同時接続できる

では「投稿時刻が一緒であれば、それは全部Aさんの投稿だ」と言えるかも考えてみましょう。

Aさんは2020/8/14 16:00に記事を投稿しましたが、Aさんはこれを喫茶店のフリーWi-Fiで投稿しました。
一方、完全な同時刻に2ちゃんねるのスレで、同じIPアドレスで誹謗中傷の投稿がされていることがわかりました。
さて、この2ちゃんねるの投稿、果たしてAさんのものと断言できるでしょうか?

先述の説明の通り、インターネットに残るIPアドレスは全てグローバルIPアドレスです。そしてルータは複数人の同時接続を可能にします。
喫茶店にAさんがたった一人でいるとすれば話は別ですが、普通は何人もの利用客がコーヒー片手にスマホをいじっているはずです。
IPアドレスで判明するのは、「2020/8/14 16:00という時刻に、そのIPアドレスが割り振られたルータがある場所(今回は喫茶店)にいた」ということで、それ以上はわかりません。
そのルータに何人同時接続していたのか、同時接続していた誰が2ちゃんねるに投稿していたかはわからないのです。わからない、つまり「個人を特定できていない」ということになるのです。

ここまでのまとめ2

投稿のIPアドレスから個人を特定することはできない。なぜならば、
・グローバルIPアドレスだけでは、「その時刻に、そのルータがあった場所にいた」という情報しかわからない。
・動的に割り振られているIPアドレスを使っているので、1日どころか1時間でも差があれば、割り振られたIPアドレスが変わっている可能性を否定できない。つまり時間差がある投稿を同一人物だと断言することはできない。
・仮に「同時刻」に投稿があったとしても、ルータに同時接続している誰かが投稿していた可能性を否定できないので、やっぱり別々の投稿を特定の個人に絞ることはできない。

おわりに

ここまで行ったのはインターネットの仕組みという事実と、そこから求められる論理的帰結で、確率の問題です。

「IPアドレスだけでは特定の個人を特定できない」
「IPアドレスが同じでも、同じ人が投稿したとは言えない」

もちろん、IPアドレスが同じ投稿が同じ人だったという「結果」が出ることもあるでしょう。でも、それは結果だけの話であり、確率とは何も関係がありません。
100%、自信を持って個人を特定できないのですから、「2019年の2ちゃんの投稿は、流出したこのIPと一緒だから▲▲だwww」という安易な決めつけは是非やめましょう。IPアドレスは絶えず変わる可能性があるのですから。

おまけ:noteのサポート

今回の不具合により、名誉毀損などの被害をこうむったクリエイターに対しては、ご本人と連携して法的措置を含めてnote社がサポートいたします。

今回の声明でnote社からはこのようなお話が出ています。
先ほど「IPアドレスでは個人を特定できない」といったのですから、「2019年の▲▲の投稿、お前だろバーカ!」みたいな煽りは立派な名誉毀損です。
つまり、煽った側は裁判を起こされたら確実に負けます。損害賠償でお金と地位を失うことになりますね。

noteはそういった煽る輩に対しては裁判でしっかり決着をつける、そのサポートをするという意向です。
ぜひあなたが賢者なら安易な煽りはやめましょう。あなたの身に災いが降りかかるだけですよ。


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