これ以上、僕たちを裸にしないでくれませんか?『映画を早送りで見る人達』【勝手に寄稿】


まず謝りたい事は、この本を定額制のオーディブルで、1.5倍速で聞いているという事実。消費の権化。流石に後日ちゃんと買うので許して欲しいです。

私は仕事柄倍速機能を使ってTVアニメやドラマシリーズを観る事があるし、世紀末乳児なので、世間では言うところのゴリゴリのZ世代(ゴリZ)。「ひえ〜、怒られる……」と思いながら聞いたのですが、違いました。

人によっては怒られるよりもひどく、悲しみ😥となってしまう代物でした。「映画を倍速で観る」というキーワードをとっかかりに、Z世代の属性を定義し、僕らの空虚で脆い心を丸裸にしてしまっている。

そして、昨今話題の批判の衰退、推しと消費の問題、快適主義(嫌なものを見せんなよという逆ギレ)、そして個性の問題など、今ネットでも熱い問題をも盛り込みながら展開されています。

もはやタイトル詐欺だろと言うくらい、若者論でありカルチャー論書ですよね。



負けないものを、の呪い

以前にも書きましたが、僕は「誰にも負けないものを一つ見つけろ」的な価値観で育ってきました。

これは、勉強もスポーツも本気でやることができねえ"将来が不安な子"に対して、よく言われがちで、僕らにとっても希望でもあり呪いでもあるなと感じていましたが本書にも出てきましたね。

多様性を重んじようとするがあまり、多様さのない自分にコンプレックスを抱いて、すぐに何者かになりたがってしまう病です。僕もずっとこれでした。すぐに上位互換が見つかる地獄で生きる僕たちが、一度このブームに乗ってしまうと非常に苦しい。

そうなると優れることを諦めるんです。僕の場合は上位互換を見つけると、「でもこの人はネスのPKファイヤーのずらし方向とかわからないしな」とか、「スマブラは強いかもしれないけど三島由紀夫とか読んでないだろうしな」という風に、「別のことを知っている」優越感や違いで自分自身の心を保っていました。

今考えると、優れようとするのは大変だし追いつけないから、知識の幅が広いほうがコスパよくて、博識に見えるから良いじゃん、ということですよね。そのために倍速でアニメや映画を見る。彼らのようにコミュニケーションのためにということではないですが、本質的には同じでしょう。上手く逃げ口を確保できないと本当にしんどい人生だと思います。

僕は現在もその方向性は変わらないけど、知識の収集自体が面白くてやっている感じになりました。コロナ禍自粛中に様々な価値観がリセットされて、地獄を抜け出すことが出来たからです。

コロナ分水嶺

また、多様性の弊害で「他人にとやかく言うのは野暮」みたいな風潮になり、干渉どころかコミュニケーションまでめんどくさがってしまいます。これが後述の「快適主義」にも繋がります。

それに加えてコロナ禍の弊害もあります。先日、年上の方に「タイラくんたちが学生の頃は雑談とか面白かったけど、今の大学生は学歴とか授業の話しかしないらしいよ」的な事を聞きました。

それもそのはずです、彼らはコロナで何も体験できてないので話すリソースがないのです。僕らはギリ高校生でも大学生でもイベントや行事で人と関わりましたが、ちょっと下の世代は何も体験していません。コミュニケーションを取る手段もなければ、リソースも不足しているという状況かと思われます。

僕はラッキーなことに、個性や将来の問題と向き合わなければならない時期にコロナ禍となり、上手く自分と向き合うことが出来ました。学生にもコロナに生かされた人とそうでない人がいるようです。

ちなみに、僕は大学の寮で生活していたのですが、同学年の間ではスポーツ、セックス、映画、趣味、お笑い、留学、ビジネスとなどなど大学生になったらこれやろうぜみたいな話でもちきりだったのですが、ちょっと下の世代の子たちはずっと「化学の模試の結果」を話していました。コロナ前でもです。

別に悪いことではないですが、入学してまで学力や点数のマウントの取り合いしないでもいいのになと思っていました。これは僕の偏差値が低いだけかもしれません。

平凡ブーム

今、一周回って個性やスペシャリティではなくて、普通が一番幸せじゃんかよ。という作品が多いと思っています。オスカーを獲った『エブエブ』も優しく普通であることを説き、映画『イニシェリン島の精霊』も逆説的に平凡を愛していたし、バカリズムさんのドラマ『ブラッシュアップライフ』も人生の一発逆転ではなく眼の前の友人や幸せを素敵に描いています。今放送しているTVアニメ『スキップとローファー』もその系譜です。

これは僕がとあるコンセプトアルバムにハマって、個人的に「特別」を見つめ直す平凡ブームだから、作品を何でもそう解釈してしまうかもしれませんね。

そのアルバムはドレスコーズの『平凡』です。このアルバム自体は少し前のものですが、志磨遼平さんも「だいぶ未来の事を歌っている」とおっしゃっていました。個性の塊で唯一無二を目指していた志磨さんがたどり着いた一つの作品が『平凡』だったそうです。全曲やばいのでおすすめです。

また、とあるTwitter論客が「好きなことで生きていくのネタバレ」がされていると呟いていました。個性的で何にも縛られない、好きなことで生きていこうとしていた人たちが日々人々に非難され、自ら命を落としたり、酒やギャンブル、不純異性交友に溺れ、まさに警察に捕まり始めている。

僕たちはこんな時代に生まれて、こんな時代で育ったのだな、と思います。一度見下してしまった普通に戻ること、平凡の幸せ(慎ましいとか身分相応とかそういう次元ではなく)を享受できるように、僕らはなれるんでしょうか?



止まらない消費と装備になる推し

本書では、倍速視聴のことを鑑賞ではなく摂取だと言います。調査対象である学生たちはトレンドをチェックしてみんなと話せるようにしたいから、アニメを倍速で一気見するのだと語り、必死にリソースを確保しようとしていることが分かります。

これはどの分野でも言われていることですが、消費者として作品をコンテンツ化してしまう事についてのお話ですよね。次から次へとリキッド消費(流動的なモノを介さない消費)をガンガンしていくとのことですが、これはもう止められない。消費者が求めているのか、企業含めた作り手が求めているのかわかりませんが、まだこれが続くと思います。

また、印象的だったのが「推し」という言葉の話。もう「装備」になっていますよね。

オタクだというと色々だるいから、「推し」って言っとこう。とりあえず推しがいればトークにも事欠かないし、心の拠り所になってくれる、「にわか」という言葉や被害妄想から守ってくれる。いわば防具の役割です。

しかし、「推し」は武器にもなっています。同担拒否という言葉は少々オタクすぎるかもしれないですが、推しに使った時間やお金を物差しにバトルが勃発しています。

最近もアニメのステージイベント会場で些細なことから殴り合いに発展した事件がありました。このようなケースは推しを超えたガチ恋的な意味合いかと思いますが、出来ることならみんなで楽しく共有したいものです。

「推し」という言葉や文化のパッケージング力が高すぎて、良いこと、悪いこと、今生まれた問題や価値観とこれまでにもあった不可視なものが複雑に絡んでおり、何がなんだかわからなくなってきている印象です。

とはいえ、誰かの好きだという気持ちはとっても素敵です。熱量の高いファンの書き込みや、そこで感じる幸せを否定する気はまったくもって微塵もありません。



批評で傷つき、キレる「快適主義」

これも僕のTLでは絶えず語られている観点で、先日も「つまらなかった作品に悪口を言わずにスルーするのは優しさじゃなくて、冷酷さやろ!」というツイートに沢山の賛否両論の引用リツートがされていました。

湯水の如くコンテンツを摂取し、消費をして行く過程で、最も合理的で気持ちの良い快適な形を自分で作っていった。僕はあなたの好きなものに文句言いませんので、あなたも言わないでください、これで僕らは快適ですよね。という態度かと思います。

これは普通の人間関係にも当てはまり、どんなものも個性なので良いんじゃないですか?とサラッと流している様子が本書にも書かれていました。

僕も好きなものを勧めた時におもんないと言われることもありますが、十分な時間とコミュニケーションと信頼関係があれば傷つく事もないですし、相手はそう思っているんだな、そういう見方もあるなと納得できます。

これはネットでは100パー無理です。自分の好きなものを批判されると辛いですが、納得できるのはコミュニケーションがそこにあるからで、ネットにはそれがあるようでない。

Z世代の多様性への気持ち云々もありますが、ネットだから苦しい。そもそも、絶賛感想であっても現実で語ってしまうとオタク語りっぽくて恥ずかしいと思ってしまう繊細さだと思うのでコミュニケーションのない批評はただ傷つくだけ。新しい視点とかの前に、ゲボでそうになってしまうのです。

自分の快適なものだけを集めたいという主義に関しては、前にちょこっと書いています。

誰も見てなくても書きます

僕は書きたいものはちゃんと書こうと本書を読んで思いました。もちろん、誰かがちゃんと書いてくれているときはそれをRTすればいいだけの話だって分かっています。それを把握した上で、自分が読みたいなと思ったものを書くという行為自体がやっぱり意義があるかもしれないと思います。あと、消費はやっぱり嫌だから。

僕が書いていることは批評には程遠い拙いものですが、コツコツと続けていけばなんとかなると思います。なんせ僕は世紀末乳児で未熟なゴリZで、もう少し長生きすると思うからです。


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