にっぽんの知恵「出汁(だし)⑤『昆布+かつお』のだしは元の7倍おいしい」
図像:左から「昆布」「鰹節」「椎茸)(Wikipediaより)
あらためて「だし」の話に戻します。
料理人にとっても、だしは命だといいます。それで、高橋さんは、
「だしの世界は奥が深い」
というのです。
吸い物には、昆布とかつおぶしの、おいしいエッセンスを抽出した「一番だし」が合います。
浸し物や和え物には、一番だしをひいた後の昆布と削り節を煮出してとる「二番だし」で一度、下昧をつけてから、本味をつけるといいのだそうです。
煮炊き物には、だしに、みりんや酒で調味した「八方だし」。酢の物には、だしに酢と調味料を加えた「割りだし」。じつに、さまざまなだしがあって、使い分けるようです。
それに瓢亭では、マグロの削り節も使うといいます。
「かつおぶしよりあっさりしていて、たくさん使ぅても雑味がありません。上品なうまみだけが出て、おいしいと思いますね」
だしは、複合させると一層おいしくなるのだそうです。
高橋さんが2005年3月、フランスのリヨンで開いた講習会でのエピソードを紹介してくれました。
最初は、昆布だしをひいて、フランスの料理人に味見してもらいました。
これに対する反応は、
「まずい。海藻の匂いしかしない」
というように、まったく理解されませんでした。
つぎに、昆布だしにかつおを加えると、
「おいしい、おいしい」
に、反応が変わったのだそうです。
さらに淡口しょうゆと塩で味を引き締めると「素晴らしい」という評価がくだされたのだそうです。
「彼らは、かつお節でこんなにいい味が出るのなら、昆布は要らんのやないかと聞いてくるんですね。でも、2つのだしを合わせるからこそ、おいしさが出るんです」
「1(昆布)十1(かつお)」は「2」ではないのだ。脳の興奮度からいうと「7」ぐらいになる感じがするというのです。
では、なぜ「だしはおいしい」のか。伏木さんは、
「子どものころから食べ慣れた味だからでしょう」
という。
むろん、そのとおりなのでしょう。しかし、なぜ、だしのおいしさが発見されたのでしょうか。
そこには、日本の食文化の長い歴史が横たわっているように思えます。
それは、こういうことです。
まず大昔の6世紀、殺生を禁じる仏教が日本に伝来しました。その結果、675(天武4)年、牛、馬、鶏、犬、猿といった「五畜」の肉食を禁じる詔勅が出されます。
こうしてタテマエの上では、おいしい獣肉を食べることが大っぴらには、むつかしくなりました。そこでかわりに、だしのうまみが編み出されたのではないでしょうか。
そういえば、だしはお米とも相性がいいように思います。
という意味でいうと、だしは「獣の肉の代わり」なのかもしれないということになりそうです。
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