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東京交響楽団ヴァイオリン奏者に聞いた、オーケストラ奏者という生き方。(2)【オトとヒト】

皆さまこんにちは、ライターの青竹です。前回に引き続き、東京交響楽団第一ヴァイオリン奏者の中村楓子氏のインタビュー記事です。今回はより音楽の深部へと話が進みます。(この記事は2月下旬にインタビューされたものです。)

中村楓子(ナカムラフウコ)
5歳よりヴァイオリンを始める。桐朋女子高等学校音楽科(男女共学)を卒業後、桐朋学園大学音楽学部カレッジ・ディプロマコース在籍中に東京交響楽団のオーディションに合格。現在、東京交響楽団第一ヴァイオリン奏者。
第65,66回全日本学生音楽コンクール東京大会ヴァイオリン部門高校の部入選。第22回日本クラシック音楽コンクール高校女子の部第4位。第7回横浜国際音楽コンクール弦楽器部門大学の部第一位。桐朋学園音楽部門平成24年度高校卒業演奏会などに出演。これまでにヴァイオリンを宮崎ありさ、吉田薫、豊田弓乃の各氏に師事。


ーオーケストラで演奏するにあたって、常に意識している事などはありますか?

中村:そうですね。ソロと違って集団で一つの音楽を作っているという感覚は常に持っています。演奏中もアンテナを張って、周りの音楽をキャッチする意識は大事ですね。ソロでは自分を押し出して、「私はこういう音楽をしたい!」という想いを伝えるべきだし、お客様にも伝わらなくてはいけません。しかしオーケストラはそういうものではないので、自己主張ばかりでは音楽が成り立たない。

ー「自己」を押し殺した方が上手くいくという事でしょうか?

中村: いえ、そういうわけではありません。「自分の音楽」や「理想の音楽」を持っていないというのは音楽をする上で問題です。一人一人の奏者がそれぞれの音楽の「形」を組み合わせようとする事で、相乗効果が生まれて、一人では作れなかった音楽を作れると私は思っています。

ーなるほど。それを踏まえた上でオーケストラ奏者に向いている性格とかってありますか?

中村:性格ですか、難しいですね。一概にこの性格、とは言い切れませんが、敢えて言えば「柔軟性がある人」、でしょうか。先程の話とも少し被りますが、オーケストラは各々の音楽を一つのものとして作り上げていきます。その上で「私はこういう音楽をしたい!」とか「ベートーヴェンは絶対こうあるべき」という部分を譲れない人は、オーケストラで生きていくのは難しいのではないかなと思います。大勢で作り上げていく上に、更に毎回公演によって指揮者も変わります。指揮者が変われば、ヴァイオリンだと弓の動かし方から変わります。そういう時にあまりにも頑固だとオーケストラとして音楽になりません。「自分はこういうスタイルが好きだけど、その音楽もアリだよね」くらいの柔軟さがオーケストラ奏者には必要だと思います。
あと、技術的な面で言えば「引き出しの多さ」でしょうか。もちろん私もまだまだ勉強中の身ですが(笑)、例えば指揮者が「硬めの音」を要求すればそういう奏法を、「柔らかめの音」を要求すればそれに合った奏法を、と出来るだけ早く反応する事が求められます。指揮者の持っている音楽をこちらも汲み取り、イメージして、即座に反応できるだけの技術は必要になってくると思います。逆に言えば、オーケストラで演奏しているうちに、自分の引き出しもどんどん増えていく所が楽しいです。

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ー今「指揮者」のお話が少し出ましたが、オーケストラ奏者として「やり易い指揮者」ってどんな人なんでしょうか?

中村: そうですね、やはり指揮者自身の「音楽」が明確に伝わる人でしょうか。もちろんその音楽にそれぞれ好みはありますが、そもそも何をしたいのかが伝わらない人だと、オーケストラとしてはやり難い部分はあります。個人的な好みだと、「自然な息がある」指揮者の方は弾いていてとても気持ちがいいです。

ーオーケストラのオーディションについて、しゃべれる範囲で話していただけますか?

中村:大体どこもモーツァルトやバッハを弾かせるところが多いです。あとは「オーケストラスタディ」と呼ばれるものは絶対にあります。選ぶ人の明確な基準というものは、その時にオーケストラが欲しい人材によってさまざまなので一概には言えないのですが、団体競技なのでソリストとして上手いかどうかより、受ける人が自分たちと音楽を作る事に魅力を感じているかどうか、の方が大事かもしれません。でもオーケストラによって音楽の色は本当に様々なので、自分のしたい音楽に近いオケを探すのも大事な事だと思います。あとは、オーケストラはどこも「試用期間」というものがあり、オーディションに受かると大体一年くらいこの試用期間になるのですが、そこで細かな音楽性やパーソナルな部分を知っていく事が多いですね。なかなかオーディション一回では把握できない事もあるので。

ーまじめな話が続いたので何か面白いエピソードなどあったら教えていただけますか?(笑)

中村:突然ハードルが上がりましたね!(笑)面白い話かぁ…。そういえば少し前、某コンクールでヴァイオリン協奏曲の伴奏を東京交響楽団がしたのですが、そのゲネプロ中にちょっとやらかしまして…。確かプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲の2番の2楽章だったと思うのですが、あの楽章はゆったりとした出だしなんです。コンクールだしソリストもオーケストラも集中している中で、音のなる直前に私のお腹が…。(笑)後から聞いたら管楽器セクションの所までハッキリと聞こえていたみたいです。あれは本当に恥ずかしかったです。

ー本番じゃなくて良かったですね!(笑)ソリストも少し気持ちが和んだんじゃないですか?

中村:そうだといいのですが…。


前回の気さくな部分と、今回の音楽について真剣に語る中村さんはどちらもとても魅力的でした。これを機に皆様も是非、東京交響楽団や沢山のオーケストラの演奏を聴いてみてください!

中村楓子 今後の演奏予定

「中村楓子ヴァイオリンリサイタル」
2020年7月13日(月)
18:30開場 19:00開演
「天空劇場」東京芸術センター21F
http://www.art-center.jp/tokyo/recital/index.html

「中村楓子&楠木由希子 春の宵 Duo Recital」
2020年10月16日(金)
18:30開場 19:00開演
ガルバホール

等。

(写真、文=青竹 *文中敬称略)




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