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「白玉の」

白玉の歯にしみとほる秋の夜の
酒はしづかに飲むべかりけり


平井康三郎の歌曲集
《酒の歌四章》の中の一曲。

詞は歌人としてのみならず
酒豪としても名高い若山牧水。
この歌は彼の代表作のひとつでもある。

※ ※ ※ ※ ※

酒というものを初めて知ったのは
小学校に上がったばかりの頃だったか。

共働きの家庭だったので、
母が夜遅くまで仕事で出掛ける時などは
父が夕食代わりにと
職場近くの居酒屋に
連れていって貰っていた。

縄暖簾をくぐり硝子戸を開けると
厨房を中心にU字型のカウンター。

壁際には二人掛けの机などもあり
厨房の奥には大きな寸胴鍋が設えてある。

その鍋はもっぱら熱燗用の鍋で
「ちろり」と呼ばれる金属製の酒器が
何本も湯煎されていた。

逆側には揚げ物用の鍋があり
串揚げが次々に揚がっていく・・・

仕事帰りのオッサン達が
仲間とワイワイ語りながら、
或いは一人で黙々と、
酒を飲み煙草を吸っている光景は
まさに「大人の世界」、
今で言う「親父の王国」そのものだった。

子供心にも
「早く大人になって、
 こういう場所に出入りしたい」
と憧れたものだったが、
アルコールを分解する力が弱く
酒の飲めない体質だと気づいたのは
上京し飲酒解禁になった頃のこと。

以来、
憧れだけは持ち続けながらも
酒とは縁の無い生活を送ってきた。


最近、
歳と共に体質も変わったのか、
少しづつではあるが、
酒が飲めるようになってきたようだ。
(・・・といっても、
 一合飲めるかどうかだが)

悪酔いせぬよう酒を吟味し、
ゆっくり、ゆっくりと、
酒の世界を楽しむ・・・

子供の頃に憧れたものが
この歳になってまたひとつ
手に入った気がしている自分がいる。

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