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「ちんちろり」

  ちんちろり男ばかりの酒の夜を
  あれちんちろり鳴きいづるかな


若山牧水の歌による
平井康三郎の歌曲集
《酒の歌四章》の三番目の曲。

まだ牧水が早稲田の学生の頃、
夏に帰省した宮崎からの上京の途中
紀州和歌山に旅した折の歌。

「ちんちろり」とは
松虫や鈴虫など
秋の虫の鳴き声を指すと同時に
「徳利の酒がなくなった」
ことを表す言葉でもあったりする。


もう夏も終わり
秋の虫が鳴き出す時分

酒を酌み交わしているのは
色気もそっけもない男ばかり。

女性と差しの席ならば
虫の音を聞きながら
しっぽりと過ごせるものを

見る顔が野郎ばかりでは
酒ばかりが進んでしまう。

外では虫がちんちろり、
部屋の中では
徳利の酒がちんちろり・・・

やるせないというか何というか

「たまんねえなあ」

・・・と、
思わず叫びたくなるような衝動と
そのやるせなさの中に
おかしみ(諧謔)を見出してしまい
独り笑う歌人の雰囲気が
見事に表現されている一曲。


ちなみに
「ちんちろり」のタイトルと
リズムカルな前奏から
サイコロ遊び(博打)を連想していた私。

おかげで曲の最初に浮かんでくるのは
和田誠監督の1984年の映画
『麻雀放浪記』の中に出てくる
雨の日のあばら屋(バラック)での
むさい男たちのサイコロ博打風景だったりする。

ぐるっと一周回って
詩本来の雰囲気に近いところへ
着地している気もするのだけれど・・・

・・・つくづく
詩情とは縁のない私だと恥じてしまうな。

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