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55 歳の男性。嚥下障害を主訴に来院した。35 歳ごろに両手に粗大な動作時振戦と下肢の筋力低下が出現し、徐々に進行した。40 歳ごろには上肢にも筋力低下がみられるようになった。50 歳ごろには、呂律が回りにくくなり、半年前から嚥下障害が出現し開鼻声になった。平地歩行はかろうじて可能である。発話の際に顔面筋の線維束性収縮が認められる。患者は 3 人兄弟の末子で兄が同じ症状を示すという。挺舌時の写真を別に示す。
最も考えられるのはどれか。

a Huntington 病
b 球脊髄性筋萎縮症
c 副腎白質ジストロフィー
d Charcot-Marie-Tooth 病
e Becker 型進行性筋ジストロフィー

第118回医師国家試験

解説

a. Huntington病は常染色体優性遺伝の神経変性疾患であるが、舞踏運動や認知機能障害が主症状であり、本症例とは異なる。
b. 球脊髄性筋萎縮症は、下位運動ニューロン徴候と錐体路徴候を呈し、嚥下障害や構音障害などの球症状を伴う。常染色体劣性遺伝形式をとることが多い。本症例の臨床像と一致する。
c. 副腎白質ジストロフィーは、副腎不全と中枢神経の脱髄を主徴とするX連鎖劣性遺伝疾患であり、本症例とは異なる。
d. Charcot-Marie-Tooth病は、遺伝性の末梢神経障害であり、下肢遠位部優位の筋力低下と感覚障害を呈する。球症状は伴わない。
e. Becker型進行性筋ジストロフィーは、X連鎖劣性遺伝形式をとる筋ジストロフィーであり、筋力低下は近位筋優位である。球症状は伴わない。

考察

本症例は、成人発症の進行性の運動ニューロン疾患であり、球症状と四肢の筋力低下を主症状とする。家族歴から常染色体劣性遺伝が示唆され、球脊髄性筋萎縮症が最も考えられる。
球脊髄性筋萎縮症は、第2染色体長腕のアンドロゲン受容体遺伝子のCAGリピート伸長を原因とする遺伝性疾患である。下位運動ニューロンの変性により、球症状と四肢の筋力低下を来す。
球症状としては、嚥下障害、構音障害、舌萎縮などがみられる。線維束性収縮は、残存する運動ニューロンの過剰興奮を反映した所見である。四肢の筋力低下は遠位筋優位であり、深部腱反射も低下する。
本症例のように、成人期以降に緩徐進行性の経過をたどるタイプをKennedy病と呼ぶ。女性保因者では無症状であることが多いが、男性では発症する。
球脊髄性筋萎縮症の治療は対症療法が中心となる。嚥下障害に対しては、嚥下訓練や胃瘻造設などを考慮する。呼吸不全に対しては、非侵襲的陽圧換気療法などが用いられる。
遺伝カウンセリングも重要である。常染色体劣性遺伝形式をとるため、同胞が罹患する確率は25%となる。罹患者の子どもが発症する可能性は低いが、保因者となる確率は50%である。
以上より、本症例は球脊髄性筋萎縮症と考えられる。神経変性疾患の鑑別診断においては、詳細な家族歴の聴取と神経学的所見の把握が重要である。適切な対症療法とともに、遺伝カウンセリングを含めた包括的なケアが求められる。

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