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プライド人間  1

「書くか」そう思い恥しくも意志無く列に属するだけであった蟻が悲しく間際無垢な子供に悪気も無く砂を掛けられる。それほど何気のない気まぐれだ。ただしこの突発的また、ただの気まぐれがこの今の絶望的な生活にたどり着いた1番の要因なのであろう。

 「だって自分には」これは少し前息を吸うにしては図々しい程までに染み付いた私の言い訳であった。当時の私には幸か不幸かガールフレンドがいた。と言っても今考えれば優越感に浸りたいだけであった自分の欲を満たすだけの存在。当然相手からしたら迷惑この上ない話しである。申し訳ない。ただこの頃の私はいわゆる苛められっ子であった。学校に行けば何かしらの暴言を言われ仲間外れにされることは校則であるかのように至極当然のことである。挙句の果てに彼女に貰った筆箱まで破壊され心まで壊されても何らおかしくない状態である。

 なぜ私がそれらに耐えれたか、それは先程述べた「だって自分には」であった。それが私が持つ唯一やつらに対する心の中の武器なのです。情けなく思われるであろうこの武器は満身創痍の私にはこの上なく効果的な武装である。武器の説明をしよう例えばやつらが私に対し無情な言葉を吐くとする。私は心の中ので「だって自分には彼女がいて将来の目標がある。こんな低能で言い返さない私にしか言えないやつよりかは幸せだ」と本音を覆い隠すのだ。我ながらよくぞ言ってやったと心の中で言ってやる。だが今考えればただの捻くれである。とはいえこの盾に守られた私はスマホを持ち何も考えずアンチコメントをする小学生のように無敵であった。それが後にゆっくりと頸動脈を締められ1秒先すらも危ういような゛プライド人間゛になるのだと遠く考えが及ばなかった。

 思惑外れであろう虐げ生活を送るにつれ傍観者であった者達の憶測とは異り、私の幸福度は鯉のぼり、いや鰻登りであった。失礼。先立って訂正しておきたいのは私はマゾではない・・・。まああえて否定も肯定も控えさせていただく、英断であろう。が「イジメ」に関して言えばはっきりとここで否定したい。本筋に返そう。何故私は幸福を感じていたのかそれは彼女と別れ不特定多数の女性と関係を持ついわゆる太宰治状態になっていたためである。なにゆえイジメられていた私がこのような身の程知らずの生活を送れたか。建前と本音である。今しがた彼女と別れをえた私は過去数回、学校生活で私のことを気にかけてくれた女性(以後ほのかと名称する)にメッセージを送った。すると大方私の予想とは裏腹に何もかも分かっているかのような返事がきた。いや今なら知っている何もかも分かっていたのだ。ほのかから返ってきた返事は「明日バイト先に行くね」であった。何分現実味の帯びた平凡な返事である。故に気づけなかった。バイト先、別れたことも、明日シフトが入っていることすらも言ったことの無い事実であることに。

 翌日いた。たしかにいた。傷ついた私の心を何度哀れみ混じりの同情で声を掛けてくれたあの瞳がいた。まだ少し終わるのに時間が掛かる。そんなに長くは無いもののレジ打ちの音が私の胸の水面によどみをもたらす。いつも聞かずとも分かる常連の銘柄すらも聞き返してしまう。何故そんなにも心の高まり混じりの興奮をしていまうのか。それはほのかの手に目線がいく。見覚えのある、いや、確かにこの手で渡したあのポーチ。寒気がするなぜだ、あれは元カノに渡したものなのだから。どうして自分が渡したものと分かるのか、それは一般常識があれば付けるはずのない私が付けた花である。「アザミ」のキーホルダーであるからだ。傍から見ればなにも美しくない光を失った紅色で針のような花。どこかそれが当時の私には砂を掛けられもがく蟻のように生気に満ちた魅力に目を奪われた。なぜそれを。理解の開始のプロセスすら待たないうちに砂時計は砂を切らした。流れるようないつもの退勤が初めてのキスのように時が進まない。だが別れが来るのと同様物事は心情に反し残酷にまた平等に進んでしまう。店を出る。少し待たした事を謝り近くのファストフード店に向う。何もないいつも通りだ。あまりにも平らな会話に笑みが溢れる。腹に穴が開く。そんな体験したことのない現象が現実味をおびるほどの、ぬるい牛乳に感じる甘みのような声で言う。「しあわせ」の四文字。まただ。少し感じていたほのかからの他者と多少とは過小評価であるほどに違う私に対する心持ちに。いじめられている自分に優しく接してくれるぐらいの人だそれは中々に仏、あるいは恐れの知らぬ無知な人、と思うのが定石。少しばかり私に対しての好意であると想像するほど愚かではない私である。であるが為に気づけた。他者と私にたいするお天道様が引っくり返るような仕草に。

 わたくし(ほのか)恥ずかしながら恋をしています。その意中のお相手とは、いじめられるべきしていじめられていた筆者さんであります。ですが効果不幸か否不遇にも彼女さんが現在お有りなのです。憎き女いつかいや、今すぐにでも私のもにするべくメラメラとメラメラと憤怒を圧縮エネルギーにかえるのです。かくいえわたくし何故筆者さんを意中のお相手としたのか。それは突然の事でした。何分夜遊びに生をだしていたわたくしは足繁く慣れたナイトクラブに行った日のことです。毎度の如くあれやこれやと有象無象の男の色目声に満たされていた時です。下流のように流れ着いたセンターステージの前にはあのお方。そう筆者さんがいたのです。その華麗たるやお姿他の無象と違い舞えや舞え己の魂のみを見るような心眼に絶句。無我の個体達を余所に見入る私を気づいたのは定かではありませんが、気づけば夕日が陰るように消えていたのです。要約するに恋の実りでありました。不思議なものであります。恋と言う「モノ」は足し算的ではなく倍乗的に加速していくものなのです。ですから何の躊躇いもありませんでした。彼に付き纏うあの彼女を壊しあの方を私のものにすることに。手始めにわたくしはやつの弱みを握るべく「お友達作戦」を決行したのです。計画としてはあいつと仲良くなり彼との相談をする仲になります。そうすれば簡単にやつから聞き出したことを元にわたくしは彼から見て百点の女を演じることが容易くなるのです。そして親身に話を聞く振りをして別れるように仕向けばよいだけなのです。

 実際簡単でありました。あいつから彼のバイト先、好みの女、将来の夢、普段では絶対に見せないような一面など諸々聞くことができたのです。そして見事あの女に彼から離れされることにも成功いたしました。わたくしとしても中々に酷い事をしたと自負しております。なにをしたのかそれは、私がSNSで昔の友達を装い彼と連絡をとったのです。そしてその内容を編集しあたかも彼が私に言い寄っているかのような会話にしました。それを匿名で彼女に送信し例の如く私に相談してき、私は台本を読むかのように別れを勧めただけであります。これは想定外なのでが彼からのプレゼントはもう要らない、それならばとアザミのホールだのついたポーチを貰うことができまきた。正直自分の知略の才に自惚れてしまいます。今ならきっとチンギス・ハーン、ナポレオンに並ぶほど私は聡明で大胆不敵なのでありましょう。されど何故でありましょうか。やっとの事彼から連絡がきた時、ふとお試しでリップを付けた口元が輝いて見えるかの如くひどく高揚しましたのに。いざ会ってみれど不可思議な彼との距離と言いましょうか間、的なものがあるのでございます。いかしがたこの超常現象のような謎に冴羽まれながらも、「名将ほのか」がこの戦討ち破ってみせるのです。

 怖い。その一言に尽きる。先程からよく私の事を分かっている。いや、分かりすぎてはいないだろうか。不気味な程に心地良く続く会話。まるで幼い子が大切な宝物を失くしてしまい酷く心傷した心を抱き締めるかのような母の温もり。何分家族と関わりの少かった私にとっては新鮮そのもの言い様のない心地良さに不快感を覚えていました。何故彼女はここまで私の事を理解しているのだ。もしや知らずの内に何処かで関わりがあったのではないか。否、私は正真正銘の苛められっ子友達などいようものなど在るはずがなかった。唯一の支えであった形だけの彼女を失った私にある物など一つもないのである。ではどうしてほのかは私の事を理解し何よりも元彼女にあげたあのポーチを持っているのだ。心臓が止まるいや、止まった気がした。不自然すぎるほど突然であった元彼女からの別れの知らせ。理由も「貴方が一番分かっているじゃない」、詳しく聞かされもしないままお別れをした。今思えば別れの数ヶ月前とある事を聞かされた。「最近貴方の学校の人と仲良くなり今度遊びに行くことになった」。名前などさほど興味のなかった私は聞く事はしなかった。だが解きたくない事実を知るほど嫌な謎謎など他にない。きっとそれは今目の前にいるほのかが正解なのであろう。どうして低学年用に作られた謎謎のような簡問を解けずにいたのか。考えもしなかったからである。いかに自己的な考えであったか、自分を呪う。だが余りに遅すぎる後悔の代償は今目の前に居るほのかとして具現化し、私は罪を償わなければいけない。寒気のする心地良さに目を瞑り今私の全てをほのかにさらけ出せば楽になるのではないか。何も考えたくない。蜘蛛の巣に掛かり生きる事を諦めた蟻の気分である。酸欠の心に思考を求める力はもう尽きている。私は己の贖罪をすべくほのかに過去の非人間的な行いを情なく話した。語り尽くした私は抜け殻のような気分でほのかの回答を待つ。多少私を庇うようシスターのような返事を、図々しくも待ちわびた。か弱い心拍数を止めるような返答がくる。最もな答えである。まだ私のした事に対照すれば生温いものであるのかもしれない。人格否定とも取れるほのかの声に心がすり潰されていく。「もう辞めてくれ」心の底からそう叫びたい。だが、その心すら何処にあるか分からい。そんな宙を歩くような感情を横断していると、ほのかの声が少し和らぐ。いや、実際には先程と変わらない、通り過ぎるほどの透き通った声である。だが、そんな錯覚を起こす要因はほのかの言葉にある。先程までとは他人格であるかのような優しい言葉。体から抜け切りそうだった心が服に付いた赤ワインのように染み込んで行く。今の私を抱き締めるような言葉の応酬に私の心は簡単に崩れ落ちた。濡れた頬に優しくコスモスの描かれた布切れが当たる。不意に頭に浮かぶ「乙女の真理」コスモスの花言葉である。私の真理を見透かしたようなほのかからしたら私は乙女なのだろうか。そんな皮肉交じりの感傷に浸る。程なくして乙女以上に女々しくいた私に羞恥心のお知らせがきた。「ここらで今日は切り上げよう」。意見する立場にない私であるが、漢である。別れ際くらい潔くいたいものなのだ。話の詫びと礼をしその場をお開きとした。あれから数日彼女とは一切の連絡を取っていない。行動とは反比例し、心の中は彼女のことで二次元方程式など前々日の朝食のように頭に残っていない。見栄と言い訳で生きてきた私には本当の恋など初体験なのである。当時からして言えば恋とすら気づけないほどのド素人であった。連絡は取らずとも学校で幾度目にする機会はある。話し掛けようと喉まで来る言葉を粗く動く心臓を維持する為の酸素が押し戻してしまう。そこにあるのはもどかしく恋をする思春期の少年の姿なのであった。

 「今にも抱き締めたい」。そうわたくしは心で何度叫びましたでしょうか。情なく自虐的な弱音を吐き、人目を気にせず涙する彼。ここらで私は優しく語りかけ手を差し伸べようものならそこで目的は達成されたでしょう。ですが今回のこの上ない作戦の成功に欲がでてしまいました。私の物にするのではなく私以外考えられないような人間に壊して仕舞いたくなったのです。よくあるお茶目な乙女心なのでしょう。器から溢れ出た私の欲望は屈強なラガーマンとて止めることはできないのです。新たに「彼の心ぶち壊し作戦」を決行することを決めました。手始めに弱り切った彼に少しばかり酷い言葉を投げかけました。さほど本気で言った訳では無かっのですが、パット見で気づきませんでしたがよく見ると倍乗的に涙の量が増えています。感じた事のない高揚感で手先が熱くなります。私の言葉一つで彼の心が大きく動くこの上ない幸せでありました。今度は少し優しい言葉を吐いてみます。見失った親を見つけた子犬の様な顔をしてこちらを見てきます。心の何処かで彼が私に惚れた事を確信しました。不思議なもので彼を我が物にするため、必死であった心に余裕がでてきたではありませんか。人間余裕がある者とそうでない者には百八十度見える景色が違うのでしょう。彼を壊すアイデアがところ知らずと頭に浮かんでくるのであります。息をするのも苦しそうな彼から「今日のところはお別れをしよう」と言ってきます。「分かりましたお気おつけて」今までとは別人のような彼につい改まった言い方で返事をしてしまいます。本日の礼混じりにわたくのお代を机くえにだしてくださりおぼつかない足で帰ってしまいました。恋愛というものは必ずしもどちらかが優位に立つ出来レースであります。それを知ってるいるわたくしに怖いものなどございません。何もしなくともいずれ彼から命乞いに等しい求愛がくることでしょう。案の定学校で彼とすれ違う度に掛けたい言葉の出しどころに困った様子をしています。彼がわたくしに乱され蝕まれていくのが分かります。

 そんな日常を幾分過ごしたある日のこと。彼から突然電話がきました。冷たく耳に付く金属から疲弊し切った彼の声が聞こえます。悲鳴ともとれる彼の言葉は有無を言わず会いたいの一点張り。そろそろこの一方的なシーソーゲームを終わりにするか迷っていたわたくしであったため快く快諾します。久方ぶりに見る彼の目は幾分凄みをまし、その心労が目に見えて分かります。これで目的は達成あとは彼からの求愛を受け入れるのみなのです。ですが、意気地なしなのかもう振り絞る勇気すら無いのか棘の無い会話の平行線。このままでは目的地の島に付きそうにありません。ここは一つ彼を弄んだ謝罪として私が気の利いた事を言う事にします。「好きな人はいるの?」。幾度数多の人に使い古され恋愛の教科があれば1ページに載るような言葉であり、これで気付かぬは男としていや、人として何か欠けている人以外考えられません。聞かずとも返事を決めているわたくしに彼は返事の機会を与えなかったのです。信じられません気づいていないのでしょうか。無視とも取れる話題の変更に少しいや、かなりの憤りを感じます。乙女の心を踏みにいじるその行為に、新品のニットで焼き肉に行かされた気分であります。不可解な彼の行動に余白のできた心が縮まるのが分かります。

 プライドしか取り柄のない私に勇気などおこがましいものは存在しない。彼女からあからさまな誘導尋問に間違いようのない答えに対し、意図して0点をだした。どうしようもなく不甲斐ない自分の首を絞めた。苦しくて強く力を入れた手を息絶えたように弱めた。死ぬ勇気すら無い私にあるのはプライドだけである。そんな物にあるプライドとはクズを言い換えただけの言葉なのだ。理解したくない現状に目を伏せたくとも見えるもの全てが私に味方しない。

 学校の帰り私はほのかの家に向かった。急な事に驚く彼女を気にせず外に行こうと言う。何の事か分からずついてくる彼女に私は恋の告白をした。


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