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老兵は死なず、ただ消え去るのみ

うちの奥さんはお酒が強くその上お酒が大好きなので呑む時はめちゃくちゃ呑むのですが、僕の作ったローストビーフを食べながらビールを豪快にガブガブ呑みながら「ゼハハハ」と笑う姿は黒ひげにしか見えません。#奥さんには絶対言えない#ゼハハハって笑ってないだろ

こんにちは、コッシーです。


さて、うちの施設には館内の清掃や設備を管理している用務員が専任で1人おります。

その方はIさんという70代の男性で、ある企業を定年退職後にうちにきて早10数年の大ベテランでして、僕よりも遥かに施設内の設備に詳しく、スタッフが設備のことで聞いてきた時は「Iさんに聞いて」と言うくらいです。#責任者おい

彼は多くを語らず黙々と自分の仕事をする、正に職人のようなタイプでその堅実な仕事ぶりに僕はかなりの信頼を寄せています。

そんな彼も70歳を超えた辺りから少しずつですが衰えがみられるようになってきました。


先日の話です。

施設内の2F浴室の電球が切れました。そこの電球は傘がついており、電球を替えるためには傘を外す必要があります。

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こんな感じ

電球を替えるのもIさんの仕事の一つであり、早速スタッフがIさんにお願いをしていました。Iさんは「はいよ」と二つ返事で答え、脚立と替えの電球を持ってすぐに2F浴室へ行きました。

しかし、30分経ってもIさんが戻ってきません。電球を替えるくらいなら10分程度で終わるはずです。掃除でもしてるのかなと思いましたが、万が一転倒でもして動けなくなっていたら大変です。

心配になって2F浴室に行ってみると、脚立に乗ったIさんが一生懸命傘を外そうとしていました。

「ふん!ふん!」と顔を真っ赤にして回そうとしていますが、傘はビクともしません。

「外れない?」そう僕が声をかけると、「多分、以前につけた時にちゃんとつけれてなくてズレているんだと思う。外すのに工具がいるから持ってくるわ」と言って工具を取りに行きました。

そんなに固いのかなと思って、脚立に上がって試しに傘を回してみるとあっさりと外れました。

僕は別に力持ちでもありませんし、傘外しの名人でもありません。そんな僕が少し力を入れただけ外れるくらいですので、多分ズレても無かったと思います。

Iさんは何で外せなかったんだろう…と考えているところに当の本人が工具を持って戻ってきて、傘を持っている僕をみて驚いていました。

「ええ!外れたのか!どうやって外した?固かったろ!思いっきり回したのか?壊れてないか?大丈夫か!?」

といつもは寡黙なIさんが捲し立てるように僕に詰め寄りました。

あまりの迫力に、「う、うん。固かったけど運が良かったのか回ったみたいで外れたよ。先にIさんが一生懸命やってたからじゃないかなきっと」とIさんには言いました。

「そうか。まぁ外れたのなら良かった」と納得したのかしてないのか分からないままIさんは淡々と電球を替えて傘をつけました。

もしかして年齢からくる衰えなのかもしれないと思いましたが、そんな事をIさんには言えず、その場を後にしました。


事務所に戻るとIさんに電球の交換を依頼したスタッフが「替えれました?」と聞いてきましたので、一部始終を話しました。するとそのスタッフから考えてもいなかったことを言われました。

「もしかすると、Iさんは限界が近づいているのかもしれませんね」

スタッフによると今回の件だけではなく、出来てたことが出来なくなったり、また頼んでいた事を忘れてしまうことが何度もあったりと、年齢からくる衰えを以前から感じていたとのことでした。

「今は大事にはなっていませんが、何かある前にIさんと話をした方が良いかもしれませんね」

そうスタッフに言われましたが、Iさんと何を話せばいいんでしょう。

「Iさん、このごろ衰えが目立つから、大事になる前に辞めてくれないか」と言えばいいのでしょうか。

実は僕とIさんは立場は違えどちょうど同じころに入社しました。Iさんが今までうちの会社にどれだけ貢献したか僕は隣でずっと見てきました。

そんなIさんに「辞めてくれ」とは僕は言える気がしませんでした。

スタッフには「少し考えるわ」と伝えその日は終わりました。


スタッフと話をしたときは少し感情的になり冷静に考えれていませんでしたが、年齢により会社を退職するということは決して珍しい事ではなくどこの企業でも普通に行われていることです。

当たり前ですがIさんのために会社があるわけではありません。Iさんが良い人だとか今まで貢献してくれたとかは一旦置いといて、Iさんが原因で事故などが起きる可能性が高いのであれば対処しなければいけません。施設責任者として僕が考えなきゃいけないことは施設が健全に運営できることです。

自分の中でまだ迷っており、答えは出せていませんが、どちらにせよ一度Iさんと話はしなければならないと思っています。


Iさんに限らず、人は年齢を重ねるといろいろと衰えが出てきます。自分では出来ると思っていても実際は出来ていないことも多くなっていきます。

企業として人の入れ替わりはあって然るべきです。とっても寂しく悲しいことですが「今までありがとう。お疲れ様」と声を掛けなければいけない時が訪れます。

僕はその声を掛ける立場にあります。辛くても会社のために決断をしなければいけません。その方に感謝と敬意を持っているのならなおさら僕から言うべきだと思っています。

おそらく近くIさんとは話をすることになります。いきなり辞めさせるということはないにせよ、今までと同じような働き方をしてもらうわけにはならないかもしれません。


やっぱり辛いなぁ・・・


現場からは以上です。それではまた。

コッシー

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