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基本を大事にする

為末大著『熟達論』は、現代の五輪書と言われ、熟達のプロセスを「遊」「型」「観」「心」「空」の5段階で捉えています。表表紙にある「人はいつでも学び、成長できる」という言葉は、壁に貼っておきたくなるような印象的なものです。
2つ目の段階「型」は「土台となる最も基本的なもの」です。副題が「無意識にできるようになる」となっています。

私は、ホワイトボード・ミーティング®というファシリテーションの認定講師をしています。最初に学ぶものに「9つのオープン・クエスチョンと8つのあいづち」があり、体に染みこむように繰り返し練習します。今も繰り返し練習しています。いざというときに、このオープン・クエスチョンの言葉が出るかどうかが大きな分かれ目になるのを体感しています。特に「そんなことはあり得ない!」と私が思ってしまうケースが重要です。否定的な言葉をぐっと堪えて、「もう少し詳しく教えてください。」というオープン・クエスチョンの言葉が出てきたことで助かったことが何度もあります。

認定講師になったばかりの頃のことです。私はある子育てのコミュニティでファシリテーターをするプログラムをデザインしました。ワークショップの序盤でするものの1つに「4つのコーナー」があります。これは、A4の紙やミニホワイトボードを横にして十字の線を入れて4分割し、「好きな食べ物」など4つの質問への答えを各自が書き、それを見せながら自己紹介していくものです。当初の計画で、私は端折って「3つのコーナー」にして3項目でやろうとプログラムをつくりました。しかし、そのプログラムを見たファシリテーションの私の師匠であるちょんせいこさんから「4つであることには意味があるので、4項目でやってみたら。」とアドバイスをいただき、私はアドバイスどおり4項目でやってみることにしました。
やってみて驚いたのは、実際のワークショップで、端折ろうとしていた項目が重要な意味を持ってきたことでした。具体的には、私は子育ての充実度を10段階で表記する項目を端折ろうとしていました。やってみると、充実度が明らかに低い数字の参加者がいて、子育ての悩みを抱えていることが分かり、端折らずに4項目でやって良かったと思いました。

もし当時の私が4項目ある意味をきちんと理解し、ワークを自在に使いこなせるような熟練のファシリテーターだったとしたら、ちょんせいこさんは別のアドバイスをくれたかもしれません。駆け出しである私には、基本どおりにやった方が学びは多いと考えてくださったのではないかと思います。そして、実際により多くを学ぶことができました。

『冒険の書』(孫泰蔵著)に、「『基礎練習』って、初心者のためじゃなくて中上級者のためのもの」「『基礎』→『応用』じゃなくて、むしろ『応用』→『基礎』」「初めは自由に遊んでなれ親しむ。その後、深く極めたいと思った時に初めて『自分が基礎だと思うこと』を徹底的にみがく」という言葉があり、『熟達論』で「遊」の次に「型」があるという考えに通じます。

学びのなかのある段階で、型となる基本を習得することは大切なことでしょう。そして、為末氏が「一度体得したと思っても、常に型をチェックする必要がある」と言っているように、折に触れて、型に立ち戻り、基本を確認することも大事だと感じます。

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