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8回目の月命日

優しい口づけ

 優しいキスで目が醒めた。「え?何?」と驚いているとゆっくり優しく、もう一度キスされた。

 頭をフル回転しながら「忘れちゃダメだ」「アナタなの?」いろんな事を考えていた。もう何年もキスはしていない。何も見えなかった。私は目を閉じていたのだろうか。悲しみも喜びも覚えていない。ただただ優しさだけを感じていた。
 身体に感じる感覚だけが残される夢なんて初めての経験だと思う。自分としては2回目のキスの時には目が醒めていると思っているのだけれど。
どこから現実でどこから夢なのか区別がつかない一夜になった。ずっと考えては、ありがとうと思い、それを繰り返して月命日の朝を迎えた。
彼が旅立った時刻は過ぎていた。

夢にすがる

 彼が夢に出てきたのは4回目
彼の生前、彼が夢に出てきたことが無いことを伝え「俺はお前出てきたことあるよ」とサラッと言われて悔しくて、彼の夢が見られますようにと祈って寝て(彼の横で寝てる)、織田無道が出てきてしまったことがある。しかもわけわからん事に、私は織田無道とふたりで竹刀を振って稽古をしていた。

 思い詰めるほど恋しいのだから、自然に夢に出てくると思っていたが全く気配もない。下手に祈って織田無道againしたらもっと落ち込みそうなので、おまじないをして寝たら、その日の夢に出た。1回目は養護学校か何かで二人で働いていた。

2回目はにんにくを二人で剥いて食べいていて、美味しいねと言い合っているだけの短い夢だけど、私はにんにくを食べられないし彼も得意でないので意味不明

3回目も小学校なのか、子どもたちが元気に遊んでいるのをふたりで見守ってるお仕事をしていた。懐かしい彼の笑顔を見れて嬉しかった。

 何で学校なんだろう?なんで子どもたちなんだろう?何か言いたいの?と考えて寝たのが昨日の夜だった。月命日に会えるっていいね。ズドンとくる命日反応をしなやかに避けられた気がする。ありがとうね。



寝癖のついたヒマワリ

 気持ちが落ち、心がざわつき、時間の過ごし方すら見つけられずにいた。ネットで見かけたヒマワリのイラストが、まるで寝癖がついた彼のように思えて手持ちの糸で刺しゅうしていた。
出来上がったヒマワリを見ていて思い出した。そういえばヒマワリって絶壁だよね。君も気にしていたね絶壁。娘さんに遺伝しちゃったことを。

寝癖のついたひまわり

 出来上がった刺しゅうはトートバッグに仕立てた。片面はひまわり、反対側には飼っていた4匹の猫でポケットをつけた。やはり4匹が揃っていると嬉しい。(左2匹が彼の実家へ/右2匹はここにいる)

工場で飼っていた4匹の猫

表布は工場のソファーカバーだった。彼がこの上でゴロゴロしながらスマホをいじっていた。内布はリメイク用に買った中古のアロハシャツ。自分で買ったのか買って貰ったのかも思い出せない。どっちでも同じだった。
私の口座の残高が足りなくなれば「給与を払え」と言えば良かった。
口座残高を減らしたくなくて「買って」とお願いした時に彼はよく「どっちが払っても同じことだ」と言っていたっけ。

誕生日プレゼント

 8回目と9回目の月命日の真ん中に彼の誕生日がある。彼に内緒で買い物をする物は誕生日プレゼントしか無かった。
 今年は何かしようかと考えてみたけれど何も思い浮かばなかった。何もしなくても怒る人じゃないし、そんな事よりも少しでも生活費にしろと叱られるのも解っている。
でも、何もしないでいると君が4つ下じゃなくなってしまいそうで怖い。

わかったこと


 8ヶ月経ってわかった事が1つある。今の私が前を向けないでいるのは、彼と出会う前の私も前なんて向けていなかったし、彼と出逢ってから私は彼の方を向いていた。

 そもそも人はそんなに前を向いて歩いているのだろうか?
私と彼は見つめ合っていなかったかも知れない。彼は仕事の方を向き、私はそんな彼の方を見ているのが好きだった。

私は前を向けていない。見つめる彼の姿ももうない。だけど、彼は今、私の方を見ている。そんな事を思う8ヶ月目。


オマケ

ダイソーの保冷袋

 普段リュック派なのでトートバッグはあまり出番がないかも。。と、ダイソーの保冷バックがすっぽり入るサイズにした。これなら持ち歩いても恥ずかしくない!
ギラギラしてなくて恥ずかしく無いかも知れないが、刺しゅう見られるの恥ずかしい...。


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