文化とは何か-01

文化ってどういう意味ですか? ――文化という単語に内包する「精神性」と「個別性」はどのように生じたのか――

 「日本文化」「文化芸術」「文化人」「食文化」「異文化」「文化財」等など……、「文化」という単語は、色んなニュアンスで用いられる多義的な単語だ。だからこそ、発する人、受け取る人によってその意味が異なってしまい、曖昧なままコミュニケーションがはかられていることが多いのではないか。

 この記事では、イギリスの哲学者・文芸批評家の巨人テリー・イーグルトンによる議論を中心に、「文化」という概念を整理してみたい。

“culture”(英)ないしは“Kultur”(独)の訳語として、明治時代頃から「文化」という単語が用いられるようになり、大正時代頃には一般的に。

そもそもcultureの語源を辿れば、「耕す/住む/崇拝する/守る」等の意味をもつラテン語の“colore”に行き着く。語源の時点で「耕す」の意味がある通り、cultureには「文化」だけでなく「教養・修養」「育成・耕作」という意味もある。噛み砕いていえば「自然な状態にあるものを耕し(=修養し)ているものが“culture”」となる。つまり、基本的にcultureとは人の手が入った人工物(もちろん自然を加工したものも含む)であり、そのため人の手が入っていない純粋な「自然」とは対置される。

――文化という単語に内包する「精神性」と「個別性」

もうひとつ「文化 culture」と対置される概念に「civilization」がある。基本的に「文明」と訳されるが「洗練」というニュアンスも含まれている。「文化/文明」という図式が意味するところは、時代や主張者によって大きく変わってきたので一概に断言は出来ないところが悩ましいが、主だったものとしては2つの傾向がある。

1)「文化=精神的」    /「文明=物質的
2)「文化=個別化・多様化」/「文明=普遍化・統一化

 まず前者、「文化/文明」という図式を「精神的/物質的」というニュアンスで捉える傾向について。19世紀において、civilizationは「現前にある社会生活」を指す言葉として使われていたが、リベラルな層がフランス語からcultureという単語を借用して「現前にはないあるべき社会生活」を指し示す言葉として使うようになる。そうなると、civilizationは現前にある社会生活をする上でのマナー(今でいうところのビジネスマナー、社会人としての常識のようなもの)というかなり実利的で、物質的な進歩を盲信するようなニュアンスを示すようになり、反対にcultureは精神的で高潔であるというニュアンスを示すようになる。これが文化に対する「高尚なイメージ」のはじまり

 次に後者、「文化/文明」という図式を「個別化・普遍化/多様化・画一化」というニュアンスで捉える傾向について。先ほどの、物質的な「文明 civilization」を重視する流れは、現在でいうところの「グローバリゼーション」に繋がり、全世界にわたり物事の画一化をもたらしてしまう。それに対抗するように、cultureという単語のもとに、それぞれの民族や地域のもつ文化の個別化と多様化を重視するようになる。これが「~文化」という生活様式や伝統等を表す用法のはじまり

高尚なcultureが主流だった頃、主流からはずれたところから登場したものを「サブカルチャー」と呼び、精神的でもなく、伝統的でもないと見なされたが、21世紀現在は(ハイ)カルチャーとの境目が曖昧に。

――まとめ

最初にも提示したが、②~④までの議論を図にすると次のようになる。このように整理すると「文化」の多義性を、スムーズに消化できるのではないだろうか。芸術やアートに関わる人であれば、避けては通れない「文化」という概念を、自分で咀嚼できるようになれば幸いである。

= = = = =

➡ 参考文献

テリー・イーグルトン著、大橋洋一訳『文化とは何か』(松柏社, 2006)


サポートいただいたお金は、新しいnoteへの投稿のために大切に使わせていただきます!